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基本中の基本8……メドウサさんをなめるんじゃないわよ
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メドウサさんの内心の声がじゃぶじゃぶ漏れ出してきたんで、再びメドウサ視点で話を進めるわね。意外と目まぐるしい。語り手としてあたしが召喚されたわけ、なんとなくわかってきたわよ。それを説明している余裕は今はなさそうだけど。メドウサが思わず雄叫びを上げてしまったわけは……宇佐見くんを見下していたのは、確かにあります。認めます。見ただけでヘタレだと思ったのよぅ。こちらと顔も合わせないまま引き返してしまうひとも、けっこういるんだから。でも、ちょっと脅かしてやろうかな、という気分も確かにありました、認めます。
自分のそんな態度がどうやら彼のプライドを傷つけたらしい。ひ弱そうな彼の、怒りのツボがどこなんだかいまいちわからないけど、今猛然とファイト気分になってるのね。後悔させてやるぞ、だって。うおおおぅ! 面白いじゃないの。もちろん態度悪かったのは、こちらもヒールとしての役柄があるからだ。遠路はるばるよくいらっしゃいました、なんてお迎えするわけないでしょ。
「どう後悔させてくれるのよぅ。じゃあ、かかってきな。手加減すんなよ!」
勇者、いきなり剣を振り上げ襲いかかってきた。前置きもないのね。それぐらい、躱せます。余裕。でも、勇者の勢い、ごっこではなかったね。今の剣まともに食らっていたら死ねるわね。外の世界だったらマジあぶねーやつ、ですわよ。なまくらだろうが、凶器は凶器。ひきかえメドウサは丸腰だよ。二撃目を躱して……勇者の盾を拾い上げる。もちろん今度は返さないわよ。三撃四撃を盾で払って横に跳ぶ。
「なによ、腰が入ってない。へっぴり腰、本気出しな」
挑発してやる。ちょっと楽しい。彼がパークの外のでどんな暮らしをしているのか知らないけれど、剣を振りまわす日常ではないでしょう、さすがに。トレーニングを積んでるメドウサに敵うわけがないのだ。
とはいえ彼女の方でも舐めてはかかれない。なにしろ……。
始めは奇岩の迷路をさまよい疲れて、不安感に苛まれていたはず。これもサービスの一環。マイナスの感情はポンとプラスに転じるのだから。カードの裏面は「高揚」なのよ。今回は怒りと闘争心になっちゃったけど、ペルセウスの物語を考えると全然変じゃない、というかまさしく本来のストーリーにかなってるわけ。必ずしも多くはないけれど、「神話」に呑み込まれてしまうひとはいるのだ。彼は今、メドウサを敵と見ている。
自分に殺意を抱く相手、遊び気分ではいられないのはメドウサの方こそ。彼女こそ高揚させてもらってる。打ち下ろされる剣を何度も払い、時にはメドウサが盾を振りまわす。盾で攻め、素早く引く。奇岩の裏に回り込む。立ち回りには障害物だらけの場所である。勇者の剣は岩を撃ち火花を散らす。真横に払われる剣をかいくぐり、砂を投げつけ、わざと背を見せて逃げる。
ふたりの激しい闘いに直接加われないロボちゃんもあたりを駆け回るのだ。いないはずの場所にメドウサの姿をとらえ、勇者はひどく惑乱する。神出鬼没。メドウサが複数いるなんて単純なトリック、思いつけないでしょう。ロボちゃんが闘わないのはロボット三原則に支配されてるからだ。三原則について説明している余裕はないけれど、だって戦闘中なんですからね、最重要項目はロボットはひとを殺したり傷つけたりできないこと。
ロボちゃんの姿が勇者を混乱させてるんだから、これをひとに対する攻撃とみなせるかどうか、なかなかに難しい。反則ぎりぎりということかな。ぎりなんだからセーフということにしてね。
勇者と戦っているメドウサは盾を持っているが、ロボちゃんのほうは長剣を抱えてる。おそらく勇者にはそれに気がつく余裕はないだろう。
とある岩陰でロボちゃんとメドウサ、邂逅。メドウサ思わずロボちゃん抱きしめる。「剣、持ってきたよ」「さんきゅ」剣を受け取り「ロボちゃんはあっちへ」自身は岩の上に駆け上がる。
メドウサの身体能力なめるんじゃないわよ!
「ペルセウス! こっちだ」
ストーリー上メドウサが勇者の名前を知ってるはずないんだけど、こまいことは気にしないでね。勇者からも苦情は来ないだろう。見上げる勇者に向かって盾を投げつける。返却しまーす。うわっ、命中。バカヤロなぜ避けない。
一瞬のびちゃったみたい。もぞもぞもぞもぞ、動いて、ふわあ……と立ち上がろうとするからすぐ脇に跳び、空中で後ろ蹴りよ、容赦はしません。たぶん彼の後頭部に入ったと思う。でも、これで終わりじゃつまんない。せっかくロボちゃん剣を持ってきたのだから、使わせなさいよ。
「ペルセウス、起きて、死ぬ時間よ!」
あ。起きたわ。四つ足使ってウサギ跳び、ぴょん、ぴょん。わぁ、珍しいもの、見せていただきましたわ。でも、剣は手放さないのだから、進歩したわね。離れたところで向き直る。両手で剣をにぎり、荒い息。でも、素敵、まだ闘志は残っているのね。
メドウサ隣の岩に飛び移る、その跳躍力にあたし、小石川しじみも愕然よ。アクション映画のワイヤーワークもかくやという跳び。いや待て、ここは低重力の衛星だったわね。それでも凄くない? 岩の上部はひとが立ちやすいように、加工されてもいないのよ。
もちろんメドウサさんにワイヤー繫がってはいません。トリックはないの彼女のジャンプには。
メドウサさんの心理描写もあたしの感想もいっしょにごちゃ混ぜポトフになっちゃいまして、わかりにくいですかね。思いのほか激しい戦いに、あたしも付いていくのがやっとなの。頑張ってより分けますからね。
でも、メドウサさんこそ今、最大限に張りつめています。彼女の気を散らさないように、邪魔をしないように……。
メドウサは自分の剣の切っ先を勇者にまっすぐ向ける。勇者も引かず、剣を上段に構えた。バッターボックスにはいりました。
ロボちゃん、まだよいしょ、よいしょと走ってる。
姉さんたちもモニターにくぎ付けだ。こんな展開、近頃なかったわねー。面白いじゃん。
突如。上空で強烈な輝きが炸裂。ペルセウスはたまらず両眼を覆う。剣の構えどころではない。メドウサは背後に焼け付くような熱気を感じる。地上の影が消えた。
さすがに危険を感じてメドウサ飛び降りた。
光源が降りてくる。
仕方がない、あたし、カメラを引いて視野を拡げるわよ。ズーム。眩しい。あれだけの光芒を放つのは天界に住まうお方でしょう。女神さまが下って来ました。付き従うように小鳥が降りてきます。いや、小さくはないか、フクロウね。
アテナさまです。
女神はメドウサが立っていた岩の上に降り立ちます。女神はメドウサにいたずらっぽく笑いかけ、けれどペルセウスに話しかけるのです。ちょっと光量は落としました。
「ペルセウス、見事な戦いぶりでした。わが父ゼウスの使いで参りました。ここで戦いに決着をつけましょう。この大鎌は父よりの贈り物ですよ、使い方は……わかりますね」
鎌がペルセウスの足下に降りていく。しばらく白熱したように輝いていた。もちろん、女神さまもこのパークの仕掛けのひとつですよね。文字通りのデウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神さまです。
「私がメドウサを抑えます。今のうちに」
メドウサため息をつく。もっと暴れたかったのが本音。でも、勇者の方が限界だったんだろう。ロボちゃんもとことこかけてくる。メドウサに片手を掲げる。ハイタッチ。
「ご苦労さま、メドちゃんは休んでてね」
ロボットなのに、にっこり笑う。これからはロボちゃんの出番。あくまで感情があるように顔の人工筋肉を操作できる、でも、ロボットの使用目的を考えたら親しさを表現する機能は必要はないのに。彼女の笑いって何なの? このロボットの動きを司るのはチタンの頭蓋に納められたポジトロン・コンピュータだということ、メドウサにはその動作原理はわからない。教科書にはそれを表した数式が出ていたけど、見たとたん、きゃああっ、目が、目がぁ……。メドウサを脅かすやつはこの世に多数存在してるのである。
コンピュータの設計者も実は動作原理がわかってないんだってさ。ロボちゃんと交代するときは、笑うなよ、メドウサは切なくて涙がこぼれそうになるのだ。すべてはお芝居なんだからって、割り切れないのだ。笑うなって。
はい、笑わないわよ。どうにも楽しくない瞬間が待っているのだから。あたしも好みではありません。ロボちゃんは宇佐見くんの前に歩いていきます。メドウサと交代したときに剣をまた受け取ったのだけど、もちろんそれは使わない。シーンのつながりを自然にするために持っているだけ。肩のあたりにまとわっているヘビたちをいくらか持ち上げる。
女神さまが宇佐見くんに「さあ、今です」
女神さまが妖怪の力を封じているシーンなのだ。アテナさまは天界の王ゼウスの娘。すると(宇佐見くんはともかく)ペルセウスのお姉さんになるんだ。異母姉弟。ゼウスさまの命令で加勢にきたのね。ギリシャ神話の世界ではゼウスさまの血を引く神々や英雄たちがめちゃくちゃいるのよね。犬神家なんてまるで零細に見えてくる。
肝心の宇佐見くんは呆けた顔してロボット少女を見ている。ゴルゴンたちはこのときにひとの行動が分かれることを知っている。大鎌で少女の首をはねることを断念するひと。「できない。そんなこと、できないよ」弱気になって、泣き出すひと。実はそのために制作されたロボットだってわかってるのに。
本物のペルセウスは……本物っていうのも変だけど、躊躇わないわ。やるときにはやるひとです。思い出して、アンドロメダ姫のもと婚約者と家来たち、あっさり葬りました。その後にも同じようなことを繰り返すシーンがあるんです。まるでジェームズ・ボンドのように冷静に着実にこなす。今でいう有能なサイコパス。いえ、サイコパスは悪いひととイコールではないのよ。
ロボちゃん殉教者のように静かに立つ。先ほどまで大暴れしていた少女とはまるで別人のように。別人なんだけどさ。「神話」に呑み込まれていた宇佐見くん、ついにバッターのように剣をかまえる。自分の仕事を完遂するつもりらしい。アテナさまの持ってきた鎌は目に入らないみたい。一歩出て、それにつまずき、不思議そうにそれを見て再び少女をとらえる。ロボちゃんの本体は頭部といえるけど、身体にもちゃんと電源があって、主要な配線は首を通じてはいないのだ。頭部を支えるためだけの部品だ。
自分のそんな態度がどうやら彼のプライドを傷つけたらしい。ひ弱そうな彼の、怒りのツボがどこなんだかいまいちわからないけど、今猛然とファイト気分になってるのね。後悔させてやるぞ、だって。うおおおぅ! 面白いじゃないの。もちろん態度悪かったのは、こちらもヒールとしての役柄があるからだ。遠路はるばるよくいらっしゃいました、なんてお迎えするわけないでしょ。
「どう後悔させてくれるのよぅ。じゃあ、かかってきな。手加減すんなよ!」
勇者、いきなり剣を振り上げ襲いかかってきた。前置きもないのね。それぐらい、躱せます。余裕。でも、勇者の勢い、ごっこではなかったね。今の剣まともに食らっていたら死ねるわね。外の世界だったらマジあぶねーやつ、ですわよ。なまくらだろうが、凶器は凶器。ひきかえメドウサは丸腰だよ。二撃目を躱して……勇者の盾を拾い上げる。もちろん今度は返さないわよ。三撃四撃を盾で払って横に跳ぶ。
「なによ、腰が入ってない。へっぴり腰、本気出しな」
挑発してやる。ちょっと楽しい。彼がパークの外のでどんな暮らしをしているのか知らないけれど、剣を振りまわす日常ではないでしょう、さすがに。トレーニングを積んでるメドウサに敵うわけがないのだ。
とはいえ彼女の方でも舐めてはかかれない。なにしろ……。
始めは奇岩の迷路をさまよい疲れて、不安感に苛まれていたはず。これもサービスの一環。マイナスの感情はポンとプラスに転じるのだから。カードの裏面は「高揚」なのよ。今回は怒りと闘争心になっちゃったけど、ペルセウスの物語を考えると全然変じゃない、というかまさしく本来のストーリーにかなってるわけ。必ずしも多くはないけれど、「神話」に呑み込まれてしまうひとはいるのだ。彼は今、メドウサを敵と見ている。
自分に殺意を抱く相手、遊び気分ではいられないのはメドウサの方こそ。彼女こそ高揚させてもらってる。打ち下ろされる剣を何度も払い、時にはメドウサが盾を振りまわす。盾で攻め、素早く引く。奇岩の裏に回り込む。立ち回りには障害物だらけの場所である。勇者の剣は岩を撃ち火花を散らす。真横に払われる剣をかいくぐり、砂を投げつけ、わざと背を見せて逃げる。
ふたりの激しい闘いに直接加われないロボちゃんもあたりを駆け回るのだ。いないはずの場所にメドウサの姿をとらえ、勇者はひどく惑乱する。神出鬼没。メドウサが複数いるなんて単純なトリック、思いつけないでしょう。ロボちゃんが闘わないのはロボット三原則に支配されてるからだ。三原則について説明している余裕はないけれど、だって戦闘中なんですからね、最重要項目はロボットはひとを殺したり傷つけたりできないこと。
ロボちゃんの姿が勇者を混乱させてるんだから、これをひとに対する攻撃とみなせるかどうか、なかなかに難しい。反則ぎりぎりということかな。ぎりなんだからセーフということにしてね。
勇者と戦っているメドウサは盾を持っているが、ロボちゃんのほうは長剣を抱えてる。おそらく勇者にはそれに気がつく余裕はないだろう。
とある岩陰でロボちゃんとメドウサ、邂逅。メドウサ思わずロボちゃん抱きしめる。「剣、持ってきたよ」「さんきゅ」剣を受け取り「ロボちゃんはあっちへ」自身は岩の上に駆け上がる。
メドウサの身体能力なめるんじゃないわよ!
「ペルセウス! こっちだ」
ストーリー上メドウサが勇者の名前を知ってるはずないんだけど、こまいことは気にしないでね。勇者からも苦情は来ないだろう。見上げる勇者に向かって盾を投げつける。返却しまーす。うわっ、命中。バカヤロなぜ避けない。
一瞬のびちゃったみたい。もぞもぞもぞもぞ、動いて、ふわあ……と立ち上がろうとするからすぐ脇に跳び、空中で後ろ蹴りよ、容赦はしません。たぶん彼の後頭部に入ったと思う。でも、これで終わりじゃつまんない。せっかくロボちゃん剣を持ってきたのだから、使わせなさいよ。
「ペルセウス、起きて、死ぬ時間よ!」
あ。起きたわ。四つ足使ってウサギ跳び、ぴょん、ぴょん。わぁ、珍しいもの、見せていただきましたわ。でも、剣は手放さないのだから、進歩したわね。離れたところで向き直る。両手で剣をにぎり、荒い息。でも、素敵、まだ闘志は残っているのね。
メドウサ隣の岩に飛び移る、その跳躍力にあたし、小石川しじみも愕然よ。アクション映画のワイヤーワークもかくやという跳び。いや待て、ここは低重力の衛星だったわね。それでも凄くない? 岩の上部はひとが立ちやすいように、加工されてもいないのよ。
もちろんメドウサさんにワイヤー繫がってはいません。トリックはないの彼女のジャンプには。
メドウサさんの心理描写もあたしの感想もいっしょにごちゃ混ぜポトフになっちゃいまして、わかりにくいですかね。思いのほか激しい戦いに、あたしも付いていくのがやっとなの。頑張ってより分けますからね。
でも、メドウサさんこそ今、最大限に張りつめています。彼女の気を散らさないように、邪魔をしないように……。
メドウサは自分の剣の切っ先を勇者にまっすぐ向ける。勇者も引かず、剣を上段に構えた。バッターボックスにはいりました。
ロボちゃん、まだよいしょ、よいしょと走ってる。
姉さんたちもモニターにくぎ付けだ。こんな展開、近頃なかったわねー。面白いじゃん。
突如。上空で強烈な輝きが炸裂。ペルセウスはたまらず両眼を覆う。剣の構えどころではない。メドウサは背後に焼け付くような熱気を感じる。地上の影が消えた。
さすがに危険を感じてメドウサ飛び降りた。
光源が降りてくる。
仕方がない、あたし、カメラを引いて視野を拡げるわよ。ズーム。眩しい。あれだけの光芒を放つのは天界に住まうお方でしょう。女神さまが下って来ました。付き従うように小鳥が降りてきます。いや、小さくはないか、フクロウね。
アテナさまです。
女神はメドウサが立っていた岩の上に降り立ちます。女神はメドウサにいたずらっぽく笑いかけ、けれどペルセウスに話しかけるのです。ちょっと光量は落としました。
「ペルセウス、見事な戦いぶりでした。わが父ゼウスの使いで参りました。ここで戦いに決着をつけましょう。この大鎌は父よりの贈り物ですよ、使い方は……わかりますね」
鎌がペルセウスの足下に降りていく。しばらく白熱したように輝いていた。もちろん、女神さまもこのパークの仕掛けのひとつですよね。文字通りのデウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神さまです。
「私がメドウサを抑えます。今のうちに」
メドウサため息をつく。もっと暴れたかったのが本音。でも、勇者の方が限界だったんだろう。ロボちゃんもとことこかけてくる。メドウサに片手を掲げる。ハイタッチ。
「ご苦労さま、メドちゃんは休んでてね」
ロボットなのに、にっこり笑う。これからはロボちゃんの出番。あくまで感情があるように顔の人工筋肉を操作できる、でも、ロボットの使用目的を考えたら親しさを表現する機能は必要はないのに。彼女の笑いって何なの? このロボットの動きを司るのはチタンの頭蓋に納められたポジトロン・コンピュータだということ、メドウサにはその動作原理はわからない。教科書にはそれを表した数式が出ていたけど、見たとたん、きゃああっ、目が、目がぁ……。メドウサを脅かすやつはこの世に多数存在してるのである。
コンピュータの設計者も実は動作原理がわかってないんだってさ。ロボちゃんと交代するときは、笑うなよ、メドウサは切なくて涙がこぼれそうになるのだ。すべてはお芝居なんだからって、割り切れないのだ。笑うなって。
はい、笑わないわよ。どうにも楽しくない瞬間が待っているのだから。あたしも好みではありません。ロボちゃんは宇佐見くんの前に歩いていきます。メドウサと交代したときに剣をまた受け取ったのだけど、もちろんそれは使わない。シーンのつながりを自然にするために持っているだけ。肩のあたりにまとわっているヘビたちをいくらか持ち上げる。
女神さまが宇佐見くんに「さあ、今です」
女神さまが妖怪の力を封じているシーンなのだ。アテナさまは天界の王ゼウスの娘。すると(宇佐見くんはともかく)ペルセウスのお姉さんになるんだ。異母姉弟。ゼウスさまの命令で加勢にきたのね。ギリシャ神話の世界ではゼウスさまの血を引く神々や英雄たちがめちゃくちゃいるのよね。犬神家なんてまるで零細に見えてくる。
肝心の宇佐見くんは呆けた顔してロボット少女を見ている。ゴルゴンたちはこのときにひとの行動が分かれることを知っている。大鎌で少女の首をはねることを断念するひと。「できない。そんなこと、できないよ」弱気になって、泣き出すひと。実はそのために制作されたロボットだってわかってるのに。
本物のペルセウスは……本物っていうのも変だけど、躊躇わないわ。やるときにはやるひとです。思い出して、アンドロメダ姫のもと婚約者と家来たち、あっさり葬りました。その後にも同じようなことを繰り返すシーンがあるんです。まるでジェームズ・ボンドのように冷静に着実にこなす。今でいう有能なサイコパス。いえ、サイコパスは悪いひととイコールではないのよ。
ロボちゃん殉教者のように静かに立つ。先ほどまで大暴れしていた少女とはまるで別人のように。別人なんだけどさ。「神話」に呑み込まれていた宇佐見くん、ついにバッターのように剣をかまえる。自分の仕事を完遂するつもりらしい。アテナさまの持ってきた鎌は目に入らないみたい。一歩出て、それにつまずき、不思議そうにそれを見て再び少女をとらえる。ロボちゃんの本体は頭部といえるけど、身体にもちゃんと電源があって、主要な配線は首を通じてはいないのだ。頭部を支えるためだけの部品だ。
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