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まったく一緒だった…
あの日と一緒…
一彩の顔に次々と車のライトが当たって通り過ぎて行く。
私は、一彩の顔を見つめる。
「話しって何?」
私は覚悟を決めた。
一彩からどんな言葉が出てくるか、想像できなかったから。
一彩はいつもと違う真剣な顔で私を見つめる。
そして一彩が話しだした。
「瑞稀俺、無精子症だった。」
えっ?………無精子症?
私は一彩の突然の言葉にびっくりして、よく理解できなかった。
「それって、つまり、、、。」
「男性不妊って事だよ。」
男性不妊……。
私は何も言えず、ただ一彩の次の言葉を待った。
「俺の親父も、男性不妊だったらしいんだ。
お袋が俺を産んでから、兄弟を作りたいねって話しになったんだけど、なかなか出来なくて調べたら、お袋じゃなくて、親父に問題があったらしい。
だから、妹二人は不妊治療してやっとできたんだよ。」
だから、一彩は妹達と年齢がだいぶあいていたのか……。
「正直に話すと、今日瑞稀にプロポーズしようとずっと考えてたんだ。
でも、親父の話しも聞いてたから、なんとなく気になって、男性不妊の検査をしてみようと思って病院に行ってきた。」
「それで、わかったの…?」
「あぁ。無精子症って言われた、子供を授かれる確率はゼロに近いって。一応、治療や色々な方法はあるけど、女性側の負担が大きい治療が多いって…」
そんな事…。
一彩がなんで…。
私は強い衝撃を受けて、なんて言ったらいいか言葉が出てこなかった。
もしかして、一彩はだから私を…?
「俺は、瑞稀が子供を好きな事をよくわかってるつもりだよ。
だから幼稚園の先生にもなって、当然自分の子を望んでいるだろ?
って言うか、大半の人間がそうだと思う。
でも、俺と結婚したらその夢は叶えられない。」
一彩が辛そうな顔で私を見つめる。
この告白をするのに、一彩はどれだけの勇気がいったのだろうか。
「だから、本当は瑞稀と何も言わずに別れようって思ってた。
他に好きな人ができたとか、適当に嘘ついて瑞稀と別れれば、瑞稀も他の人と幸せになれるだろうって考えてた。」
だから、一彩は私をあの日振ったの?
私を嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたからでもなかったの?
私の幸せの為に別れを告げたって事?
「いつ…いつから知ってたの?
自分が病気だって…。」
私は自然と目に涙が溢れてくる。
「夏くらいに、検査うけたから三ヶ月前くらいかな…。」
一彩が悲しそうな顔で言う。
そんな前から知っていて、今まで一人で悩んでいたの?
そんな辛い気持ちを抱えて、私と普段通りに付き合っていたの?
私は自分の将来の事ばかり考えて、目の前の一彩が苦しんでいる事に全然気づいてあげられていなかった…。
一彩はあの日、一体どんな気持ちで私に別れを告げたの?
あの日の一彩の辛そうな顔が頭に浮かぶ。
私は涙が止められなかった。
自分の事ばかり考えて、辛いと泣いていた自分が心底嫌になってしまう。
一彩はいつでも、私の事を一番に考えてくれているのに…。
「瑞稀、ごめん。
俺、結局瑞稀を何度も諦めようとしたけど、やっぱり無理だった。
諦めきれなかった。
俺の我儘でしかない事はわかってるけど、
俺はこれからも、どうしても瑞稀の誕生日を毎年一緒にお祝いしたい。
だから、プロポーズさせて下さい。」
一彩がポケットから、小さな箱を取り出して、ふたを開ける。
そこには、きらきらと指輪が輝いていた。
「立花 瑞稀さん。俺と結婚して下さい。」
『今度はあなたが選ぶ番ですよ。
彼と別れるか、別れないか。』
マスターの言葉が頭に浮かぶ。
マスターが言っていたのはこの事だったのか。
私は、何が正解で何が間違っているかわからなかった。
だって、答えはいつも今にはなくて未来にしかないから。
正しい答えなんてわからなくて当然だ。
でも、唯一今わかるのは、私が今一番大切な人は一彩だって事だ。
一彩と人生を歩んでいきたい。
ただそれだけが、私の望みだ…。
私は、指輪を受け取る。
「私も、一彩と結婚したいです。」
私がそう言ったその瞬間、一彩の目に涙が溢れた。
そして、崩れ落ちるようにうずくまった。
私は、その一彩を上から優しく抱きしめた。
「瑞稀、本当にいいの?子供作れないかもしれないんだぜ?よく考えて、返事はいつでもいいから。」
一彩が私に言う。
でも、よく考えた所で、私の気持ちは変わらないだろう。
だって、知ってしまったから。
私は知ってしまった、一彩を失う辛さも、過去に戻って、どれだけ一彩が私の事を愛してくれて、支えてくれたかも。
私は、一彩を捨てる選択なんて絶対に出来ない。
この恋を、捨てる事も諦める事も絶対に出来ない。
「一彩、一人で悩ませてごめんね。
辛かったよね…これからは二人で考えよう。
私達夫婦になるんだから、良い方法がないか二人で一緒に考えていこうよ。」
一彩が私を抱きしめた。
私は、一彩に強く抱きしめられて、苦しいくらいだった。
今日は私が望んでいた、最高の誕生日だ。
最低最悪な日が、人生で一番幸せな日になった。
「一彩。記念に写真撮ろうよ!プロポーズ記念!」
「え?今?俺泣いて顔面最悪だけど。」
「大丈夫だよ!ほら撮ろうよ!」
私は携帯でシャッターをきる。
その瞬間、また意識が遠のいていった──
あの日と一緒…
一彩の顔に次々と車のライトが当たって通り過ぎて行く。
私は、一彩の顔を見つめる。
「話しって何?」
私は覚悟を決めた。
一彩からどんな言葉が出てくるか、想像できなかったから。
一彩はいつもと違う真剣な顔で私を見つめる。
そして一彩が話しだした。
「瑞稀俺、無精子症だった。」
えっ?………無精子症?
私は一彩の突然の言葉にびっくりして、よく理解できなかった。
「それって、つまり、、、。」
「男性不妊って事だよ。」
男性不妊……。
私は何も言えず、ただ一彩の次の言葉を待った。
「俺の親父も、男性不妊だったらしいんだ。
お袋が俺を産んでから、兄弟を作りたいねって話しになったんだけど、なかなか出来なくて調べたら、お袋じゃなくて、親父に問題があったらしい。
だから、妹二人は不妊治療してやっとできたんだよ。」
だから、一彩は妹達と年齢がだいぶあいていたのか……。
「正直に話すと、今日瑞稀にプロポーズしようとずっと考えてたんだ。
でも、親父の話しも聞いてたから、なんとなく気になって、男性不妊の検査をしてみようと思って病院に行ってきた。」
「それで、わかったの…?」
「あぁ。無精子症って言われた、子供を授かれる確率はゼロに近いって。一応、治療や色々な方法はあるけど、女性側の負担が大きい治療が多いって…」
そんな事…。
一彩がなんで…。
私は強い衝撃を受けて、なんて言ったらいいか言葉が出てこなかった。
もしかして、一彩はだから私を…?
「俺は、瑞稀が子供を好きな事をよくわかってるつもりだよ。
だから幼稚園の先生にもなって、当然自分の子を望んでいるだろ?
って言うか、大半の人間がそうだと思う。
でも、俺と結婚したらその夢は叶えられない。」
一彩が辛そうな顔で私を見つめる。
この告白をするのに、一彩はどれだけの勇気がいったのだろうか。
「だから、本当は瑞稀と何も言わずに別れようって思ってた。
他に好きな人ができたとか、適当に嘘ついて瑞稀と別れれば、瑞稀も他の人と幸せになれるだろうって考えてた。」
だから、一彩は私をあの日振ったの?
私を嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたからでもなかったの?
私の幸せの為に別れを告げたって事?
「いつ…いつから知ってたの?
自分が病気だって…。」
私は自然と目に涙が溢れてくる。
「夏くらいに、検査うけたから三ヶ月前くらいかな…。」
一彩が悲しそうな顔で言う。
そんな前から知っていて、今まで一人で悩んでいたの?
そんな辛い気持ちを抱えて、私と普段通りに付き合っていたの?
私は自分の将来の事ばかり考えて、目の前の一彩が苦しんでいる事に全然気づいてあげられていなかった…。
一彩はあの日、一体どんな気持ちで私に別れを告げたの?
あの日の一彩の辛そうな顔が頭に浮かぶ。
私は涙が止められなかった。
自分の事ばかり考えて、辛いと泣いていた自分が心底嫌になってしまう。
一彩はいつでも、私の事を一番に考えてくれているのに…。
「瑞稀、ごめん。
俺、結局瑞稀を何度も諦めようとしたけど、やっぱり無理だった。
諦めきれなかった。
俺の我儘でしかない事はわかってるけど、
俺はこれからも、どうしても瑞稀の誕生日を毎年一緒にお祝いしたい。
だから、プロポーズさせて下さい。」
一彩がポケットから、小さな箱を取り出して、ふたを開ける。
そこには、きらきらと指輪が輝いていた。
「立花 瑞稀さん。俺と結婚して下さい。」
『今度はあなたが選ぶ番ですよ。
彼と別れるか、別れないか。』
マスターの言葉が頭に浮かぶ。
マスターが言っていたのはこの事だったのか。
私は、何が正解で何が間違っているかわからなかった。
だって、答えはいつも今にはなくて未来にしかないから。
正しい答えなんてわからなくて当然だ。
でも、唯一今わかるのは、私が今一番大切な人は一彩だって事だ。
一彩と人生を歩んでいきたい。
ただそれだけが、私の望みだ…。
私は、指輪を受け取る。
「私も、一彩と結婚したいです。」
私がそう言ったその瞬間、一彩の目に涙が溢れた。
そして、崩れ落ちるようにうずくまった。
私は、その一彩を上から優しく抱きしめた。
「瑞稀、本当にいいの?子供作れないかもしれないんだぜ?よく考えて、返事はいつでもいいから。」
一彩が私に言う。
でも、よく考えた所で、私の気持ちは変わらないだろう。
だって、知ってしまったから。
私は知ってしまった、一彩を失う辛さも、過去に戻って、どれだけ一彩が私の事を愛してくれて、支えてくれたかも。
私は、一彩を捨てる選択なんて絶対に出来ない。
この恋を、捨てる事も諦める事も絶対に出来ない。
「一彩、一人で悩ませてごめんね。
辛かったよね…これからは二人で考えよう。
私達夫婦になるんだから、良い方法がないか二人で一緒に考えていこうよ。」
一彩が私を抱きしめた。
私は、一彩に強く抱きしめられて、苦しいくらいだった。
今日は私が望んでいた、最高の誕生日だ。
最低最悪な日が、人生で一番幸せな日になった。
「一彩。記念に写真撮ろうよ!プロポーズ記念!」
「え?今?俺泣いて顔面最悪だけど。」
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その瞬間、また意識が遠のいていった──
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