上 下
74 / 108

第74話 イースト攻略ボス戦2

しおりを挟む
 
 ジグザグと足止めしていた人達を躱し、地を滑るように殺到する3頭の炎狐。

 マズいと思い、バックステップした時には既に体当たりモーションを終えている1頭の炎狐がちらりとスマホに写っていた。

 更にバックステップで少しでも距離を取りつつ、ステータスを確認するとたった一撃でHPが14も持っていかれている。

―STATUS―
 Name: さいとー
 HP: 36 / 50
 MP: 89 / 196
 LC: 65
 EP: 13

 念のため、HP即時回復ポーションも一つだけ持っているが3頭に囲まれたら瞬殺だ。LCを防具ではなくポーションを持つために費やしている俺の装甲は相変わらず紙装甲だった。

 広場を小幅なバックステップで戦線から離れつつあるが敵意は変わらず。再び赤い炎達が地を滑る。

 しかし、俺はあえてのMP即時回復ポーションを使用する。

「さいとーさん!」
「なんとかします! ヒグマを!」

 皆の心配する声も聞こえたが、今はここに集中だ。

 1人後ろ向きに飛び跳ねながら、狙うは敵が重なる瞬間。

 そう、攻撃の瞬間の今だ!

「レディ、ファイアアロー! レディ、ファイアアロー! レディ、ファイアアロー!」

 攻撃の瞬間を見極め、バックステップで避けながら射線を確保し、ファイアアローを3連発。恐ろしい勢いでMPも減るが、3頭のうち1頭が沈黙。火の粉を散らした。

 ――イケる。やはり、ボスでなければ詠唱破棄でゴリ押しできる。

 再び方向を変え、敵が重なるように誘うように移動する。残り2頭になり、先程までのプレッシャーはもう感じない。

「レディ、ファイアアロー! レディ、ファイアアロー! レディ、ファイアアロー!」

 念のため3連発したが、炎狐の姿は綺麗さっぱり消え失せていた。


 ふうと一息吐き、顔を上げるとみんなが口を開けてこちらを眺めていた。とがめるように視線を返すと、皆何かを思い出したようにきびすを返し一斉にヒグマに群がっていった。


 ◆◆◆


「モモちゃん、界主就任おめでとう! みんなもお疲れ!」
「「おめでとう!」」「お疲れー」
「あ、ありがとうございますっ! お疲れ様です!」

 席が足らず、立ち飲み状態の餃子バーにビールジョッキを打ち鳴らす音が響く。

 イースト攻略は完勝。無事、モモカがイースト界の主になったようだ。

 何人か燃えてしまっていたが消火も余裕を持って間に合い、ポーションの使用数も想定より少なく済んだ。上出来だろうと思う。

「今日はMVPのさいとーさんの奢りだから! じゃんじゃん飲んで売上に貢献してね!」

 心なしかマスターの機嫌が良い。これでイーストで活動するプレイヤーお客さんが増えるのかも知れない。多分そう。

「えーと、自分の奢りというか冒険者ギルドというものを立ち上げまして。そちらの話も少しさせていただければと……」

「よっ、社長!」
「「社長! ゴチになります!」」


 ……まぁ、今日は冒険者ギルドが何となくでも認知されればいいか。めでたい席だ。長々と無粋な真似はすまい。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...