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第8話
しおりを挟む槍の修理がてら迷宮街の換金所に来ていた。
ごろごろと拳大の魔石を取り出し、トレーに乗せる。持ち込んだのはボススライム1個と猫の魔石14個、ゴブリン1個、スライム1個だ。
受付の女性は少し驚いた顔を見せたがにっこり笑顔だ。
銀貨15枚と銅貨7枚がトレーに乗って返ってきたが何か言いたげだ。言葉が分からないのはもう知られているらしい。
「マンデ」
銀貨を1枚つまみ上げてマンデを告げる。
「マジデ」
もう1枚つまみ上げる。
「マフデ」
5枚掴む。頷く受付嬢。
銀貨を戻し、15枚の銀貨を指差して首を傾げてみる。
「ソレ、マフデ」
「それ、まふで」
ソレが十の桁なんだろうか。ついでに3枚掴み。残りの12枚を指差して「ソレ、マジデ?」と聞いてみるとうんうんと頷いてくれた。
「それ、それ?」
10枚がもう一つだとどうなのかと指でジェスチャーだ。
「ソジ」
「そじ」
なるほど。規則性が見えてきたぞ。
「それ、それ、それ、それ、それ。ソフ?」
「ライライ!」
「なるほーラマダー」
「ラマダー」
ヒアリングに困らない発音なのは助かる。とりあえず少しずつ数字が見えてきた。買い物に困らない程度には早くなりたい。
換金所を後にし、槍の商店へ。
「マンデ、ソジ」
「ソジ?!」
無言で傷ついた槍を眺めた店主が告げたのは、元々より高い銀貨20枚だった。何で高くなるんや……。
渋々銀貨20枚を差し出すと、穂先を取り外し金属製の柄に付け換えてくれた。前のより若干細いが全て金属性だ。少し長くなったが重さはあまり変わらない。
「いい感じ」
振った感じ、違和感もない。これならそうそう折られることもないだろう。
無愛想な店主にお礼を言い、店を後にした。
銀貨5枚食堂に寄ろうかと思ったが馬車が店の前に並んでいたので諦め、ぶらぶらする。
こっちにも少し慣れてきた。武装して歩く人間を大通りで襲う人も流石にいない。路地裏に行かなければ比較的安全だ。
そして、遂に見つけてしまった。
「奴隷市か」
繁華街に向かう通りの途中を曲がったところに、首輪を付けたガリガリの男達を売っているテントが並んでいた。
「やっぱりあるんだな……」
横目に見ながら通り過ぎる。日本にも戦国時代に乱取りなんてものがあったくらいだ。武力が物を言うこの世界にもあってもおかしくはない。
おかしくはないが……物語のように女の子なんて売っていなかった。2往復したけど男性老人ばかりだ。
せっかく診断が使えるのに!病気の女奴隷を安く買って治して「さすがご主人様!」展開は日本のアニメの常識なのに!
それでも観察していたのは、隷属の首輪的な魔法的な何かで裏切れない仕組みがあるのなら荷物持ちや戦力として購入も検討できるからだ。言葉が通じないけど。
売買風景を見る限りでは銀貨数枚渡してそのまま鎖を引いて連れて行っていた。奴隷を縛る魔法やスキルはなさそうだ。
「まーそうだよねー」
魔法的な何かがあったらきっと高額商品だろうし、露店売りなんかしないわな。
騙されて隷属させられることはない。確認できて良かったと思おう。
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