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第一階層③
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「うん……? 行き止まり、か……?」
明るい部屋に出たかと思うと、そこは三畳程の空間があるだけでした。
コツコツコツとジネットさんとカステラさんが床や壁を確認して行きます。
勿論、私もそれに参加してみました。ですが、変わったところはないように思えます。
ふと風を感じて天井を見上げました。
通風孔のようなものがあります。
「あれはさすがに狭すぎるな」
私の視線を追って、ジネットさんが呟きました。
丸い形のそれは、お子様体型の私には通り抜けることなど出来なさそうです。ジネットさんも鎧が邪魔をするでしょうし、カステラさんは……肩幅でアウトでしょうか。そこさえクリアすれば行けそうなのですが。
「ん。何が起きても対応出来るようにして」
不意にカステラさんがそう言いますと、私たちより高い位置にある壁に向かって矢を射ました。
カコン
小さな窪みに斜め下から刺さった矢が、何かのスイッチを押したようでした。何かが外れる音が聞こえ、部屋の外……私たちが来た方向から空気が漏れるような音が聞こえました。
「行ってみよう」
「……はい」
ジネットさんが仕掛けを発見したカステラさんには何も言わず、さっさと行ってしまうので、私は小さく拍手を送らせていただきました。
「全く……オーバンばかりが活躍しているじゃないか。私だってカナルにいいところを見せたいところだというのに。ロロがいない好機を逃す訳にはいかぬのだぞ?」
部屋を出ますと、突き当たりとなっていたところに、通路が開けていました。はい。これまでの通路の三倍はあります。
通路はうっすらと明るく、先に扉が見えました。
もしかすると、ボス(小から大の程度はあるかもしれませんが)部屋かもしれません。
「考え事しているつもりかもしれないが、全部漏れてる」
「何っ!?」
そこでバッと私を見たジネットさんの顔が、真っ赤です。
「カナル、これは、その……」
「たまたま俺の職業に向いたものが続いただけだ。次は任せた」
「くっ……」
何だかとても悔しそうです。
「あの、ジネットさんの『いいところ』は、いつも見させて貰ってます。私もちゃんと見習いますので、無理はしないで下さい」
「……だってさ」
「カナル……」
くしゃりとそのきれいな顔を歪めたジネットさんは、すぐにキリッとした表情となって、私の頭に手を置きますと、広くなった通路へと進みます。
「やはりか。そろそろ来ると思っていたぞ」
ヒュンッと飛来して来たものを、難なく両断させたジネットさんは、楽しそうにそれを放った者の元へと駆け出しました。
ジネットさんが両断したのは矢で、放った者というのはボーンシューターです。
通路には二階があって、そこから八体のボーンシューターがこちらを狙っているのですが、階段のようなものが見当たりませんから、ここはまたカステラさんの活躍の場になりそうなのですが。
「……えっ?」
おろおろと、自分が何をすべきか悩んでいる間に、信じられない光景が映りました。
ジネットさんが壁を駆け上がっています。重力は何処に行ってしまったのかというより、騙し絵か何かのトリックによるものかと思われた程、不自然なことを自然なことのようにやっております。
「あ、あの……。ジネットさんが忍者です」
「? ああ、移動スキルだ。その気になれば天井も歩ける」
忍者、というのは分からなかったようですが、壁走りについてを言っていることは察して貰えたようで、大したことではないようなことを言います。
あっという間に左側四体を倒したジネットさんは、カステラさんの言う通り天井を移動して、右側のボーンシューターを倒していきました。
私はびっくりしてしまって動けなかったのですが、カステラさんはこちらに飛んできた矢を払ったくらいで、ジネットさんの掩護に入ることはありませんでした。
どうやら先程の「次は任せた」という言葉通りに、お任せすることにしたようです。
「ふん。相手がシューターというのは都合が良かった。弱すぎて話にならんが、一応スッキリしたぞ」
ひょい、と飛び降りて来たジネットさんがそう言うと、カステラさんが目を眇めて微妙な表情をします。
「だが、これくらいで浮かれている場合ではないな。さて、次は何が出てくるか――」
やる気に満ちた様子で、奥の扉を開けたジネットさんは。
「くそ、一足遅かったか」
部屋中に勾玉を散らばらせたその先で、宝箱を手にしたロロさんたちの姿を見付け、小さく舌打ちして、八つ当り気味にカステラさんの脇腹に一撃を打ち込んだのでした。
明るい部屋に出たかと思うと、そこは三畳程の空間があるだけでした。
コツコツコツとジネットさんとカステラさんが床や壁を確認して行きます。
勿論、私もそれに参加してみました。ですが、変わったところはないように思えます。
ふと風を感じて天井を見上げました。
通風孔のようなものがあります。
「あれはさすがに狭すぎるな」
私の視線を追って、ジネットさんが呟きました。
丸い形のそれは、お子様体型の私には通り抜けることなど出来なさそうです。ジネットさんも鎧が邪魔をするでしょうし、カステラさんは……肩幅でアウトでしょうか。そこさえクリアすれば行けそうなのですが。
「ん。何が起きても対応出来るようにして」
不意にカステラさんがそう言いますと、私たちより高い位置にある壁に向かって矢を射ました。
カコン
小さな窪みに斜め下から刺さった矢が、何かのスイッチを押したようでした。何かが外れる音が聞こえ、部屋の外……私たちが来た方向から空気が漏れるような音が聞こえました。
「行ってみよう」
「……はい」
ジネットさんが仕掛けを発見したカステラさんには何も言わず、さっさと行ってしまうので、私は小さく拍手を送らせていただきました。
「全く……オーバンばかりが活躍しているじゃないか。私だってカナルにいいところを見せたいところだというのに。ロロがいない好機を逃す訳にはいかぬのだぞ?」
部屋を出ますと、突き当たりとなっていたところに、通路が開けていました。はい。これまでの通路の三倍はあります。
通路はうっすらと明るく、先に扉が見えました。
もしかすると、ボス(小から大の程度はあるかもしれませんが)部屋かもしれません。
「考え事しているつもりかもしれないが、全部漏れてる」
「何っ!?」
そこでバッと私を見たジネットさんの顔が、真っ赤です。
「カナル、これは、その……」
「たまたま俺の職業に向いたものが続いただけだ。次は任せた」
「くっ……」
何だかとても悔しそうです。
「あの、ジネットさんの『いいところ』は、いつも見させて貰ってます。私もちゃんと見習いますので、無理はしないで下さい」
「……だってさ」
「カナル……」
くしゃりとそのきれいな顔を歪めたジネットさんは、すぐにキリッとした表情となって、私の頭に手を置きますと、広くなった通路へと進みます。
「やはりか。そろそろ来ると思っていたぞ」
ヒュンッと飛来して来たものを、難なく両断させたジネットさんは、楽しそうにそれを放った者の元へと駆け出しました。
ジネットさんが両断したのは矢で、放った者というのはボーンシューターです。
通路には二階があって、そこから八体のボーンシューターがこちらを狙っているのですが、階段のようなものが見当たりませんから、ここはまたカステラさんの活躍の場になりそうなのですが。
「……えっ?」
おろおろと、自分が何をすべきか悩んでいる間に、信じられない光景が映りました。
ジネットさんが壁を駆け上がっています。重力は何処に行ってしまったのかというより、騙し絵か何かのトリックによるものかと思われた程、不自然なことを自然なことのようにやっております。
「あ、あの……。ジネットさんが忍者です」
「? ああ、移動スキルだ。その気になれば天井も歩ける」
忍者、というのは分からなかったようですが、壁走りについてを言っていることは察して貰えたようで、大したことではないようなことを言います。
あっという間に左側四体を倒したジネットさんは、カステラさんの言う通り天井を移動して、右側のボーンシューターを倒していきました。
私はびっくりしてしまって動けなかったのですが、カステラさんはこちらに飛んできた矢を払ったくらいで、ジネットさんの掩護に入ることはありませんでした。
どうやら先程の「次は任せた」という言葉通りに、お任せすることにしたようです。
「ふん。相手がシューターというのは都合が良かった。弱すぎて話にならんが、一応スッキリしたぞ」
ひょい、と飛び降りて来たジネットさんがそう言うと、カステラさんが目を眇めて微妙な表情をします。
「だが、これくらいで浮かれている場合ではないな。さて、次は何が出てくるか――」
やる気に満ちた様子で、奥の扉を開けたジネットさんは。
「くそ、一足遅かったか」
部屋中に勾玉を散らばらせたその先で、宝箱を手にしたロロさんたちの姿を見付け、小さく舌打ちして、八つ当り気味にカステラさんの脇腹に一撃を打ち込んだのでした。
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