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第3話

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0016



「うーむ。何を書くか」

 オークションアプリやフリマアプリで売ってみるのに鈍器を買ってきた。重さを量ったり写真を撮ったりと悪戦苦闘だ。紹介文にも困っていた。

 本物の武器……陳腐だ。
 異世界で買ってきました……とても怪しい。
 蔵から出てきた……メイスは日本の蔵からは出てこないだろう。

 7kgくらいあるので10kgのダンベルと写真も撮ろう。

 大量に仕入れできる物ではないのでお値段はフリマアプリで25,000円。売れたら防刃Tシャツ買おう。売れなかったら1円スタートのオークションだ。

「鈍、鈍、鈍、鈍器ぃ、鈍器ぃ買うてぇ」

 もう23時だ。寝よう。





 注文が入ったか気になり早起きしたが注文なんて入っていなかった。

「中古品の方がそれっぽいかな……」

 使っているメイスは少し愛着が湧いていた。

 まぁもう少し様子を見よう。

 冷凍していたご飯を電子レンジで温め、TKGで流し込む。

 向こうでトイレが使えたら楽なのにと考えながらコンビニで用を足し、軽食を買い込む。2層も大分マッピングが終わったので今日はそろそろ3層挑戦だ。そしてレベル10を目指す。

 家に戻り、装備を整えると早速2層へ。

 2層から3層の階段へは20分くらいだ。ゴブリンは索敵能力が高いくせにこちらを見つけると鳴き声を上げてしまうので先制攻撃もされることなく、楽な狩りだ。他のパーティにも気をつけながら道中で8匹ほど撲殺駆除。


 3層へ下りる。

 戦闘音は聞こえない。匂いも2層と変わりない。

 左手法でマッピングしながら慎重に進む。

「「ギャギャッ」」

 うーん。聞き慣れた警戒音。

 出てきたのはゴブリン2匹だった。棍棒と槍のペアだ。

 武器が変わっても突っ込んでくるだけなのは変わりがなかったので順番に撲殺。

「こりゃー。経験値効率悪いなぁ」

 沢山倒せばもう1レベルは上がるだろうけど同じ敵ばかりは効率が悪い。4層への階段を見つけたらここはスルーだな。
 
 1匹銅貨2枚と割り切ってしまおう。


 そんなこんなで階段を探しているうちにレベルアップした。

 目標まで後2レベル。



0017



 4層へ下りる。休憩を挟みながら魔石の数を数えるとゴブリン討伐数は26匹。銀貨5枚と考えると結構な数だ。

 戦闘音なし。匂いは……酸っぱい?

 いや、足音が聞こえる。

 落ち着いた足音なので帰還するパーティなのだろう。

 迷ったが、マスクを着け階段横に露店を広げた。100円ショップで補充していたLEDランタン10個に懐中電灯2個だ。

 ランタンの明かりに誘われるように現れたのはお客さん第一号のむさ苦しい男達。

「マジで」

 盗賊ではないことに安堵しながら商売モードだ。


 お調子者がランタンを独り占めしようとして周りから怒られたりとそんな一幕もあったがあっさり完売。プレゼントするなり転売するなり好きにしてください。銀貨24枚、ボッタクリ商店ボロい。


 気を引き締め直して探索開始だ。

 左手を壁に付けながら、右手にはメイスだ。

 敵の気配が全然ない。

 進む。

 交差を左へ左へ。


 ふと、メイスが重くなった気がして目をやるとクラゲの触手のようなものが纏わりついていた。

「いつの間にっ!」

 バックステップで引き剥がすと全体像が見えた。

 1mくらいの楕円形。透明な体に核のような物が中心部に浮いている。動きは速くない。

「スライムか」

 ゲームでは雑魚の代名詞だが、取り込まれたら窒息だろう。何より暗がりでその透明感は反則だ。

 そして大体鈍器が効きにくい。

 伸ばされた触手を払い潰しても痛手になっている気がしない。

「核だよな」

 躱しながら近づくと、細くて小さな触手が無数に生み出される。スピードがないとはいえ中々厄介だ。

 メイスのリーチだと接触するくらいまで近づかないと核までは届かない。届いたとしても鈍器じゃ核だけ避けられそうだ。

「ハバネロソース!」

 水鉄砲に充填された10万スコヴィルが火を噴く。こちらの鼻粘膜まで刺激してくるがスライムは多少濁っただけで微動だにしない。

「ガハッ」

 撤収だ。こんなのに囲まれたら手の打ちようがない。

 咽せながら涙を流し走る。敏捷が向上した俺は風のように3層へと逃げ帰った。

 後悔していた。

 ハバネロソースは諸刃の剣……。

 こんなん飛び散らかしたらあかんやろ!

 涙と鼻水が治るまで階段で後悔し続けた。痛い!熱い!



0018


「槍かな……」

 地上に出て、換金屋で銀貨6枚ほど追加で手に入れた俺は武器屋を散策していた。

 今日の狩りは散々だった。

 レベルは8のままだ。水鉄砲でハバネロソースは封印だ。せめて水風船に入れるとか近くで飛び散らないようにしないとこちらのダメージもやばい。劇物を扱うなら手袋とマスクとゴーグル必須だ。

 スライムは核を突きで仕留めるのが良さそう。とはいえ長過ぎる武器は取り扱いが難しそうだ。

 店主に予算銀貨10枚を見せ、買えるものを指差してもらうがしっくりこない。柄がただの棒だったり、金属の物は重過ぎる感じがしたのだ。


「剣はどうかな」
 
 槍の店を後にし、複数軒ある剣の店を順番に覗いていく。

 見ているだけで楽しいが、銀貨10枚ではあまり良いものが見つからない。提示される物は刃渡り3~40cmの短剣やショートソードが主だったがリーチに不安がある。頑丈そうではあるが街中仕様だろう。銀貨もボッタクリ露店で30枚くらいはあるので予算を増やしてもいいかもしれない。

 最後の店の入り口を入ったところには傘立てのようなものがあり、複数の剣がワゴンセールのように売られている。

「こういうところに伝説の剣が……」


 あった。伝説の剣はなかったが、日本刀らしき細身で反りがある剣が古ぼけた鞘に包まれ場違い感に身を縮めながら立ち尽くしていた。

 鞘から抜いてみるとサビが浮きまくり、欠けも潰れた部分もところどころあるが日本刀だ。掲げて刃を見ると歪みはない。何とか使えそうだ。

「ハウマッチ?」

 奥にいたやる気のない店主に刀を指差し聞いてみる。

「マフデ」

 銀貨5枚!買う!


 まずは銀貨4枚を取り出し顔色を窺う。

「まけてくれ」

 俺のドスの効いた日本語に、店主は銀貨を受け取り重々しく頷いた。



 いい買い物をした。

 今日は良いところがなかったが最後にいい買い物ができた。ハバネロソースは完全に自業自得なんだけどもハバネロソースを使って楽勝みたいな物語には苦言を呈したいマジで。いや、それも人のせいだけど。フィクションを信じた俺が悪いのだ。


 沈みゆく夕日を眺めながら、そういえば腹が減ったなと家路を急ぐのだった。


 たまには良い物でも食べよう。野菜食べねば。




0019



 モヤシが山のように積まれた極太ラーメンをすすりながら、日本刀、手入れで検索してみる。

 研師に刀研ぎを依頼すると刃渡り70cmくらいのマイ刀だと15~35万円。高い。尚且つ鞘もサビが移っているので作り直し。とても高い。

 ただ、これは美術品として美しい見た目を保つための美術研磨の価格だ。

 実用する分には研磨傷ができようが鎬地までピッカピカになろうが問題はない。中部まで錆が入り込んでなければそれでいい。振って折れるようだと切なさが止まらない。
 薄身な日本刀は手入れをキチンとしないとすぐ錆びて耐久性が落ちやすいから売れずに投げ売りされていたのかもしれない。肉厚で半分鈍器な西洋剣とはメンテナンスコストが比べ物にはならない。


 濃い醤油味のスープをニンニク混じりのモヤシと麺で絡め、喰らう。ゴツゴツとした麺とシャキシャキしたモヤシをすすり喰らう。

 食べ切れなかったこの店のラーメンもレベルアップで完勝できるようになっていた。いける。もうワンランク上もいけそうだ。


「日本刀、包丁、切れ味で検索」

 やはりと言うか、単純には日本刀より包丁の方が切れる。用途が違うのだ。日本刀の刃の付け方も用途によって異なる。切れ味と耐久力の兼ね合いで小刃(糸刃)の角度を変えるようだ。

 マイポン刀の刀身は継戦能力重視、切先で刺突メインで運用したい。斬れる間合いは下手するとメイスより近そうなのだ。

 とりあえずホームセンターで錆落としと研ぐ道具を探そう。日本刀でも使えるシャープナーとかないだろうか。刀身長い両刃とか砥石で上手く研げる気がしない。


 ゲップのニンニク臭に勝利の余韻を感じながら店を後にした。



 
 卓上シャープナーで12°か20°で研げるシャープナーがあったので喜び勇んで買ってみたものの、真っ直ぐ引くのが想像以上に難しくて勢い余って床まで斬ってしまった。刀を固定してシャープナーを動かせばいいじゃないって思い付いたが捲れ返った部分で引っかかり、叩いて直そうとかそれならスティックタイプのシャープナーでええやんってなって結果ホームセンターを3往復する羽目になり、やっぱり槍で良かったんじゃない?となんだか負けた気分になった。


 フリマアプリで出していた鈍器もまだ売れ残っていた。

 鈍器めっちゃええのに!メンテ楽だし!



0020



 とりあえず見た目はピカピカになった刀を迷宮で振ってみる。

 袈裟斬りからの左逆袈裟斬り、左袈裟斬りからの逆袈裟斬り、一文字からの逆一文字。振り上げて真向斬り。

 折れない。硬すぎず柔らかすぎず、ガタつきもなくしっかりとした手応え。幸い、特に折れそうな不安感はなかった。

 マイ刀には樋という溝がないので振っても風切り音は控えめ。手を刺さないように慎重に鞘に戻す。いい感じだ。

 この迷宮は敵が消えてなくなるからいいけど、時代劇なんかで人を斬った後、血振りして鞘に収めると鞘に血糊だのがついて使えなくなる気がする。

「ファンタジー迷宮で良かった」

 衝動買いした刀だったが手入れの煩雑さに既に持て余しつつあった。


 気を取り直して、2層に下りる。

 メイスとはまた違う間合いに戸惑ったが、刃筋を立てて振れば折れたり曲がったりはしない。メイスより半歩踏み込めばゴブリンの首が飛ぶ。

 素人のまさに付け焼き刃の研ぎでもこの切れ味だ。レベルアップした身体能力で振るえば達人にでもなったかのようだ。刀と敏捷向上のパッシブスキルとの相性も良い。

 3層に下りる。

 今度は動画で予習しておいた刺突のみでゴブリンを仕留めていく。

 自分の動きが最適化されていくのが分かる。無駄を省き、突き入れ、素早く引戻す。

 調子に乗ってしまっていたのか魔石を拾う時に刀が太ももに当たり少し切ってしまった。

 初めての負傷。絆創膏でことは足りた。

 鞘に戻すか迷いどころだ。


 4層に下りる。本番だ。

 抜き身の刀を持ちつつ見落としのないように進む。

 ゆらりと視界の端でなにかが揺れる。

 いた。

 相変わらず暗がりで視認しにくいほぼ透明ボディ。先日は手も足も出なかったスライムだ。

 伸ばしつつあった触手を逆袈裟で切り飛ばす。

「チェストォッ!」

 振り上げた刀を脇に引き戻し、踏み込みと同時に半透明の核へと突き刺した。


『魂強度上昇。職業、武士を解放しました』

「そこ侍じゃないんだ」

 思わずつっこんだ。まぁ武士でも侍でもいいんだけども。

 べちゃりと破れたスライムはゴブリンより大きい魔石を残して消えていった。

「よし、後1レベル!」


 目標まで残り1レベルとなった俺は、スライムをサーチアンド斬殺した。突きだけでなく斬ることでも倒せたのは刀のお陰だろう。刀良い。

 3匹で目標達成。レベル10になったので早速迷宮街に向かう。



0021



「神様、回復魔法を使えるようになりたいです」

 真っ直ぐに教会に向かった俺は合掌していた。

『あなたの魂強度は10です。職業技能はマニュアルオペレーションで選択してください。残りスキルポイントは9です。職業回復士の解放は……貢献度条件クリア。職業、回復士を解放しました』

 農民 - 持久力向上(必要1SP)
 武闘家 - 動体視力向上(必要2SP)
 シーフ - 敏捷向上
       身体制御向上 - (必要2SP)
       暗視向上 - (必要2SP)
 戦士 - 強撃(必要2SP)
 武士 - 迅動(必要2SP)
 回復士 - 小治癒(必要2SP)
 残りSP 9

 きた。回復士!レベル10でいけた!もちろん回復士に振っちゃいます。小治癒は特定箇所の自然治癒で3日間分の回復だった。3日間分って結構微妙。

 回復士 - 小治癒
       小解毒 - (必要2SP)
       魔力向上 - (必要2SP)
 残りSP 7

 うーむ。どっちも必要そう。どうやら解毒は麻痺なども含むようだ。小解毒はほっといても1日2日で治るような軽いもののみが対象。ぽちっとな。

 回復士 - 小治癒
       小解毒
         中解毒 - (必要4SP)
         診断 - (必要4SP)
       魔力向上 - (必要2SP)
 残りSP 5

 中解毒で自然回復する毒なら大体カバー。大解毒がほっといても治らない毒まで治るのかな……。診断は本人の知識ベースだけど状態がわかる……あれ、これよくあるステータス見るやつじゃない?

 回復士 - 小治癒
       小解毒
         中解毒 - (必要4SP)
         診断
           魔法薬作成 - (必要8SP)
       魔力向上 - (必要2SP)
 残りSP 1

 結構、必要SPが重い。節約していたつもりだがあっという間にSPがもうない。


小治癒ローヒール!からの診断ダイアグノーシス!」

 気分はステータスオープン!


 ●状態: 潜在性壊血病



 自分を診断してみたらなんかやばそうな字面だけが出てきた。ステータスなんて無かった。

「帰ろう」


 急ぎ足で自宅まで帰り、壊血病で検索してみる。大航海時代に船員がかかったことで有名なビタミンC欠乏症。要は野菜が足りてないってことかな?昨日食べたのに……。

「毎日、もやし食えってことか」

 毎日もやしはさておき、サプリでも手当てできるので潜在性のうちに改善しておこう。

 自分で切った太ももの傷はかさぶたになっていた。小治癒ローヒールの3日間分治癒はゲームのように使い勝手はよくないが、意外と範囲が広いのかもしれない。縫わなくてもいい傷なら大体止血にはなる。これは案外大きい。圧迫止血しながら小治癒ローヒールすると動脈出血も治るかもしれない。
 小解毒ローキュアもそうだ。ウィルス性腸炎などは無理だが軽い食あたりなら治る。迷宮街で飲食も食中毒がちょっと怖いので避けていたが治るのならチャレンジしてもよさそうだ。

「レベル上げよう」

 中解毒まであれば大体大丈夫だ。診断ダイアグノーシスは……ちょっとSPもったいなかったかな。

 ちなみにルビは勝手に振った。
 


0022



 翌日、迷宮街の屋台で朝食を取り、スライムでレベルアップに勤しむ。

 屋台メシは何かのモツとモヤシのような野菜が乗った粥だ。ちょっと臭みがあるけど全然いけた。銅貨3枚先払い。安い。
 ただ、スプーンや食器をろくに洗わず再利用しているのを目撃してしまった。

小解毒ローキュア

 身体から熱が抜けていく感覚。使えるのは3回がいいところだろう。それ以上は危険そうだ。

 4層のスライムで現実的に上がるレベルはあと2。稼げるSPも2。持っているSPは1なので中解毒ミドルキュアには届かない。5層もスライムだとすれば6層まで行かないとSPが届かない。

「そろそろ移動時間がきつい」

 4層まで下りるのに1時間弱かかった。

 6層までだと片道2時間かかってもおかしくはない。それでなくとも空気中の湿度だけで錆びる日本刀を毎朝磨かねばならないのだ。準備と移動だけで5時間はきつい。

『魂強度上昇しました』

 他のパーティーに遭遇しないように気をつけつつ、スライムを突き倒す。斬り殺す。早期発見さえできればもはや作業だ。シーフの暗視向上も取れば安定度がより増すだろう。SPがもったいないが。

『魂強度上昇しました』

 天井からの不意打ちを受けた以外は集中力を切らさず時間を忘れて狩っていた。5時間も歩き回り、スライムを狩ること40匹。前回のも合わせると44個のスライム魔石がリュックを埋め尽くしていた。道中で倒したゴブリンの魔石も10個くらいある。

 このペースで狩れるのなら数日かければもう少しレベルを上げれそうな気がする。もう1レベル上げて中解毒ミドルキュアまで取るか迷うところだがそういうのは地上に出てからだ。

「とりあえず飯だな」

 マッピングしてきたボードで帰路を確認しながら地上へと向かった。

 


 スライム魔石は銅貨5枚。銀貨22枚になった。ゴブリン魔石分は銅貨18枚。小銭が沢山だ。

 今日は晩飯も異世界ご飯を試してみることにする!ちゃんとしたとこで!

 ついでにお泊まりもできたらしてみたい。

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