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基本中の基本14……メドウサの運命って
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でも、ギリシャ神話ってややこしくて、神のお告げ、神託が先にあったりする。
作中人物にはその詳細はもちろんわからない。未来だけが定まっているんだ。小石はギリシャ神話は詳しい? ペルセウスの話だってそうだよね。うろ覚えなんだが、ちょっとなぞってみようか。
ペルセウスの爺さんも神託に翻弄されるんだ。将来、孫が自分を殺すという。びっくりした爺さん娘のダナエを塔の上に閉じこめる。男と一切接触させないためだ。ところが隔離した娘が妊娠しちゃう。実は好色な天界の王ゼウスが金の雨となってダナエの部屋に入り込んで、あーしてこーして、ペルセウスの誕生となるわけだ。爺さんがっくり、いっそ孫を殺したいんだけど、それをする勇気もなくて結局娘とまだ乳飲み子の孫を箱に入れ、海に流しちゃう。これなら自分で殺したわけじゃないもんね。
(捨て猫みたいな扱い。ひどいな)
箱は他の国まで流れていって親切な漁師に救助される。けれど母子の受難は終わらない。ペルちゃんはたくましい青年に成長する。なにしろゼウスの血を引いてるんだから、誰も敵わない。しかしダナエに横恋慕するのがその国の王さまだから厄介なんだ。王さまがよい性格ならめでたしなんだけど、あいにく邪悪なやつなんだ。ダナエだって流されちゃったとはいえ王女という身分、王の求婚を毅然と拒む。嫌なものはイヤなんですの。ペルちゃんも頼もしい、ママのことはぼくが守るんだぁ。
しかし、ギリシャ神話って生まれた子どもはすぐ青年になっちゃうし、女性はいつまでも歳をとらないという、不思議な時間の流れ方をする世界みたいだな。地球じゃないみたい。
(地球じゃないのかも。ある惑星がそっくりインド神話の世界という小説は読んだことはありますが。たぶん、そう、たぶん男性も女性も生涯のうちでえっちできる期間がものすごく長いってことかなぁと……)
え。あ、はあ。
(ごめんなさい。あたし、変なこといっちゃったみたい。思ってもみなかったことを無意識のうちに……)
なにが無意識じゃい。うがった意見だと思うよ。なるほどね。慧眼だと思います。そういう世界なのかぁ。
(本気にしないで)
します。ところで小石はなんで小石なの。ペンネームかなにかなの。
(あの、いえ、本名ですよ。小石川と申します。小石川しじみです。)
そーなんだ。あれ、おたくジャパニーズ。
(ジャパニーズですです。パキタさんもお顔立ちといいきれいな黒髪といい、日本のお方かしらと思ったり思わなかったり)
日本人じゃないけどさ。でも、血は引いてるよぉ。あたしにはおたくの顔はわからないが。おたくと何語で話してるのかも実はわからない。プロフィールとか送ってこれない?
(えーと、顔写真ですか。あたし、インプラントしてないし)
謎めいた娘だね~。日本人といいつつ、この世界の人間じゃないみたいで、セックスは長期間やってる?
(……)
深入りしちゃいけない話題かな。そもそもおたくの聞きたい話題からそれてるかしらね。ギリシャ神話のストーリーしゃべりだしたときから脱線してたね。でも脱線こそ人生。神話の素はもともとひとの心のなかに備わっている。集合無意識とかいうんだろ。多くのひとに愛される物語にはパターンがあるんだね。
悪辣な王は国中の若者を集めて宴会を開く。もちろんペルセウスも招待される。標的は彼なんだから。その際、皆は貢物を持ってくる。それともパーティーのプレゼント交換だったかな。王宮での宴会だもの、誰も高価で素晴らしい品を用意するのだが、ペルちゃんは手ぶら。家が貧しかったからだけど、王に対する敵愾心もあるだろうね。王も皆で彼ひとりを笑いものするために仕組んだのだ。せこい王さま。「メドウサの首でも献上しなきゃ、おさまらないよねぇ(笑)」「いいともさ、メドウサの首、持ってきてやろうじゃないの」「本気か。莫迦だね~、できるわけないだろ」ペルちゃんが彼女の首を取りにいったのは、そういうわけ。預かり知らぬところでメドウサの運命は決まったのだ。
ペルセウスの冒険ストーリー。黄金パターンだから後世ディテールを変え、何度も何度も語り直されてきた。冒険、アクション、はらはらドキドキ、小石もいくつか知ってるだろ。
(はい、いっぱいありますよ。映画でもマンガでも男の子たちが好きなお話。敵がどんどん強くなる)
同じ話を何度聞かされても面白いものは面白い。ヒーローストーリーの基本中の基本だからな。
(高貴な血を引く英雄の物語であり、怪獣妖怪退治の物語であり、舞台が移り変わっていく旅の物語である。必要なアイテムを手に入れるゲームであり、絶世の美女と出会い結ばれるお話で、しかも呪われた運命の物語。愚かで悪辣な王と対決する……これって虐げられた人びとやサラリーマンが密かに夢想するお話。どこかからやってきた風来坊がトラブルを解決して、報酬ももとめず爽やかに去っていく。これはかっこよさの極致。あれ、ペルセウスさまは海獣を退治した後、王女を嫁にくれっていうんだから、ちょっと違うわね。そんな西部劇があったし、水戸黄門もそのパターンだね。黄門さまを風来坊なんていったら怒られるかしら、頭が高い。あと最初に示された神託が、ああなってこうなっての紆余曲折の果てにきっちり成就するという完璧なプロット。これは短編ミステリの構造よね)
小石って本格ミステリのファン、いや、マニアでしょ。
(おそれ多くてマニアは名乗れません。古典・名作・枕本、読んでないもん)
枕本ってなんだ。エロいやつか。(違う違う)面白さの要素がぎっしりだね。ディテールはお話の基本構造そのものではないけど、構造はディテールを自由にしなやかに取り込むことができる。構造をいくつも繋いで長い話にすることもできる。ひとつのテーマを変奏させながら繰り返す、物語も音楽もおなじだね。話が抽象的すぎるかね。
作中人物にはその詳細はもちろんわからない。未来だけが定まっているんだ。小石はギリシャ神話は詳しい? ペルセウスの話だってそうだよね。うろ覚えなんだが、ちょっとなぞってみようか。
ペルセウスの爺さんも神託に翻弄されるんだ。将来、孫が自分を殺すという。びっくりした爺さん娘のダナエを塔の上に閉じこめる。男と一切接触させないためだ。ところが隔離した娘が妊娠しちゃう。実は好色な天界の王ゼウスが金の雨となってダナエの部屋に入り込んで、あーしてこーして、ペルセウスの誕生となるわけだ。爺さんがっくり、いっそ孫を殺したいんだけど、それをする勇気もなくて結局娘とまだ乳飲み子の孫を箱に入れ、海に流しちゃう。これなら自分で殺したわけじゃないもんね。
(捨て猫みたいな扱い。ひどいな)
箱は他の国まで流れていって親切な漁師に救助される。けれど母子の受難は終わらない。ペルちゃんはたくましい青年に成長する。なにしろゼウスの血を引いてるんだから、誰も敵わない。しかしダナエに横恋慕するのがその国の王さまだから厄介なんだ。王さまがよい性格ならめでたしなんだけど、あいにく邪悪なやつなんだ。ダナエだって流されちゃったとはいえ王女という身分、王の求婚を毅然と拒む。嫌なものはイヤなんですの。ペルちゃんも頼もしい、ママのことはぼくが守るんだぁ。
しかし、ギリシャ神話って生まれた子どもはすぐ青年になっちゃうし、女性はいつまでも歳をとらないという、不思議な時間の流れ方をする世界みたいだな。地球じゃないみたい。
(地球じゃないのかも。ある惑星がそっくりインド神話の世界という小説は読んだことはありますが。たぶん、そう、たぶん男性も女性も生涯のうちでえっちできる期間がものすごく長いってことかなぁと……)
え。あ、はあ。
(ごめんなさい。あたし、変なこといっちゃったみたい。思ってもみなかったことを無意識のうちに……)
なにが無意識じゃい。うがった意見だと思うよ。なるほどね。慧眼だと思います。そういう世界なのかぁ。
(本気にしないで)
します。ところで小石はなんで小石なの。ペンネームかなにかなの。
(あの、いえ、本名ですよ。小石川と申します。小石川しじみです。)
そーなんだ。あれ、おたくジャパニーズ。
(ジャパニーズですです。パキタさんもお顔立ちといいきれいな黒髪といい、日本のお方かしらと思ったり思わなかったり)
日本人じゃないけどさ。でも、血は引いてるよぉ。あたしにはおたくの顔はわからないが。おたくと何語で話してるのかも実はわからない。プロフィールとか送ってこれない?
(えーと、顔写真ですか。あたし、インプラントしてないし)
謎めいた娘だね~。日本人といいつつ、この世界の人間じゃないみたいで、セックスは長期間やってる?
(……)
深入りしちゃいけない話題かな。そもそもおたくの聞きたい話題からそれてるかしらね。ギリシャ神話のストーリーしゃべりだしたときから脱線してたね。でも脱線こそ人生。神話の素はもともとひとの心のなかに備わっている。集合無意識とかいうんだろ。多くのひとに愛される物語にはパターンがあるんだね。
悪辣な王は国中の若者を集めて宴会を開く。もちろんペルセウスも招待される。標的は彼なんだから。その際、皆は貢物を持ってくる。それともパーティーのプレゼント交換だったかな。王宮での宴会だもの、誰も高価で素晴らしい品を用意するのだが、ペルちゃんは手ぶら。家が貧しかったからだけど、王に対する敵愾心もあるだろうね。王も皆で彼ひとりを笑いものするために仕組んだのだ。せこい王さま。「メドウサの首でも献上しなきゃ、おさまらないよねぇ(笑)」「いいともさ、メドウサの首、持ってきてやろうじゃないの」「本気か。莫迦だね~、できるわけないだろ」ペルちゃんが彼女の首を取りにいったのは、そういうわけ。預かり知らぬところでメドウサの運命は決まったのだ。
ペルセウスの冒険ストーリー。黄金パターンだから後世ディテールを変え、何度も何度も語り直されてきた。冒険、アクション、はらはらドキドキ、小石もいくつか知ってるだろ。
(はい、いっぱいありますよ。映画でもマンガでも男の子たちが好きなお話。敵がどんどん強くなる)
同じ話を何度聞かされても面白いものは面白い。ヒーローストーリーの基本中の基本だからな。
(高貴な血を引く英雄の物語であり、怪獣妖怪退治の物語であり、舞台が移り変わっていく旅の物語である。必要なアイテムを手に入れるゲームであり、絶世の美女と出会い結ばれるお話で、しかも呪われた運命の物語。愚かで悪辣な王と対決する……これって虐げられた人びとやサラリーマンが密かに夢想するお話。どこかからやってきた風来坊がトラブルを解決して、報酬ももとめず爽やかに去っていく。これはかっこよさの極致。あれ、ペルセウスさまは海獣を退治した後、王女を嫁にくれっていうんだから、ちょっと違うわね。そんな西部劇があったし、水戸黄門もそのパターンだね。黄門さまを風来坊なんていったら怒られるかしら、頭が高い。あと最初に示された神託が、ああなってこうなっての紆余曲折の果てにきっちり成就するという完璧なプロット。これは短編ミステリの構造よね)
小石って本格ミステリのファン、いや、マニアでしょ。
(おそれ多くてマニアは名乗れません。古典・名作・枕本、読んでないもん)
枕本ってなんだ。エロいやつか。(違う違う)面白さの要素がぎっしりだね。ディテールはお話の基本構造そのものではないけど、構造はディテールを自由にしなやかに取り込むことができる。構造をいくつも繋いで長い話にすることもできる。ひとつのテーマを変奏させながら繰り返す、物語も音楽もおなじだね。話が抽象的すぎるかね。
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