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第5章

5-11

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5-11「チェアリーのターン」

坂を下りきり目的の場所に付いた私は、振り返ってユウに言った。
「着いたよ。ここで毛皮を買い取ってくれるの」
そこは家畜場で剥がされた毛皮が集められる倉庫がいくつも立ち並ぶ場所だ。

開け放たれている入り口からは、中に毛皮が山積みにされているのがうかがえる。動物の種類ごとに倉庫によって分けられているようだ。
中では毛皮を水洗いしたり、余計な部分を切り落とすなど作業している人達がいる。
剥いだ後に軽く水洗いされただけの毛皮はケモノ臭が残っていて倉庫の中からは独特の匂いが外まで漂ってきていた。

入り口のそばには荷馬車が横付けされ、束にしてまとめられた毛皮を荷台へ乗せている人達もいる。
毛皮は水洗いされたことで水分を含み、見た目よりとても重たそうだ。男たちが額に汗しながら荷台へ積み上げるたびに毛皮から絞り出された水分がポタポタとしたたり落ちていた。

「ここで毛皮の加工をしているの?」
倉庫で作業する人達を覗き込みながらユウが尋ねる。
「ここは剥いだ皮を集めているだけだと思うよ。仕分けした後に今度は洗ったりするためにラゴに運ばれていくんだと思う」
「ラゴって革製品を作ってる町なの?」
「うーん、革製品も作っているけど、製品に加工する前のまっさらな一枚の革にするための場所かな。ほら、革って洗ったり、漬け込んだり、水を多く使うでしょ。だからラゴの町では湖の水を利用して革を洗ってるの」
「そうか・・・・・・ここでは加工はしてないのか」

彼は革の加工が見られると思っていたらしい。
そういった加工を見たいのなら商業地区の革を扱うお店に行かないと無理だ。帽子や服、カバンなどそれぞれのお店の工房で作業を見させてもらうしかないと思う。

(ユウにはお父さんに会ってもらわないと!)
彼が革の加工に興味を持ってくれたのは嬉しいが、この街でどこかのお店に弟子入りされては困る。ユウにはどうせなら私の父に弟子入りしてもらって、皮の加工でもしながら村で一緒に暮らしたい。
一つの選択肢として私は漠然とそう考え始めていた。

「ちょっとここで待ってて、毛皮を売ってくるから」
作業を眺めているユウから毛皮を受け取り、私は彼を残して倉庫の横にある小さな小屋へと向かった。持ち込みで毛皮を買い取ってくれるのは毛皮専門の鑑定士がいるその小屋だ。

希少な毛皮になるとそこそこ良い値段がついたりする事もあるから、冒険者の間でも利用する人はいる。私も何度か毛皮を持ち込んだ事があった。
聞いた話ではウサギは白地に黒いブチ模様だとコートの模様として重宝されるので高く買い取ってもらえるらしい。ユウが狩ったのは茶色い毛の普通の種類だったけど、大きく立派に成長した野生のものなので期待はできる。

小屋に近づくと冒険者らしい人たちが数人並んでいた。それぞれ手に毛皮を持ち、私と同じように売りに来ているようだ。
(今はモンスターが減っているもんね・・・・・・)
ここ1ヶ月、ほとんどモンスターを見かけることが無くなり、冒険者もやりくりに必死だ。きっと私達と同じようにモンスターを探しているついでに獣を狩って生活の足しにしているのだろう。

小さな小屋の入り口にはカウンターが設けられていて部屋の中の人とカウンターを挟んで交渉できるようになっている。
毛皮を品定めする鑑定士と冒険者のやりとりが聞こえてきた。
「もうちょっと、どうにかなりませんか?」
「うちもこれ以上は出せませんよ。背中に傷があるでしょう?そうすると1枚革で使えなくなるから、毛色合わせのために使われる二級品扱いにしかできないんですよ」
「はぁー、ならその値段でいいです」
「ハイ、ありがとうございます」
その冒険者はお金を受け取ると肩を落として帰って行った。
(私と同じこと言われてる)
以前キツネの毛皮を持ち込んだ時、傷があるからと私も買い叩かれた。

今回のウサギは傷一つなく、下処理も彼が丁寧にやってくれたため完璧だ。
(ユウが上手に狩ってくれたから期待できるかも)
ただ、彼に値段を聞かれるのは避けたい。ユウはどうやらお金の事をことさら気にかけてくれているようだから今も余計な気を使わせないようにと、彼を置いて一人で交渉に来たのだ。

「ハイ、次の方どうぞ」
順番が回ってきた。期待を込めてカウンターにウサギの毛皮を広げる。
「ウサギですか・・・・・・」
「昨日捕まえたんですが、下処理はちゃんとしたつもりです。」
鑑定士は裏表を少し見ただけでもう見定めたのか、
「1500シルバですね」
査定額を提示した。

「え?それだけ!?」
私はあまりの金額の低さに驚いた。
「良く見てください。傷は1カ所も無いし、下処理も丁寧にしてあります」
「ええ、それを踏まえたうえでの金額です。丁寧な処理をされているのでこれでも色を付けた方ですよ?」
「そんな・・・・・・困ります」
「困ると言われても、こちらも困ってしまいますよ・・・・・・そうですねぇ、今は時期が悪いんですよ。冬毛に生え変わったばかりの物なら毛足も長く上等なのでもう少し値段も高くできますが、それでも2000といったところですかね」
「なんでそんなに安いんですか?」
「ウサギだからです。ウサギはそこの家畜場で育てられていますから、安定的に毛皮は調達できるのです」
「そうなんですか・・・・・・」
「どうします?売りますか?持って帰ります?」
「・・・・・・売ります」
「ハイ、ありがとうございます」

私は500シルバのコイン3枚を握りしめ、その場を後にした。
思った以上に安かった事をユウにどう説明しようか、私はその事で頭がいっぱいになった。
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