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天使襲来編

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 隔週の日曜日は、お母さんと宮森おとうさんと私の三人で過ごせる日だ。
 家に帰って来てくれる時は、ルーキフェルたちは出掛けていてくれて、夜になって「じゃあまたね」と出て行ってしまう二人を見送り。三人で出掛けた際には、家の前で「じゃあまたね」となる。
 正直なところ寂しくて堪らなくなるけれど、三人で過ごせる日があることの喜びを噛みしめる方が大事だ。一度壊れかけた関係が修復されようとしているのだから。

 それもこれも、ルーキフェルたちのお陰。彼らが私なんかのことを気に止めてくれたから起きた、奇跡なのだ。

 きっとこの後は二人でデートだよね。
 そんなことを思いながら、こっそり二人の背中を見送る。
 二人とも、私が家の中に入るのを確認してから去って行くから、いつも頃合いを見計らって、こうして見送ることにしていた。
 まだ夫婦関係ではあるけれど、恋人の状態からやり直している二人。私の前では元の関係に戻りつつあるように思えるのだけれど、本当はどうなのか気になってしまう。
 残り半年と少しで出される結果を、今度こそ私は受け入れなければならないのだ。
 ……ううん。きっと大丈夫。不安になるより希望を持っていた方がいい。
 私が二人の楔……否、かすがいになるんだ。

「……あれ?」

 二人の姿が見えなくなったところで、玄関に戻った私は、いつもと何かが違うことに気付いた。
 上手く説明出来ないけれど、なんというか、家の中が妙に静かで冷えきっていて緊張する。
 ルーキフェルたちは出掛けているのかな。まさか窓が開けっ放しとか?
 そう考え、慌てて先ずはリビングに移動する。
 12月になってもまだそれほど寒くはないとはいえ、さすがに暖房は必要となっている。そんな中での窓の開けっ放しは、遠慮して欲しい。
 第一、防犯的にもね。

「!」 

 心臓が破裂しそうなくらい。という表現にぴったりだと後に思い返した程の衝撃を胸に受けた。
 足が硬直してしまったように、先に進めない。否、進むことを赦されなかったということなのかもしれない。
 そこにはルーキフェルでもグザファン先生でもない、そして犬の姿をしたアガリアレプトでもない誰か・・がいた。

 その人は不審者で不法侵入者で強盗か何かだと判断してしまうところなのに、その佇まいだけで、まるでこの家の……この空間の支配者であるかのような雰囲気を漂わせている。

 柔らかな光が繊細な糸に変えたような金色の髪。
 白磁の面の中で一際目を引くのは、丁寧に研磨された極上の宝石のような翡翠の瞳。
 華奢でありながら鍛えられている身体だと察せられるのは、片方だけ剥き出しになった腕の所為。
 そして、背中から生えているのは――純白の翼。

 天使だ。

 堕天使がいるのだから、その存在を否定する気はない。
 けれど、何故ここに天使がいるのかということに、疑問を抱かずにはいられなかった。

 キーンと耳鳴りがしている。
 音を認識する前から違和感はあった。その違和感が頭の中(脳?)に広がりきった辺りで音が鳴り出した感じだった。

「――成程」

 青年の声(グザファン先生より僅か年上に見える)にしては半音程高いが凛とした声が耳朶を打つ。

「お前からあの者たちとの繋がりを絶ってしまおうかと思ったが、そうすることによってお前の平穏を奪うことになるならば、今暫くは控えておこう」

 その言葉の真意は分からないけれど、この場を支配するような圧迫感が薄れ、私は深く息を吐きながらその場に座り込んでしまう。
 緊張から解放されたことで気が抜けたというか、腰が抜けてしまったようだ。
 そんな私を一瞥し、天使は憂い顔となって呟く。
 
「このザラキエル、二度も間違いは犯さぬと決めているのだ」
「!!」

 ザラキエル――それが彼の名前だろうか。
 しかし待って下さい。私のちっぽけな脳の中に、その情報はないようです。
 それにしても、二度も間違いは犯さないというのは……?

「ルーキフェルらを堕天使としたのは、このザラキエルなのだ」

 私の心の中の疑問に答える形で言った神々しいばかりの天使は、そうして辛そうに目蓋を伏せた。
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