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東京の親友
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大会の後蒼と、同じ陸上部の沙耶と美波と一緒に遊んだ。
村にある唯一のパン屋さんで、パンと何故か置いてあるラムネを買って、外のベンチで乾杯した。
「蒼、足大丈夫なの?」
沙耶が聞くと蒼は少し足を動かして、
「うん!大丈夫!どうせ今日日曜日で病院休みだし、明日ちゃんと見てもらうよ、早く治さないと、糸にリレーの選手とられちゃいそうだし。」
と私の方を向いて笑う。
「手加減はしないからね!」
と言って、私はぶんぶん腕を振る。
「でも、本当凄かったよ、糸。
あの距離でまさか2人も抜けると思わなかったよ~!」
沙耶が言うと皆んな頷く。
「たまたま今日は調子良かっただけだよ。
なんか身体が凄く身軽だったんだよね。」
「糸、飛ぶように走ってたよね?次の大会もこの調子でお願いします!」
と皆んなが言って笑う。
友達と遊んで笑い合うなんて本当に久しぶりだ。
しかも、1番苦手だと思っていた子達と。
きっかけ1つでこんなにも、自分も周りも変わって行く事がとても不思議だった。
「ねぇねぇ、糸は東京に彼氏とかいるの?」
美波が私に聞いてくる。
何処の中学生でも、このくらいの年齢は皆んな恋バナが好きらしい。
「いない、いない。片思いしてた先輩はいたんだけど、彼女できちゃったし。」
「えー!そうなんだぁ。それはショックだね。でも、都会は良いよね、まず選択肢が多いじゃん。」
「そうそう、こっちなんて同じ学年の男子は10人くらいしかいないし。しかも幼稚園からずーっと顔ぶれは変わんないし。その中から選ばなきゃならないからね。」
「今さら選ぶもないでしょ、大体ときめかないよ!」
そう言って皆んなが頷いている。
確かに、村だとそうそう新しい出会いは、なさそうだ。
皆んなが、幼馴染の様な関係だから、関係性は濃そうだが。
「私もやっぱり、高校は県外の高校行きたいな~この辺は陸上強い高校ないし。」
蒼が溜息つきながら、言う。
「蒼前から言ってるもんね!
陸上の強豪行きたいって、親はまだ反対してるの?」
沙耶が聞く。
「だめだって~!
私が行きたい高校私立だし。学費も高いし、寮費までかかるから、とてもじゃないけど、お金出せないって言われた。」
「そうだよね~私立は高いよね。
うちも、いいから、神坂高行けって言われたよ。」
「それって名前書けば受かるっていう高校?」
私が聞くと、皆んなが「そう、超バカ高!」
と言う。
「あんな高校出ても意味ないって。
良い大学いけるわけじゃないし。この辺塾だってないし。」
蒼がラムネを飲み干して言う。
「糸も可哀想だよ。わざわざ東京から、こんな何もない、ど田舎に来なきゃなんなくて。」
と美波もしみじみ言う。
「私は、意外に好きなんだけどな、この村。
自然は豊かだし。静かだし。おばあちゃんの料理、美味しいし。」
私が言うと皆んなが笑いだす。
「何それ!そんなん何処がいいの?
全然良くないよ!」
美波が言う。
でも、私はこの神坂村が今はそんなに嫌ではない。
おしゃれなカフェも、雑貨屋もないが、今はそんなに行きたいとも思わない。
私はこの村に何故か魅力を感じて、居心地がいいのだ。
そこで蒼が思いついたように言う。
「じゃぁ、糸にも教えてあげようよ!
私達のとっておきの場所!」
そう言って私以外の3人が顔を合わせて、ニヤリとする。
その、とっておきの場所は、パン屋さんから少し歩いて、急斜面を登った所にあった。
棚田の上の所に、ウッドデッキが作ってあり、ちょっとした椅子と机がある場所だった。
そこからは棚田の景色が綺麗に見下ろせた。
田んぼは、緑色の絨毯の様に美しく広がり、
それが幾重にも段々となっていた。
「糸~綺麗でしょ!これうちの棚田なんだよ!
お父さんが見晴らしが良いからってウッドデッキ作ったの。」
美波がそう言いながら、ジュースとお菓子を家から持ってきた。
「ちょっとした、オープンカフェみたいでしょ。
私達よくここでお茶して、遊んでるんだ。」
蒼が言う。
「すごーい!最高じゃん!こんな綺麗な景色見ながら、お茶できるなんて、どんなカフェより贅沢だよ!」
私が感動して言うと、美波が得意気に言う。
「糸、この景色で満足してちゃだめだよ。
秋が1番綺麗なんだから。1面田んぼが黄金色に輝くんだよ。」
私は想像しただけで、見たくて仕方なくなってしまった。
「やっぱり、ここは良い所だよ。」
私が言うと、蒼が笑いながら、
「私達ないものねだりかもね。」
と言った。
それから、日が暮れるまで私達は美波の家の棚田で喋っていた。
夕日が棚田を赤く染めて、それもとても幻想的で綺麗な景色だった。
皆んなと別れ、私と蒼は家が同じ方角なので一緒に帰る。
村唯一の商店に、玄さんの花火のポスターが貼ってある。
「蒼!蒼も花火大会行くの?」
私が聞くと蒼もポスターを見て私に言う。
「もちろんだよ。今年最後の花火大会だもん。
絶対行くよ!流星花火が見られなくなっちゃうなんて本当にショック。夏のメインイベントなのに。」
やっぱり、村の人は皆んなこの花火を楽しみにしているようだ。
「糸は知ってる?流星花火は、別名"恋花火"って言われてるんだよ。」
「恋花火?」
「そう。好きな人と一緒に見て、流星花火が下に消えるまでに『この人とずっと一緒にいられますように。』って願うと、叶うって言われてるんだよ。」
恋花火、、、そうか、だから母は結婚前にわざわざ、父をここへ連れてきて一緒に花火を見たのか。
若い母の可愛いらしい1面を見た気がして、なんだか微笑ましかった。
「私も一緒に見たい人がいるんだよね。花火。」
蒼が歩き出しながら言う。
「そうなの?同じクラスの子?」
「違う!違う!同じクラスの男子なんて全然良い男いないじゃん。」
蒼が顔の前で、指でバツを作りながら言う。
「じゃあ先輩?陸上部の?」
「そう、当たり。1個上のね、もう引退しちゃったけど。」
3年生は夏前に引退しちゃっているのか。
「誘ってみたの?」
「なかなか勇気が出なくてさ。
でも、誘いたいとは思ってる。
先輩、高校は県外の高校へ行っちゃうの。
だから、来年にはもうこの村をでちゃうんだよ。」
「蒼、だから県外の高校行きたいの?」
私が尋ねると、蒼は珍しく、歯切れが悪そうに言ってくる。
「それだけじゃないけど、まぁ、、、それもあるかな?反対されてるからほぼ無理だけど。」
「じゃぁ、尚更今回誘わないとだめじゃん!」
「そうだけど、断られたと思うと誘えないんだよ。先輩人気あるし、他にも狙ってる人いると思うし。」
私は、蒼の気持ちが良くわかった。
私も同じ理由で、東京の中学の先輩に告白出来なかったからだ。
3年近くも片思いしていたのに、結局思いは告げれず、先輩は私の親友と付き合ってしまった。
私が勇気を出していたら、私が彼女になるチャンスもあったのだろうか?
それすらもわからずに、私の初恋は終わってしまった。
「蒼、気持ちよくわかるけど、絶対思いを伝えた方が良いよ。
駄目だとしても、伝えられたらきっと自分も納得出来るし、好きだって言われて嫌な気持ちになる人なんていないよ。」
私は蒼に後悔してほしくなかった。
私の様に。
「そうだよね、、、。うん。糸の言う通りだと思う、誘ってみる!頑張る!」
「うん!頑張れ!」
私は、蒼を応援する。
家に着くと、国子さんが「お帰り。」
と畑から戻ってきた所だった。
私は、今日あった事を国子さんに話して、陸上部に入部した事を伝えた。
国子さんは、友達が出来た事と、部活に入った事を喜んでくれた。
「国子さん、ごめん。私パンとおやつ食べすぎちゃって、あんまりお腹空いてない。」
と言うと、国子さんは
「あれあれ?そうか。なら今日は私も楽しちゃおうかね。焼きおにぎりだけはどうだい?」
と言った。
私は「賛成!」と言って、その夜は焼きおにぎりだけで軽めの夕飯を済ませた。
焼きおにぎりは、味噌と味醂を溶いた物を塗って、醤油をかけて焼いてあった。やっぱりとても美味しかった。
お腹いっぱいと言ったくせに、私は3つも食べてしまった。
お風呂を出て携帯を見ると、着信があった。
相手は誰かな?と思うと、東京の結奈だった。
なんだろう。
私が引っ越してから殆ど連絡は取っていなかった。
勿論、結奈も先輩と付き合った事で私に気まづい思いがあって、連絡してこないんだろうと思っていた。
私は一応結奈に電話をかけ直す。
先輩と付き合ってる事を知った時は、私は裏切られたと怒っていたが、今は何故か何とも思っていない自分がいる。
『もしもし?糸?』
懐かしい結奈の声だった。
声を聞いただけで、東京にいた頃に戻った様な錯覚に落ちいる。
『久しぶり。元気だった?』
私が言うと結奈が少し気まづそうに話し始める。
『糸、ごめんね、、、。私、糸にずっと話したいと思ってて。』
『先輩の事?』
私がズバリと聞く。
『そう、、、。糸本当にごめん!私先輩と付き合った事言わなくて。でも信じてもらえないかもしれないけど、付き合ったのは、糸が引っ越してすぐなの。』
『結奈はずっと先輩が好きだったの?』
私が聞くと結奈は少し黙った。
『うん、、、。1年くらい前から好きだった。
でも、糸に言い出せなくて。』
『そっか、、、。そうだよね。私が隣でずっと好き好きうるさかったもんね。
言いにくかったと思う。』
『でも、卑怯だった、、、。親友ならきちんと話して、正々堂々戦うべきだった。ごめんね。』
結奈が泣きそうな声で話す。
私は何故か胸の辺りがすーっと軽くなるのを感じた。
『謝らなくていいよ。
だって、先輩と私付き合ってたわけじゃないし。いいんだよ。私に遠慮しないで。』
私が結奈でも、多分自分の気持ちを言えなかっただろう。
でもこうして、私に直接言ってくれただけで、私は嬉しかった。
『糸がいなくなってさ、みんな凄く寂しがってるよ。特に陸上部の子達は。
糸が居なくなって、今度の大会の混合リレー、ピンチだって話してたよ。
新しい中学でも陸上部入った?』
8月に本当だったら、大会に出る予定だったんだ。
もうすっかり忘れていた。
母が病気になってから、私の日常は完全に変わってしまっていた。
『こっちでも、陸上続ける事になったよ。
同じ部活で、友達も出来たよ。私はなんとかこっちでやっていけそうだよ。』
『そっか~。それを聞いて、安心したけど、ちょっと寂しい。っていうか、本当に寂しい!』
結奈が子供みたいに言うから、私は笑ってしまう。
東京の友達はずっと、友達だ。
離れていても、ずっと大切な友達でいられるように、努力したいと思った。
『糸は、そっちで良い出会いないの?』
結奈が聞いてくる。
私は少し考える。
頭の中に思い浮かんだのが、光だった。
なんで光が頭に浮かぶのかよくわからなかった。
口も悪いし、すぐ怒鳴るし、雑だし。
全然優しくもない。
私が好きだった先輩とは全然違う。
私は好きだった先輩の顔を思い浮かべる。
先輩とは塾が一緒で小学生の頃から、私の憧れだった。
優しくて、かっこよくて、勉強も出来て、完璧だった。
私は塾のイベントの夏合宿で、同じ班になり、それからずっと先輩と付き合える事を夢みていた。
もちろんそんな先輩は、人気もあって私は自分の気持ちを伝えるなんて、大層な事は出来るはずもなく、ただ外からきゃーきゃー言っていただけだ。
とにかく、光とは全然違うタイプの人だ。
私にも、誰にでも優しい大人の先輩だった。
光はやってる事も話す事も子供みたいだ。
幼稚園児がそのまま大きくなっただけの様なタイプ、、、。
けど、、、。
光が一緒にいると私は勇気が出せる。
強くなれる気がする。
優しさなら誰でも簡単にくれる。
けど、強さをくれるのは光しかいない。
『いつも腹が立つけど、気になる人ならいる。』
光は私が今まで出会った事のない様な人間だ。
あんな男子は、東京にはいなかった。
私は花火を光と見たいと思った。
きっと、得意気に言うだろう。
「どうだ?凄いだろ?」
って。きっと、恋花火の話しをしても「くだらない。」としか言わないだろう。
だから、誘いやすい。
私は次会った時絶対に誘おうと思った。
その後、私は結奈としばらく話してから電話を切った。
喋り過ぎたのか、喉が渇いてきたので、キッチンへ行って麦茶を飲もうと思った。
部屋から出て、廊下を歩いてキッチンへ行く。キッチンの隣りが居間で、その隣りが国子さんの部屋だ。
私はこの家にも、だいぶ慣れてきて夜でも自分の部屋を出て、出歩ける様になってきた。
それまでは、トイレに行くのも怖くて、
我慢していたのだ。
ふと気がつくと、国子さんの部屋から明かりが漏れている。
私は不思議に思った。
今の時間は、23時。
国子さんはいつも、早くに寝てしまうのに。
私は国子さんの部屋を覗く。
そうすると、国子さんが写真立ての様なものを抱きしめて、肩を震わせていた。
私はすぐに気がついた。
国子さんは、母の写真を抱いて泣いているのだ。
小さな声で
「紬、、、。」
と聞こえた。
私は見てはいけない物を見てしまった気がして、自分の部屋へ戻った。
母は、国子さんが育てた様なものだ。
孫というより、娘の様に思っていたはずだ。
母が亡くなって、国子さんが悲しくないわけがない。
いつも、冷静で感情の起伏の少ない国子さんだから、私は気づかなかった。
表面はいくら気丈に振る舞っていたって、心のうちは違う事。
いつもは平気でも、急にダムが決壊するように、寂しさや、悲しさが溢れだす瞬間がある。
そして、また静かになり、日常へ戻っていく。
家族を失った人間は、その繰り返しだ。
人間には言葉に出せない色々な感情がある事を、私はその時に初めて知ったのだ。
村にある唯一のパン屋さんで、パンと何故か置いてあるラムネを買って、外のベンチで乾杯した。
「蒼、足大丈夫なの?」
沙耶が聞くと蒼は少し足を動かして、
「うん!大丈夫!どうせ今日日曜日で病院休みだし、明日ちゃんと見てもらうよ、早く治さないと、糸にリレーの選手とられちゃいそうだし。」
と私の方を向いて笑う。
「手加減はしないからね!」
と言って、私はぶんぶん腕を振る。
「でも、本当凄かったよ、糸。
あの距離でまさか2人も抜けると思わなかったよ~!」
沙耶が言うと皆んな頷く。
「たまたま今日は調子良かっただけだよ。
なんか身体が凄く身軽だったんだよね。」
「糸、飛ぶように走ってたよね?次の大会もこの調子でお願いします!」
と皆んなが言って笑う。
友達と遊んで笑い合うなんて本当に久しぶりだ。
しかも、1番苦手だと思っていた子達と。
きっかけ1つでこんなにも、自分も周りも変わって行く事がとても不思議だった。
「ねぇねぇ、糸は東京に彼氏とかいるの?」
美波が私に聞いてくる。
何処の中学生でも、このくらいの年齢は皆んな恋バナが好きらしい。
「いない、いない。片思いしてた先輩はいたんだけど、彼女できちゃったし。」
「えー!そうなんだぁ。それはショックだね。でも、都会は良いよね、まず選択肢が多いじゃん。」
「そうそう、こっちなんて同じ学年の男子は10人くらいしかいないし。しかも幼稚園からずーっと顔ぶれは変わんないし。その中から選ばなきゃならないからね。」
「今さら選ぶもないでしょ、大体ときめかないよ!」
そう言って皆んなが頷いている。
確かに、村だとそうそう新しい出会いは、なさそうだ。
皆んなが、幼馴染の様な関係だから、関係性は濃そうだが。
「私もやっぱり、高校は県外の高校行きたいな~この辺は陸上強い高校ないし。」
蒼が溜息つきながら、言う。
「蒼前から言ってるもんね!
陸上の強豪行きたいって、親はまだ反対してるの?」
沙耶が聞く。
「だめだって~!
私が行きたい高校私立だし。学費も高いし、寮費までかかるから、とてもじゃないけど、お金出せないって言われた。」
「そうだよね~私立は高いよね。
うちも、いいから、神坂高行けって言われたよ。」
「それって名前書けば受かるっていう高校?」
私が聞くと、皆んなが「そう、超バカ高!」
と言う。
「あんな高校出ても意味ないって。
良い大学いけるわけじゃないし。この辺塾だってないし。」
蒼がラムネを飲み干して言う。
「糸も可哀想だよ。わざわざ東京から、こんな何もない、ど田舎に来なきゃなんなくて。」
と美波もしみじみ言う。
「私は、意外に好きなんだけどな、この村。
自然は豊かだし。静かだし。おばあちゃんの料理、美味しいし。」
私が言うと皆んなが笑いだす。
「何それ!そんなん何処がいいの?
全然良くないよ!」
美波が言う。
でも、私はこの神坂村が今はそんなに嫌ではない。
おしゃれなカフェも、雑貨屋もないが、今はそんなに行きたいとも思わない。
私はこの村に何故か魅力を感じて、居心地がいいのだ。
そこで蒼が思いついたように言う。
「じゃぁ、糸にも教えてあげようよ!
私達のとっておきの場所!」
そう言って私以外の3人が顔を合わせて、ニヤリとする。
その、とっておきの場所は、パン屋さんから少し歩いて、急斜面を登った所にあった。
棚田の上の所に、ウッドデッキが作ってあり、ちょっとした椅子と机がある場所だった。
そこからは棚田の景色が綺麗に見下ろせた。
田んぼは、緑色の絨毯の様に美しく広がり、
それが幾重にも段々となっていた。
「糸~綺麗でしょ!これうちの棚田なんだよ!
お父さんが見晴らしが良いからってウッドデッキ作ったの。」
美波がそう言いながら、ジュースとお菓子を家から持ってきた。
「ちょっとした、オープンカフェみたいでしょ。
私達よくここでお茶して、遊んでるんだ。」
蒼が言う。
「すごーい!最高じゃん!こんな綺麗な景色見ながら、お茶できるなんて、どんなカフェより贅沢だよ!」
私が感動して言うと、美波が得意気に言う。
「糸、この景色で満足してちゃだめだよ。
秋が1番綺麗なんだから。1面田んぼが黄金色に輝くんだよ。」
私は想像しただけで、見たくて仕方なくなってしまった。
「やっぱり、ここは良い所だよ。」
私が言うと、蒼が笑いながら、
「私達ないものねだりかもね。」
と言った。
それから、日が暮れるまで私達は美波の家の棚田で喋っていた。
夕日が棚田を赤く染めて、それもとても幻想的で綺麗な景色だった。
皆んなと別れ、私と蒼は家が同じ方角なので一緒に帰る。
村唯一の商店に、玄さんの花火のポスターが貼ってある。
「蒼!蒼も花火大会行くの?」
私が聞くと蒼もポスターを見て私に言う。
「もちろんだよ。今年最後の花火大会だもん。
絶対行くよ!流星花火が見られなくなっちゃうなんて本当にショック。夏のメインイベントなのに。」
やっぱり、村の人は皆んなこの花火を楽しみにしているようだ。
「糸は知ってる?流星花火は、別名"恋花火"って言われてるんだよ。」
「恋花火?」
「そう。好きな人と一緒に見て、流星花火が下に消えるまでに『この人とずっと一緒にいられますように。』って願うと、叶うって言われてるんだよ。」
恋花火、、、そうか、だから母は結婚前にわざわざ、父をここへ連れてきて一緒に花火を見たのか。
若い母の可愛いらしい1面を見た気がして、なんだか微笑ましかった。
「私も一緒に見たい人がいるんだよね。花火。」
蒼が歩き出しながら言う。
「そうなの?同じクラスの子?」
「違う!違う!同じクラスの男子なんて全然良い男いないじゃん。」
蒼が顔の前で、指でバツを作りながら言う。
「じゃあ先輩?陸上部の?」
「そう、当たり。1個上のね、もう引退しちゃったけど。」
3年生は夏前に引退しちゃっているのか。
「誘ってみたの?」
「なかなか勇気が出なくてさ。
でも、誘いたいとは思ってる。
先輩、高校は県外の高校へ行っちゃうの。
だから、来年にはもうこの村をでちゃうんだよ。」
「蒼、だから県外の高校行きたいの?」
私が尋ねると、蒼は珍しく、歯切れが悪そうに言ってくる。
「それだけじゃないけど、まぁ、、、それもあるかな?反対されてるからほぼ無理だけど。」
「じゃぁ、尚更今回誘わないとだめじゃん!」
「そうだけど、断られたと思うと誘えないんだよ。先輩人気あるし、他にも狙ってる人いると思うし。」
私は、蒼の気持ちが良くわかった。
私も同じ理由で、東京の中学の先輩に告白出来なかったからだ。
3年近くも片思いしていたのに、結局思いは告げれず、先輩は私の親友と付き合ってしまった。
私が勇気を出していたら、私が彼女になるチャンスもあったのだろうか?
それすらもわからずに、私の初恋は終わってしまった。
「蒼、気持ちよくわかるけど、絶対思いを伝えた方が良いよ。
駄目だとしても、伝えられたらきっと自分も納得出来るし、好きだって言われて嫌な気持ちになる人なんていないよ。」
私は蒼に後悔してほしくなかった。
私の様に。
「そうだよね、、、。うん。糸の言う通りだと思う、誘ってみる!頑張る!」
「うん!頑張れ!」
私は、蒼を応援する。
家に着くと、国子さんが「お帰り。」
と畑から戻ってきた所だった。
私は、今日あった事を国子さんに話して、陸上部に入部した事を伝えた。
国子さんは、友達が出来た事と、部活に入った事を喜んでくれた。
「国子さん、ごめん。私パンとおやつ食べすぎちゃって、あんまりお腹空いてない。」
と言うと、国子さんは
「あれあれ?そうか。なら今日は私も楽しちゃおうかね。焼きおにぎりだけはどうだい?」
と言った。
私は「賛成!」と言って、その夜は焼きおにぎりだけで軽めの夕飯を済ませた。
焼きおにぎりは、味噌と味醂を溶いた物を塗って、醤油をかけて焼いてあった。やっぱりとても美味しかった。
お腹いっぱいと言ったくせに、私は3つも食べてしまった。
お風呂を出て携帯を見ると、着信があった。
相手は誰かな?と思うと、東京の結奈だった。
なんだろう。
私が引っ越してから殆ど連絡は取っていなかった。
勿論、結奈も先輩と付き合った事で私に気まづい思いがあって、連絡してこないんだろうと思っていた。
私は一応結奈に電話をかけ直す。
先輩と付き合ってる事を知った時は、私は裏切られたと怒っていたが、今は何故か何とも思っていない自分がいる。
『もしもし?糸?』
懐かしい結奈の声だった。
声を聞いただけで、東京にいた頃に戻った様な錯覚に落ちいる。
『久しぶり。元気だった?』
私が言うと結奈が少し気まづそうに話し始める。
『糸、ごめんね、、、。私、糸にずっと話したいと思ってて。』
『先輩の事?』
私がズバリと聞く。
『そう、、、。糸本当にごめん!私先輩と付き合った事言わなくて。でも信じてもらえないかもしれないけど、付き合ったのは、糸が引っ越してすぐなの。』
『結奈はずっと先輩が好きだったの?』
私が聞くと結奈は少し黙った。
『うん、、、。1年くらい前から好きだった。
でも、糸に言い出せなくて。』
『そっか、、、。そうだよね。私が隣でずっと好き好きうるさかったもんね。
言いにくかったと思う。』
『でも、卑怯だった、、、。親友ならきちんと話して、正々堂々戦うべきだった。ごめんね。』
結奈が泣きそうな声で話す。
私は何故か胸の辺りがすーっと軽くなるのを感じた。
『謝らなくていいよ。
だって、先輩と私付き合ってたわけじゃないし。いいんだよ。私に遠慮しないで。』
私が結奈でも、多分自分の気持ちを言えなかっただろう。
でもこうして、私に直接言ってくれただけで、私は嬉しかった。
『糸がいなくなってさ、みんな凄く寂しがってるよ。特に陸上部の子達は。
糸が居なくなって、今度の大会の混合リレー、ピンチだって話してたよ。
新しい中学でも陸上部入った?』
8月に本当だったら、大会に出る予定だったんだ。
もうすっかり忘れていた。
母が病気になってから、私の日常は完全に変わってしまっていた。
『こっちでも、陸上続ける事になったよ。
同じ部活で、友達も出来たよ。私はなんとかこっちでやっていけそうだよ。』
『そっか~。それを聞いて、安心したけど、ちょっと寂しい。っていうか、本当に寂しい!』
結奈が子供みたいに言うから、私は笑ってしまう。
東京の友達はずっと、友達だ。
離れていても、ずっと大切な友達でいられるように、努力したいと思った。
『糸は、そっちで良い出会いないの?』
結奈が聞いてくる。
私は少し考える。
頭の中に思い浮かんだのが、光だった。
なんで光が頭に浮かぶのかよくわからなかった。
口も悪いし、すぐ怒鳴るし、雑だし。
全然優しくもない。
私が好きだった先輩とは全然違う。
私は好きだった先輩の顔を思い浮かべる。
先輩とは塾が一緒で小学生の頃から、私の憧れだった。
優しくて、かっこよくて、勉強も出来て、完璧だった。
私は塾のイベントの夏合宿で、同じ班になり、それからずっと先輩と付き合える事を夢みていた。
もちろんそんな先輩は、人気もあって私は自分の気持ちを伝えるなんて、大層な事は出来るはずもなく、ただ外からきゃーきゃー言っていただけだ。
とにかく、光とは全然違うタイプの人だ。
私にも、誰にでも優しい大人の先輩だった。
光はやってる事も話す事も子供みたいだ。
幼稚園児がそのまま大きくなっただけの様なタイプ、、、。
けど、、、。
光が一緒にいると私は勇気が出せる。
強くなれる気がする。
優しさなら誰でも簡単にくれる。
けど、強さをくれるのは光しかいない。
『いつも腹が立つけど、気になる人ならいる。』
光は私が今まで出会った事のない様な人間だ。
あんな男子は、東京にはいなかった。
私は花火を光と見たいと思った。
きっと、得意気に言うだろう。
「どうだ?凄いだろ?」
って。きっと、恋花火の話しをしても「くだらない。」としか言わないだろう。
だから、誘いやすい。
私は次会った時絶対に誘おうと思った。
その後、私は結奈としばらく話してから電話を切った。
喋り過ぎたのか、喉が渇いてきたので、キッチンへ行って麦茶を飲もうと思った。
部屋から出て、廊下を歩いてキッチンへ行く。キッチンの隣りが居間で、その隣りが国子さんの部屋だ。
私はこの家にも、だいぶ慣れてきて夜でも自分の部屋を出て、出歩ける様になってきた。
それまでは、トイレに行くのも怖くて、
我慢していたのだ。
ふと気がつくと、国子さんの部屋から明かりが漏れている。
私は不思議に思った。
今の時間は、23時。
国子さんはいつも、早くに寝てしまうのに。
私は国子さんの部屋を覗く。
そうすると、国子さんが写真立ての様なものを抱きしめて、肩を震わせていた。
私はすぐに気がついた。
国子さんは、母の写真を抱いて泣いているのだ。
小さな声で
「紬、、、。」
と聞こえた。
私は見てはいけない物を見てしまった気がして、自分の部屋へ戻った。
母は、国子さんが育てた様なものだ。
孫というより、娘の様に思っていたはずだ。
母が亡くなって、国子さんが悲しくないわけがない。
いつも、冷静で感情の起伏の少ない国子さんだから、私は気づかなかった。
表面はいくら気丈に振る舞っていたって、心のうちは違う事。
いつもは平気でも、急にダムが決壊するように、寂しさや、悲しさが溢れだす瞬間がある。
そして、また静かになり、日常へ戻っていく。
家族を失った人間は、その繰り返しだ。
人間には言葉に出せない色々な感情がある事を、私はその時に初めて知ったのだ。
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取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
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部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
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