エンドロールを巻き戻せ

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「立花!大丈夫か?やばいなそれ!思いっきり刺さってるじゃん!」

のっちが気づいて心配してくれる。
私、こんな怪我したっけ?
考えてみたけど、思い出せない。
ただ記憶にないだけか、過去が変わっているのかどちらだろう?

一人でぼーっと考えていると、のっちが自分の持っていたタオルを私の手にぐるぐる巻いてくれる。

「ごめん。タオル、血で汚れちゃうよ?」

「いいよ!やるよそれ、俺の汗付きだけどな。それよりごめん。俺が見ないで立花にダンボール渡したからだな!すまん!」

「のっちのせいじゃないから気にしないで大丈夫だよ。私が気づかなかっただけだし。」

「でも、立花楽器吹くだろ?手怪我して大丈夫なのかよ。」

と心配そうな顔で私を見る。
確かに、手を怪我するのは非常にまずい。

けどこのくらいの傷なら大丈夫だろう。
問題なく動くはずだ。

「このくらい大丈夫だよ。行こう行こう!」
そう言って、私とのっちは学校へ戻る。
帰り道に、のっちが私に言う。
「立花、甲子園の予選応援に来てくれたよな。」

うちの野球部はそれなりに強豪で、甲子園に出場した事もあるくらい強い。

今年は、惜しくも甲子園には行けなかったけれど、吹奏楽部は毎年応援に行っている。

「うん!惜しかったね!今年は、演奏するの忘れて試合見入っちゃったよ!」

「吹奏楽部のあの応援さぁ、結構マウンドに立ってると耳に入ってくんだよ。」

「そうなの?緊張して聞こえてないと思ってた!」

「逆にすげー届く。むしろ俺はそれしか聞こえなかったくらいに。
こう、ダイレクトに届く感じ?応援されてるって!」

そう言いながら、にこにことのっちが笑う。
私はそれを聞いて素直に嬉しかった。

野球部の応援は吹奏楽部でも力を入れていた。
暑い中、ずっと演奏するのは体力的にきついし、楽譜も暗譜しないといけなかったから、大変だけれど、それ以上に音楽で選手を応援して、勇気づけられるのが嬉しかった。

だから、のっちの耳に少しでも、私の応援が届いていたなら物凄く嬉しい!

「ありがとう!そう言ってくれたら、努力した甲斐があったよ~!」

「なんか、直接お礼言う機会がなかったから、どうしても言いたくて。文化祭でも、演奏するんだろ?」

「うん!野球部応援メドレーやるから聞きにきてよ!」

「いやぁ!思い出して俺泣いちゃいそうだわ。」

そう言ってのっちが笑う。
結局のっちは、高校三年間一度も甲子園には行けず、卒業するのだ。

どんなに頑張って努力しても叶わない事もある。
願った事全てが叶うわけじゃないとわかっているけど、その叶えたかった思いは何処に置いて行けばいいんだろう。


私とのっちは、野球応援メドレーを二人で歌いながら学校まで戻った。

校門を入ってすぐに、部活に向かう途中の一彩に後ろから声をかけられた、
「瑞稀?手どうしたんだよ。」


私は血が滲んだタオルを巻かれた右手を見ながら、
「一彩!ああ、大丈夫。ちょっとホチキス刺さっただけだから。」
と言うと、一彩が怖い顔をして私の方へ来る。

「サックス吹けなくなったらどうするんだよ。」

一彩が珍しく怒っていた。
「はやく。保健室行くぞ。」
と言って私の手をとって歩こうとするので、私は慌ててのっちにダンボールを渡す。

「のっちごめん!」
私が言うと、のっちは戸惑いながら
「ああ、おう、、、」
と言ってダンボールを受け取ってくれた。


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