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第89話 先っぽだけ
しおりを挟む「モモカさん、討伐イベントはいつからですか?」
「い、1ヶ月後から2週間と書いてありました」
「討伐イベントについてレクチャーは受けていますか?」
「は、はい。なんとなくは」
モモカに問い詰めるかのように質問していた佐藤女史が、眼鏡をクイ上げしながら更に続ける。
「基本的に運営から界の主への賞金イベントなのですが討伐対象によって賞金が変わるため、恐らくですがホクダイ界は上級に、ドーリ界や他の初級界も難度を上げてくる可能性が高いです」
「は、はぁ」
「そして現金が乱れ飛びます」
「えっ?」
……は?
「討伐イベントの本質は、界へのプレイヤーの誘致合戦です。界の主は討伐賞金を見込んでプレイヤーに討伐賞金を出すのが定石となっています」
界の主に賞金が出るから、界の主はプレイヤーに現金で賞金を出すのか……。そしてプレイヤーを集めて敵を倒してもらうと。
「1ヶ月後であればある意味で良い機会かもしれません。レートや支払いタイミングでホクダイ界に競り勝ち、高レベルプレイヤーをイースト界に引き込んではどうでしょうか。斉藤社長?」
女帝の矛先がこちらにきてしまった。
「冒険者ギルドとしてできることはなんですか?」
「運営から界の主への支払いはイベント終了後に暗号通貨で行われます。そのため資金力のない界はプレイヤーへの支払いも後払いになったり、討伐賞金を低めにしたりするのですが、イーストの主であるモモカさんに冒険者ギルドから融資を行うことで即時支払いが可能かと。プレイヤーにとってかなりのインセンティブになります」
EP換金は諦めたが金貸しはありなのか……。
「上手く回せば、他の界の主とも優位に立てそうです。信用面で」
他の界にも融資をちらつかせておいて、融資枠をいくらにするかや融資自体をするかしないかの決定するのはこちらだから、というわけか。黒くなってきたが、アリかナシかでいうとアリだろう。
なるほどギルド……冒険者ギルド合同会社は協同組合でこそないが、似たり寄ったりの「助け合い」構造が作れるわけか。一歩間違うと暗黒面に堕ちそうだ。
「金額はどのくらいあればいいんですかね?」
「とりあえず1千万円ほどコミットすればよろしいかと」
さらりと言ってのける佐藤女史だが、隣のモモカは既に顔面蒼白だ。
いたいけなロリっ娘モモカを、借金漬けにする悪い大人の会話だと思われてしまっている。
「落ち着けモモカ。コミットメントラインは貸し付けると決まったわけじゃない。言ってくれればいつでも貸せますよという数字だ」
「しゃ、借金はいやですぅ」
「困ったら立て替えるだけ、立て替えるだけだから」
そんなセリフを涙目のモモカに吐いておきながら、先っぽだけ、先っぽだけだからという言い訳に似ているなと思った。
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