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第一章 防衛省を揺るがす事件

第四部

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 内側に開いていた扉を四回ノックし入室した。

「中央即応連隊第一中隊隊長、新渡戸愛桜二等陸佐、入ります」
「同じく、第一小隊隊長、杉田夜春一等陸曹、入ります」
「は?!!」

 思わず、大きな声を出してしまう。
 私の驚きの声の大きさか、杉田が付いてきたからか分からないが、おおすみの艦長であろう人物と連隊長、誰だか知らない人までもが目と口が開いてしまっている。
 私は、忍者よろしく杉田に近付き、口を杉田の耳元へと運んだ。

「す、杉田……!なんで杉田も入ってくるの」
「え?だって、新渡戸隊長は「入るな」とは一言も発しませんでしたよ?」

 そこは分かれよ。空気読めよ。お前は呼ばれてないだろ。

「申し訳ございません!このひっつき虫が。すぐに追い出すので」
「いや、私としては構わないよ。この艦に乗っているということは、防衛省に騙された仲間だからな」
「「え?」」

 私と杉田は同時に聞き返した。

「騙された、ですか」

 連隊長が険しい表情を崩さず言った。
 だが、艦長が話を続ける間もなく扉を叩く音がした。

「第十二特科隊第一射中隊隊長、自在じざい薄荷はっか二等陸佐、失礼します」
「中央即応連隊施設中隊隊長、黒鎺くろはばき師明しみん二等陸佐、失礼……します……ど、どうかなさいましたか?」

 二人は、とても気まずいような困惑したかのような表情を浮かべている。

「では、皆さん。全員が集まったようなので、こちらのテーブルに」

 おおすみ艦長は、私たちを長机へと誘った。洋風な長机だ。

「では、早速ですが中即連の隊長さんの疑問にお答えするとしましょう」

 おおすみの艦長も腰掛けた。
 既に、艦長と連隊長との間では話し合っていたらしい。

「……でも先ずは、お互いを知らないと」

 艦長は咳払いをした。

「私は、海上自衛隊輸送艦おおすみ艦長、佐貝さがい龍牙りゅうが一等海佐です」

 この場の全員が立ち上がった。
 そして、流れるように連隊隊長が口を開く。

「陸上自衛隊中央即応連隊長巻口まきぐち華浦けうら一等陸佐」

 巻口隊長は十五度の敬礼を行う。
 全員がそれに応える。
 そして、沈黙。

「おいおい。ここで流れを止めちゃだめだよ~。第一中隊長さん」
「…あっ」

 一瞬、何のことか分からなかった。
 気付いた途端、巻口中隊の茶々で私の顔がどんどん熱くなる。
 多分、今の私の顔は真っ赤だ。流れを止めてしまった恥ずかしさで、頭がフリーズしそうだ。私の馬鹿さ加減が露見してしまう。
 自分の恥ずかしさをこらえて、諭されないように自己紹介をした。

「お、同じく、中央即応連隊第一中隊隊長の……新渡戸愛桜二等陸佐……」
「へ?なんて言ったか聞こえないな~」
「新渡戸愛桜!!二等陸佐!!」

 あー!もう巻口隊長は!なんでこんなにいじめるのかなぁ!

「新渡戸隊長が、可愛い!」

 ほらもう、杉田が調子に乗って……。
 巻口隊長、笑ってるし。まさか、中央即応連隊がこんな和やかな職場だったなんて。入隊当初は思いもしなかったよ。

「えっと……良いですか?」

 ああ、私の第一印象終わった。

「同じく中央即応連隊施設中隊長、黒鎺師明二等陸佐です」

 敬礼。
 その後、すぐに特科の中隊長が口を開く。

「第十二師団第十二特科隊第一射撃中隊長、自在薄荷と申します」

 当然、敬礼。
 すると、私が来た時からこの部屋にいたもう一人の自衛官が各隊長を見回す。

「次は、私ですかね?では……第一師団第一戦車大隊第二戦車中隊第一小隊隊長、斎藤さいとう誠重郎せいじゅうろう陸曹長です」

 見た目の渋い顔にマッチするしゃがれた声だ。歴戦の猛者さながらだ。
 そして、この場にいる誰よりも階級が低く、この場にいる誰よりも年齢が高い。

「さて。皆さんがお互いを認識することができたところで……いよいよ、巻口隊長さんの質問にお答えするというわけです」

 質問の内容は分からないが、みなが息をのんだ。

「私が何故、ここにいる皆さん、いやこの災害派遣に向かわされる全ての隊員が防衛省に騙されていると思ったのか。それには勿論、理由があります。巻口さん、中央即応連隊は何と言われて災害派遣に来ましたか?」
「そりゃ、遭難した自衛官の捜索、それに関連性があると思われる磁場の歪みの調査ですよ?……あれ?違いましたっけ?」
「いえいえ。あなたは、殆ど知らされているようですね」

 流石に当たり前の事を再確認されると、誰であろうと自分の記憶を疑ってしまうようだ。
 佐貝艦長は、巻口隊長の回答を否定しているようで言葉では肯定している。私の頭の処理も追いついていない。

「では、特科の自在さんは?」
「え、私も同じですけど……」

 佐貝艦長は、ハッとした。

「そういえば、同じ駐屯地なんでしたっけ?これは、失敬。では……駒門の戦車隊、斎藤さんは?」
「海上自衛隊と連携した、大規模な上陸展開訓練だと聞いた」

 え?訓練?まるで違うじゃないか。この人、適当に話しているんじゃ。

「成程、成程」

 佐貝艦長は笑い出す。

「あなたは、これが名義上だとは言え、れっきとした災害派遣だということすら聞かされていなかったわけか。それもそうだな。戦車が災害派遣だなんて、核の汚染くらいしか……噴火での出動例もありましたね」

 これまでは正直、佐貝艦長がおかしいとしか思えなかった。
 だが、防衛省に騙されているというのはあながち間違っていない、と言うか既に斎藤曹長は騙されている。
 災害派遣の内容が食い違うどころか、訓練と聞かされたらしい。

「最初は、我々第一小隊も驚きました。なにせ、横須賀に到着したら"災害派遣"の横断幕をかけた大量の車両がおおすみに入っていくんですから。そりゃそうですよね。災害派遣で戦車が出動だなんて、まず師団長に通る段階で怪しまれますもんね」

 ここで、また静寂が訪れる。

「それで、まぁ、最後に私なわけですが」

 佐貝艦長が、口を開く。

「……陸上自衛隊を磁場の特異点、仮称異世界へ輸送せよ。と、通達が来た」
「磁場の特異点?」
「い、異世界?!」

 流石に、驚きを隠せない。どういうことだ?数学での特異点は、多少聞いたことがあるが…

「その特異点っていうのは、重力の特異点のようなものなんですか?」

 黒鎺隊長の口から、何だか難しい言葉が出てきた。重力に特異点というものがあるの?

「当然なことを言わせてもらう。考え方が同じと言えば同じだ。逆に、同じではないと言えば同じではない」

 ん?え?

「ともかく、この通りだ。みんなの言うことが、まるで噛み合わない。斎藤さんに至っては、災害派遣ということすら伝えられていない。という事で、巻口隊長の質問の答えに近づくためにとあるものを聞こうじゃありませんか」

 佐貝艦長は、おもむろに小型録音再生機を取り出し、再生ボタンを押した。
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