世界の終わりでキスをして

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俺は流華に騙されていた?

「流華ちゃんの目的が何かはわからないけど、多分水道が壊れたからと言ってお前の家に転がりこんだのも嘘だろ。
きっと他に理由があるはずだ。」

何だよそれ。
流華が何を企んでいるって言うんだ。
「とにかく、お前も警戒した方がいい。今更でてけともいえないんだろう?」

警戒って何を、、、。
初めからおかしいとは思っていた。
あんな目立つ美人、大学にいたら嫌でも噂になるはずだ。

なのに最近まで俺は流華の事を知らなかった。
他にも流華について知ってる事なんて殆どない。

流華が俺を狙うスパイかなんかだっていうのか?
でも俺が狙われる理由なんて全くないぞ。
むしろ流華になら狙われたいとさえ思ってしまう自分がいる。

叔父さんは心配しているみたいだったが、俺は別に流華が嘘をついていても良いと思えた。

何か特別な事情があるのかもしれないし、嘘でも俺の側にいてくれるならなんでもいい。

俺は流華に魅了されて頭がおかしくなってるのかもしれない。

全て嘘でも構わない。真実なんてどうでもいい。ただ側にいたいだけなんだ。

家に帰ると、流華はもう自室に戻っていた。

思い切って聞こうかと思った。
君は本当は誰なんだ?

聞いたところでまた嘘をつかれて、おしまいだろう。
俺はきっと何回でも流華に騙される。

次の日俺はいつものように大学へ行った。

流華は朝はやくから何処かへ出かけたようだった。

いつもの様に1人で講義に出て、1人でカフェテリアで昼飯を食べる。

何も変わらない、平凡な毎日だ。
悲しい程に何もない日常。
こんな俺が狙われる理由などやっぱりないと思う。

そう思いながら俺はカツサンドを頬張る。

その時、携帯に電話がきた。
見てみると里さんだった。
どうしたんだろう?里さんがわざわざ俺の携帯に電話するなんて珍しいと思った。

「里さん?どうしたの?」
俺が電話に出ると、里さんが少し慌てた声で俺に言う。
「恭弥さん!大変ですよ!恭一さんが倒れて病院に運ばれました!」

えっ?父さんが?

「父さん大丈夫なの?」
「私も今電話もらったばかりだから、詳しくはわからないんですよ。とにかくT大学病院に運ばれたみたいなんで、恭弥さんも今すぐ向かってください。私も今から行きますから。」
「わかった。」

父さんに何があったんだ?
ここ最近全然家には帰ってなかったはずだ。
とにかく病院へ急ごう。
俺はたべかけのカツサンドを袋に戻して病院へ向かう。

たった1人の家族だ。いくら殆ど家に帰ってこない、家庭を顧みない父親だとしても、本当にいなくなってしまっては困る。

健一叔父さんに連絡しようと思ったが辞めた。
父さんと叔父さんの関係はもうずっと破綻している。
父さんが死んだとしても、健一叔父さんは父さんの葬式にもこない気がしていた。

俺には口を出す事ができない2人の複雑に絡み合った関係があるんだ。
修復など簡単にできるくらいならとっくにしてるだろう。


病院へ行くと、里さんが先についていた。

俺の顔を見ると里さんが話しかけてくる。
「恭弥さん。」
「父さんは?悪いの?」
「疲労ですって。ここ最近飲まず食わずでずっと研究していたって。」

俺はそれを聞いて全身の力が抜ける。
「疲労か~。」
俺は自分で思っていたよりも、父さんの事を心配していたのかもしれない。

「だから、言ったんですよ。あんな生活をしていたら、いつか倒れるんじゃないかって、ひやひやしてたんですよ!」
里さんは怒っている。
里さんも、父さんの事をずっと心配していたんだ。

病室に入ると、父さんは白い顔をしてベッドに横になっていた。
精魂尽きたような表情で、まさに死んだように眠っていた。

俺はそんな父さんの顔を見て思う。
この人は一体何とずっと戦っているんだろう。

母さんが病気になってからも、死んでからも、ずっと必死に薬の研究ばかりをしている。

何がこの人をこんなにも駆り立てているのか。
ずっと孤独の中で1人で戦っているようだった。

なかなか父さんが目を覚さないので、とりあえず里さんには先に帰ってもらう事にした。
俺は今日は父さんが目を開けるまでここにいようと思った。

どのくらいの時間がたったのだろう。
俺はいつの間にか眠ってしまったようだった。
気がつくと、父さんが目を覚まして俺を眺めていた。

「父さん、目が覚めたの?」
俺がそう言うと、父さんは少し笑いながら言う。
「久しぶりに長い夢をみていたみたいだった。お前が小さい頃の夢だよ。母さんもいて、公園で遊んでた。」
父さんがそんな話しをするから俺は少し驚いた。
「恭弥、いつの間にそんな大きくなったんだ。俺は今、タイムマシーンに乗ってきた気分だったよ。」

「何わけわかんない事言ってんだよ。仕事のし過ぎで頭おかしくなったんじゃないの?里さんが怒ってたよ。あんな生活続けてって。」

俺がそう言うと、父さんは小さく「ははっ」と笑うと、また軽く目を閉じた。

「そうだな。最近は、全然身体がついていかなくなったな。恭弥、もう数学をやる気はないのか?」

何で突然父さんがそんな事を言うのかわからなかった。
「ないよ。もうきっぱり辞めたんだ。未練もない。」

俺が言うと、父さんが閉じていた目を開けて、俺を見つめていう。

「恭弥、父さんの研究所にこないか?一緒に薬の開発をしないか?」

それは俺が予想もしない言葉だった。
俺はしばらく父さんの顔を見つめていたが、少し笑って
「しないよ。俺にできるわけないよ、興味も全くないし。どうしちゃったんだよ。今までそんな事言ってきた事ないじゃんか。」
と返す。

それを聞いて父さんは、俺の顔から目をそらし、病院の天井を眺めながら言った。
「そうか。」

父さんの意図が全くわからなかった。
身体を壊して気弱になっていたのかもしれない。

家にら帰ると10時近かった。
流華がリビングにいて、「おかえり。」
と声をかけてくる。

「ただいま。あれ?里さんは?」
「今丁度お風呂に入ったところよ、それよりお父さんの身体は大丈夫なの?」
流華が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だった。ただの疲労だよ。寝ずにずっと研究をしてたみたいだから。」
「そうだったの、たいした事ないならいいんだけど。健一叔父さんも病院に?」
俺は首を振る。
「いや?父さんが倒れた事は知らないよ、どうして?」
「今日事務所に行ったけど全然帰ってこなかったから、病院に行ってるんだと思って。」

叔父さん事務所にいなかったのか?
なんか大きな案件でも入ったのか?
それとも、、、流華について調べているのか。

「いや、きてないよ。仕事で張り込みかなんかしてんだろ。」
「そうかしら。とりあえず今日は不倫の調査で対象者の行動を把握してきたわ。」
と流華が言う。
はっきり言って流華は物凄く仕事が出来る。恐ろしく出来る。健一叔父さんも流華が来てくれてだいぶ助かっている。

健一叔父さんが流華を追い出す事が出来ないのはその理由からだ。

「はやくよくなるといいわね。もう7月になっちゃうわ。」

と流華がカレンダーを見ながら言う。

もう本格的に夏がくるのか。
俺はまだこの時楽しみだった。
流華との夏をどうやって過ごすか、それしか考えていなかった。
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