1 / 3
第一章 間接侵略
第一話 最悪の始まり
しおりを挟む
2021年。つい先程まで、新型の感染症が世界に対して猛威を振るっていた。だが、ワクチンや特効薬の開発が順調に進み、未知の病気から既知の病気と変異した。
去年、安部首相が明言した通り、東京五輪は今年の7月開催が現実となりつつあった。
僕は体調こそ崩したことはあったが、感染したと認定されることはなく、普通に暮らして今を迎えている。自分の勤める会社は、休業補償等を受け取ったらしく、長い間家にずっといたが給料は貰えたので難なく……とまではいかないが、生きる上必要なものは買えた。
感染症の脅威という、未曽有の世界的大災害の影響は多大なものだ。
最近ようやく、様々なお店が再び開店し経済も回りやすくなり始めた。復興はこれからだ。
「次は秋葉原、秋葉原、お出口は左側です。総武線各駅停車、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレス線は、お乗り換えです」
今日も取り戻しつつある、いつもの日常を全うしていく所存だ。
しかし、やっぱり会社としては新型感染症不況の分を取り返したいと思うのが当たり前で、残業が確定しているのに出社するのは億劫なものだ。だけど、感染症が問題になっていた時は、休ませる、というより会社が「自宅待機命令」を出してくれたから、会社を一概に責め立てるのもおかしい話だ。
いつも通り、人が溢れ返り狭くなった通路を踏みしめる。
久し振りの出勤にはなるが、街行く人の数は気持ち少ない感じがするだけで"いつも通り"だ。
相変わらずどでかくこの秋葉原の地に居座るビルの口に自ら飛び込んだ。
閉まりそうなエレベーターを見て、
「乗りまーす!」
と声を出して走った。ここで構わず閉める人など……意外と多いから困る。まあ、今回はきちんと待ってくれた。
「すみません。はぁ……ありがとうございます」
少し息が乱れながらも、待って下さったお礼を述べた。日本人として礼節をわきまえなくては。
勤め先が入る階層で降り、自分のデスクへ向かう。
「おはようございます」
忘れかけていた挨拶を。
当然ながらみんな返してくれる。
「宇都宮、お前は大丈夫だったんか?」
前のデスクを陣取る、名寄が挨拶に一言加えてきた。彼とは、この会社で知り合ったのだが、色々な接点があり休み中も結構連絡を取り合った仲だ。
「何とかね。今こうして立ってる」
っと。これ以上何もしないで喋っているとさぼりになってしまう。
滑りの良いキャスターが付いた椅子に座り、流れるようにパソコンの電源を入れた。出社しての仕事を数箇月休んでも、体が動きを覚えていた。
BIOS、そしてOSが起動してログインしたらやる事は一つ。アプリを開いてYouTubeを開く事だ。
バレないようにYouTubeの方のウィンドウは小さくする。ここで言う「小さく」とは、モニタの四分の一だ。
まあ、仕事もきちんとこなせば大丈夫でしょう。げぼかわ系ドラゴンVirtual Liverの作業配信を見ながら作業すると、自分の作業効率が上がると科学的に証明されている。されていない。
「……ぁ。う……みや。おい!」
誰かが声を荒げている気がして、画面に張り付いた顔を引っぺがした。
椅子から立った名寄が、耳から何かを引き抜くようなジェスチャーをしている。「イヤホンを外せ」と言っているんだろう。
げぼかわドラゴンの声の摂取をやめるのは少し寂しいが、友人関係を疎かにしたくない。
「警察。なんか今日、サイレン多くないか?」
そう言われると、耳を澄まさずにはいられない。
確かに、ビル等に反響したからかは分からないが、気持ち悪いほどうねうねした警察のサイレンの音が聞こえる。
「……あー」
無反応と勘違いされないように、声をわざと漏らした。そして、カーソルを今いるタブの上の方にあるリンクが記されているところ、そこを左クリックした。
顔を名寄に向け、後は画面は見ずにバックスペースキーを一回だけ押して「東京 今日 事件」と、簡単な検索をした。
その間、
「何かあったの?」
と、一応名寄にも聞いてみる。
名寄は首を傾げながら答える。
「知らんなぁ」
名寄からは当然の回答が返ってくる。
とっくに検索は終わっているだろうと思い、モニタを見た。
一番トップに出てきたのは、普段語句の意味を調べる目的で利用するサイトだ。様々なニュースサイトの記事が統合され形成されている。だが、それらの見出しは揃って「デモ隊」と「国会議事堂」と「包囲」という語を入れていた。
その中から、自分が最も信頼を置く日本商業新聞の記事を選んだ。
デモ隊、国会議事堂を不法包囲
国会議事堂を周回する形で抗議活動を行っていた、憲法改正反対団体が1日9時ごろ、事前に提出した許可証を無視し国会議事堂を包囲した。団体は、そのままそこに居座り、10時を回った現在も包囲を解いていない。
付近を警備していた警視庁の機動部隊が、初動対応を行っているが未だ解決のめどはたっていない。
警視庁は、由々しき事態だ、とし解決を急いでいる。
包囲はいつもの事、と思ったが、不法。現代日本で未だかつて、国会がデモ隊の行進以外で包囲された事はあったであろうか?
「国会が包囲されたらしい」
僕はモニタから目を離さず声を漏らした。
「そんなに不味いの?」
名寄はそんなことを言う。しかし当然と言ってしまえばそうだ。僕は、「不法」と発していない。
「不法だってさ」
「え?それって何?謀反?」
謀反。まあ、謀反だろう。しかし、古風な言い方のように聞こえてしまった。
名寄は、何を思ったのか僕のデスクの方へ回ってきた。僕がネットニュースを見ていると悟ったからだ。
「はいはい……成程ね。まあ、どうせ今回もプロ市民かなんかでしょ」
名寄は一通り目を通して、一言言った。名寄が言った「プロ市民」とは、間違いなく左翼活動家の事だろう。巷ではそう言うらしい。
去年、安部首相が明言した通り、東京五輪は今年の7月開催が現実となりつつあった。
僕は体調こそ崩したことはあったが、感染したと認定されることはなく、普通に暮らして今を迎えている。自分の勤める会社は、休業補償等を受け取ったらしく、長い間家にずっといたが給料は貰えたので難なく……とまではいかないが、生きる上必要なものは買えた。
感染症の脅威という、未曽有の世界的大災害の影響は多大なものだ。
最近ようやく、様々なお店が再び開店し経済も回りやすくなり始めた。復興はこれからだ。
「次は秋葉原、秋葉原、お出口は左側です。総武線各駅停車、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレス線は、お乗り換えです」
今日も取り戻しつつある、いつもの日常を全うしていく所存だ。
しかし、やっぱり会社としては新型感染症不況の分を取り返したいと思うのが当たり前で、残業が確定しているのに出社するのは億劫なものだ。だけど、感染症が問題になっていた時は、休ませる、というより会社が「自宅待機命令」を出してくれたから、会社を一概に責め立てるのもおかしい話だ。
いつも通り、人が溢れ返り狭くなった通路を踏みしめる。
久し振りの出勤にはなるが、街行く人の数は気持ち少ない感じがするだけで"いつも通り"だ。
相変わらずどでかくこの秋葉原の地に居座るビルの口に自ら飛び込んだ。
閉まりそうなエレベーターを見て、
「乗りまーす!」
と声を出して走った。ここで構わず閉める人など……意外と多いから困る。まあ、今回はきちんと待ってくれた。
「すみません。はぁ……ありがとうございます」
少し息が乱れながらも、待って下さったお礼を述べた。日本人として礼節をわきまえなくては。
勤め先が入る階層で降り、自分のデスクへ向かう。
「おはようございます」
忘れかけていた挨拶を。
当然ながらみんな返してくれる。
「宇都宮、お前は大丈夫だったんか?」
前のデスクを陣取る、名寄が挨拶に一言加えてきた。彼とは、この会社で知り合ったのだが、色々な接点があり休み中も結構連絡を取り合った仲だ。
「何とかね。今こうして立ってる」
っと。これ以上何もしないで喋っているとさぼりになってしまう。
滑りの良いキャスターが付いた椅子に座り、流れるようにパソコンの電源を入れた。出社しての仕事を数箇月休んでも、体が動きを覚えていた。
BIOS、そしてOSが起動してログインしたらやる事は一つ。アプリを開いてYouTubeを開く事だ。
バレないようにYouTubeの方のウィンドウは小さくする。ここで言う「小さく」とは、モニタの四分の一だ。
まあ、仕事もきちんとこなせば大丈夫でしょう。げぼかわ系ドラゴンVirtual Liverの作業配信を見ながら作業すると、自分の作業効率が上がると科学的に証明されている。されていない。
「……ぁ。う……みや。おい!」
誰かが声を荒げている気がして、画面に張り付いた顔を引っぺがした。
椅子から立った名寄が、耳から何かを引き抜くようなジェスチャーをしている。「イヤホンを外せ」と言っているんだろう。
げぼかわドラゴンの声の摂取をやめるのは少し寂しいが、友人関係を疎かにしたくない。
「警察。なんか今日、サイレン多くないか?」
そう言われると、耳を澄まさずにはいられない。
確かに、ビル等に反響したからかは分からないが、気持ち悪いほどうねうねした警察のサイレンの音が聞こえる。
「……あー」
無反応と勘違いされないように、声をわざと漏らした。そして、カーソルを今いるタブの上の方にあるリンクが記されているところ、そこを左クリックした。
顔を名寄に向け、後は画面は見ずにバックスペースキーを一回だけ押して「東京 今日 事件」と、簡単な検索をした。
その間、
「何かあったの?」
と、一応名寄にも聞いてみる。
名寄は首を傾げながら答える。
「知らんなぁ」
名寄からは当然の回答が返ってくる。
とっくに検索は終わっているだろうと思い、モニタを見た。
一番トップに出てきたのは、普段語句の意味を調べる目的で利用するサイトだ。様々なニュースサイトの記事が統合され形成されている。だが、それらの見出しは揃って「デモ隊」と「国会議事堂」と「包囲」という語を入れていた。
その中から、自分が最も信頼を置く日本商業新聞の記事を選んだ。
デモ隊、国会議事堂を不法包囲
国会議事堂を周回する形で抗議活動を行っていた、憲法改正反対団体が1日9時ごろ、事前に提出した許可証を無視し国会議事堂を包囲した。団体は、そのままそこに居座り、10時を回った現在も包囲を解いていない。
付近を警備していた警視庁の機動部隊が、初動対応を行っているが未だ解決のめどはたっていない。
警視庁は、由々しき事態だ、とし解決を急いでいる。
包囲はいつもの事、と思ったが、不法。現代日本で未だかつて、国会がデモ隊の行進以外で包囲された事はあったであろうか?
「国会が包囲されたらしい」
僕はモニタから目を離さず声を漏らした。
「そんなに不味いの?」
名寄はそんなことを言う。しかし当然と言ってしまえばそうだ。僕は、「不法」と発していない。
「不法だってさ」
「え?それって何?謀反?」
謀反。まあ、謀反だろう。しかし、古風な言い方のように聞こえてしまった。
名寄は、何を思ったのか僕のデスクの方へ回ってきた。僕がネットニュースを見ていると悟ったからだ。
「はいはい……成程ね。まあ、どうせ今回もプロ市民かなんかでしょ」
名寄は一通り目を通して、一言言った。名寄が言った「プロ市民」とは、間違いなく左翼活動家の事だろう。巷ではそう言うらしい。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。
其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。
海上自衛隊版、出しました
→https://ncode.syosetu.com/n3744fn/
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。
「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。
→https://ncode.syosetu.com/n3570fj/
「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。
→https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
1514億4000万円を失った自衛隊、派遣支援す
ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一箇月。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。
対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。
これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。
防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。
損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。
これは、「1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す(https://ncode.syosetu.com/n3570fj/)」の言わば海上自衛隊版です。アルファポリスにおいても公開させていただいております。
※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈りいたします。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる