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第二章 行き着く先は

第二部

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「よ、ようこそ…おおすみへ…」

 佐貝艦長ですら顔を引きつらせている。少し低めに、手を出した。
 少女は首をかしげる。

「ん?ああ!お父様の言っていた交流方法ね」

 だが、すぐに思いついた様子で佐貝艦長と握手を交わした。
 後ろで、銃の金具の音がした。まさか、小銃を下したのか?梯子を上ってきたのが、少女だったとしても油断はできない。私は一応、「構え」の合図を背中に回した右手で行った。

「あ、紹介が遅れました。私は、海上自衛隊自衛艦隊掃海隊群第一輸送隊輸送艦おおすみ艦長、佐貝龍牙一等海佐です」
「これは、ご丁寧にありがとうございます。あたしは、ビルブァターニ帝政連邦神聖ロリ守護騎士旅団統括団長のパジャシュ・リュ・リンセント・マコト・キリ。パジャシュ、と気軽にお呼び下さい」

 佐貝艦長とパジャシュ・リュ・リンセント・マコト・キリ…パジャシュが、握手をしながら自己紹介をした。
 佐貝艦長は、幼い姿ながら旅団長を務めているパジャシュを睨んでいる。パジャシュの考えていることを探ろうとしているのか、はたまた嫉妬からか…
 パジャシュはそれに動じるどころか純粋な眼差しで佐貝艦長を見上げているように見える。私には、やはり幼気いたいけな少女にしか見えない。
 あと、私の聞き間違いかもしれないが…いや、聞き間違いであることは確実なのだが、パジャシュはその…自分が所属する旅団を神聖ロリ守護騎士旅団と言った。神聖ロリ守護騎士旅団……騎士旅団も十分衝撃的だが、なにより「ロリ」という単語に気を取られる。名前に「神聖」という言葉が入っている旅団に、「ロリ」という言葉が混入しているということはやはり日本人ではないのか。
 ………いや、判断基準がおかしいか。

「マコト・キリ……きりまこと…!」

 突然、後ろから声が近づいてきた。思わず9mm拳銃を抜く。
 後ろから迫ってきたのは、敵ではなかった。自衛官だ。第一小隊の第二小銃班、きりりつ。私は彼女のことをよく知っている。
 F-35Aの喪失事件。
 彼女の父親は、航空自衛隊の隊員だった。栄光の戦闘機パイロットであり、ブルーインパルスの所属実績も持っていた。そして、F-35Aに搭乗していたのも…
 桐三曹は、我を忘れているのか私を通り越してパジャシュの元へ向かおうとしている。
 パジャシュの名前にあった、"マコト・キリ"に反応したのだ。
 何らかの感情に支配されきっている桐三曹の89式小銃は、負い紐によって落ちてはいなかった。だが、小銃から手が離れている。これでは、落下の衝撃から引き起こる暴発の危険性がある。

「桐!!」

 私は、桐三曹の肩に手を触れようとした。しかし、桐三曹は私の手を払ってのけた。自衛官が狂戦士になるなど、あってはならない。
 そんな私の気持ちが届くはずもなく、桐三曹はパジャシュの頭を髪の毛ごと強引に掴んだ。
 一秒未満の誤差で、私の手が桐三曹に届いた。
 桐三曹は止まらない。

「お前か!お前が父さんを!…父さんをどこにやった!生きてるだろうなぁ!」

 涙をぼろぼろと流しながら、パジャシュに怒鳴る。
 思わず桐三曹を掴む手を、緩めそうになってしまった。
 私は、桐三曹をパジャシュから強引に引き剥がした。
 すると、梯子を勢いよく登る音がした。一人ではない。ニ、三人はいるだろう。
 案の定、顔にまで鎧を身に付けた大柄の人が二人、とても長く羨ましい程艶のある黒髪を持っている少女が一人、おおすみに乗り込んできた。その少女も鎧を身に付けている。
 怒鳴り声が聞こえたからだろう。彼らはパジャシュを自身の後ろに隠した。パジャシュは、頭を押さえている。
 うっすらと聞こえる、パジャシュとは違う女の声。ただし、言語は分からなかった。
 これでは不味いと悟った私は、仕方がなく桐三曹の足を崩し、甲板に体を押さえつけた。桐三曹の左腕を背中に回す。
 完全に現場は混乱している。
 相手の…騎士は、片手でギリギリ持てるくらいの大きさの剣の持ち手をしっかりと握っている。すぐに引き抜ける体勢だ。私達の方を見ているということは、展開中の部隊は気付かれていないということか。

 膠着こうちゃく状態。

 しばらく誰も動かなかった。
 膠着した空気の流れを変えたのは、まさかのパジャシュだった。

「あーあ、すっごく痛かった!」

 わざとらしく言いながら、大柄の人を押し退けて前へ出る。

「桐眞……あたしのお父様は、ビルブァターニの救世主よ」
「え?」

 桐三曹は、私によって押さえ付けられた体を少し浮かして、パジャシュの方に頭を回転させた。
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