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対ブラッディアウル
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私がジネットさんたちを起こして回りますと、皆さんは素早く準備をされました。
相手がブラッディアウルだと理解した上で、何の動揺もなく(少なくとも私には感じられませんでした)あらかじめ指示されていたかのように、配置に着いていきます。
どうすればいいのか判断出来ない私は、ロロさんの近くにいさせて貰うことにしました。
「カナル」
「はい」
呼び掛けられた時、ロロさんがこちらに何かを握っているらしい手を出して来ましたので、両手でそれを受け止めました。半透明で宝石のようにきれいな勾玉です。
「この一帯に結界を展開しろ。範囲調整も強度も盾に任せればいい。それからその勾玉を吸収させて回復効果を発動。――俺たちを守ってくれ」
「! はいっ」
結界の展開の仕方も、バッジに勾玉を吸収させる方法も分かりませんが、頼っていただいた以上「出来ません」とは言えません。
私は右手に勾玉を握り締め、左腕の盾さんを抱くようにしながら、お願いをします。
結界を張るのは、ブラッディアウルを逃がさない為のものではなく、回復の力が及ぶ範囲を定め、その中だけで戦うようにする為でしょう。
血液を奪われても回復が間に合うのか不安ですが、後は皆さんを信じるだけです。
「ホウ……妙ナ能力ヲ持ツ者ガイルナ」
ザッと一斉に身体の中心から熱量が外に放出されたような、一瞬の喪失感と浮遊感に見舞われた後、そんな声が届きました。
位置は定かではありませんが、見上げる程の高さにいることは感じられます。
「ダガ、ソレモ一興。コチラガ楽シメル時間ガ増エタノダカラ、感謝シヨウ」
「ソウダ。感謝ヲ。ソノ礼ニ、娘ヲ嬲ルノハ最後ニ取ッテオイテヤロウ」
!
私は勝手に思い違いをしていました。
ブラッディアウルを遺跡のボスのように考えていましたから、一体だけのものと思っていたのです。
なのに、聞こえた声は二体分。
ギルドのメンバーは私を入れて十二人。数では上回っていても不安が押し寄せて来ます。
いいえ、大丈夫です。きっと何とかなります。そう信じるのです。
「カナルを、嬲る、だと?」
地を這うような声が響きました。
ロロさんの周辺が炎のように揺らいで見えます。
「誰がさせるか」
別の位置からも怒りを押し殺したような声が。そちらはジネットさんでした。
「早く降りて来い。貴様の翼を引き裂いてやる」
「ホウ……デハ、望ミ通リ、お前カライタダコウ!」
言って、ブラッディアウルらしきものが姿を見せた時、私は目を疑いました。
これもまた、私の勝手な思い込みによるものです。
先ずはその数です。声は二体分でしたが、現れたのはそれ以上のようでした。私の目で確認出来ただけで四体ですが、きっとそれ以上でしょう。
そして何よりその姿。
赤い翼、フクロウの頭部と脚がついた人の姿に似た存在。手には「知識の杖」らしきものも手にしています。が、フクロウそのもののような大きさだったのです。
私はてっきり人と同じくらいの大きさだと思っておりましたから、無音でジネットさんに迫り、恐らくは兜を奪い去ろうと掴み掛かったブラッディアウルを弾いたことを知った時、地面に体を打ち付けたそれを目にして、これは何だろうかと不思議に思ってしまいました。
しかし、そうやって誰かの攻撃によって、或いはブラッディアウルの攻撃が誰かに(その大半は狙いを定められたジネットさんです)当たったりした際に、姿を目視出来ましたが、それ以外では影のようなものが見えるだけです。
「クッ、やっぱり当たらないか」
矢が虚空に放たれたように見えた時に、悔しげに漏らされた声はカステラさんのものでしょうか。
皆さん、ブラッディアウルの素早い動きに反応するのが精一杯で、なかなか攻撃出来ないようです。
それにはやはり大きさが関係しているでしょう。統率が取れていないようで取れている、好き勝手に暴れているだけのような攻撃にもあるかもしれません。
「ロロ!」
その声が聞こえた時、ロロさんは既に一体を倒したところでした。それがブラッディアウルが攻撃対象を変更させる程の怒りとなったのでしょう。一斉に飛来して来たと思われるブラッディアウルを、盾と大剣とで左右に薙いで弾き落とします。
あの大剣を片手だけで扱えることにも驚きましたが、皆さんは慣れている様子で、剣風から逃げる様子を見せた後に、落ちて一瞬目を回したらしいブラッディアウルへの攻撃に入りますが、そう簡単にはいきません。
それぞれが手にしている杖を掲げますと、ロロさん以外の方たちが暴風に煽られたように飛ばされてしまいました。
私は、平気です。ロロさんの後ろにおりましたので、ちょっとした危機を感じ取りましたが、何事もなく済みました。
「ううっ……」
呻き声が聞こえる前に、ザワリと背筋が震えました。「回復」と無意識に呟いた後に、それを訂正します。
「盾さん、反射です。皆さんを助けて下さいっ」
ぎゅうっ、と盾さんを抱き締めてお願いします。先程の暴風にはカマイタチが潜んでいたのです。見えない刃によって、負傷者が多数。中には顔面に受けてしまって、仰向けに倒れたまま動けなくなってしまっている方もいました。
ロロさんを含め、動ける方たちが負傷者の血を狙うブラッディアウルを払おうとしますが、続いて杖から雷が放たれ、金属のものを纏っていたが故に、更に倒れ伏してしまう方が増えました。
ロロさんの鎧さんからは静電気のようなものが地面に流れていくのが見え、すぐに一体へと斬りかかり始めましたから、大丈夫なようです。
ですが、何故でしょう。反射のスキルが発動しません。
反射が出来ないなら回復だけでも……! そうお願いしますが、何の反応もありません。結界の時と吸収では上手くいったような感覚がありました。握っていた勾玉はもうありません。
どうして……。私は皆さんを助けられない……?
突き付けられた現実に、目の前が暗くなりかけていたことから、迫って来た影に気付くのが遅れてしまいます。
「カナル!」
ブラッディアウルのくちばしが、私の額へと突き立てられようとした瞬間、盾さんの中から紺色の薄絹が大きく開いていくのが見えました。
相手がブラッディアウルだと理解した上で、何の動揺もなく(少なくとも私には感じられませんでした)あらかじめ指示されていたかのように、配置に着いていきます。
どうすればいいのか判断出来ない私は、ロロさんの近くにいさせて貰うことにしました。
「カナル」
「はい」
呼び掛けられた時、ロロさんがこちらに何かを握っているらしい手を出して来ましたので、両手でそれを受け止めました。半透明で宝石のようにきれいな勾玉です。
「この一帯に結界を展開しろ。範囲調整も強度も盾に任せればいい。それからその勾玉を吸収させて回復効果を発動。――俺たちを守ってくれ」
「! はいっ」
結界の展開の仕方も、バッジに勾玉を吸収させる方法も分かりませんが、頼っていただいた以上「出来ません」とは言えません。
私は右手に勾玉を握り締め、左腕の盾さんを抱くようにしながら、お願いをします。
結界を張るのは、ブラッディアウルを逃がさない為のものではなく、回復の力が及ぶ範囲を定め、その中だけで戦うようにする為でしょう。
血液を奪われても回復が間に合うのか不安ですが、後は皆さんを信じるだけです。
「ホウ……妙ナ能力ヲ持ツ者ガイルナ」
ザッと一斉に身体の中心から熱量が外に放出されたような、一瞬の喪失感と浮遊感に見舞われた後、そんな声が届きました。
位置は定かではありませんが、見上げる程の高さにいることは感じられます。
「ダガ、ソレモ一興。コチラガ楽シメル時間ガ増エタノダカラ、感謝シヨウ」
「ソウダ。感謝ヲ。ソノ礼ニ、娘ヲ嬲ルノハ最後ニ取ッテオイテヤロウ」
!
私は勝手に思い違いをしていました。
ブラッディアウルを遺跡のボスのように考えていましたから、一体だけのものと思っていたのです。
なのに、聞こえた声は二体分。
ギルドのメンバーは私を入れて十二人。数では上回っていても不安が押し寄せて来ます。
いいえ、大丈夫です。きっと何とかなります。そう信じるのです。
「カナルを、嬲る、だと?」
地を這うような声が響きました。
ロロさんの周辺が炎のように揺らいで見えます。
「誰がさせるか」
別の位置からも怒りを押し殺したような声が。そちらはジネットさんでした。
「早く降りて来い。貴様の翼を引き裂いてやる」
「ホウ……デハ、望ミ通リ、お前カライタダコウ!」
言って、ブラッディアウルらしきものが姿を見せた時、私は目を疑いました。
これもまた、私の勝手な思い込みによるものです。
先ずはその数です。声は二体分でしたが、現れたのはそれ以上のようでした。私の目で確認出来ただけで四体ですが、きっとそれ以上でしょう。
そして何よりその姿。
赤い翼、フクロウの頭部と脚がついた人の姿に似た存在。手には「知識の杖」らしきものも手にしています。が、フクロウそのもののような大きさだったのです。
私はてっきり人と同じくらいの大きさだと思っておりましたから、無音でジネットさんに迫り、恐らくは兜を奪い去ろうと掴み掛かったブラッディアウルを弾いたことを知った時、地面に体を打ち付けたそれを目にして、これは何だろうかと不思議に思ってしまいました。
しかし、そうやって誰かの攻撃によって、或いはブラッディアウルの攻撃が誰かに(その大半は狙いを定められたジネットさんです)当たったりした際に、姿を目視出来ましたが、それ以外では影のようなものが見えるだけです。
「クッ、やっぱり当たらないか」
矢が虚空に放たれたように見えた時に、悔しげに漏らされた声はカステラさんのものでしょうか。
皆さん、ブラッディアウルの素早い動きに反応するのが精一杯で、なかなか攻撃出来ないようです。
それにはやはり大きさが関係しているでしょう。統率が取れていないようで取れている、好き勝手に暴れているだけのような攻撃にもあるかもしれません。
「ロロ!」
その声が聞こえた時、ロロさんは既に一体を倒したところでした。それがブラッディアウルが攻撃対象を変更させる程の怒りとなったのでしょう。一斉に飛来して来たと思われるブラッディアウルを、盾と大剣とで左右に薙いで弾き落とします。
あの大剣を片手だけで扱えることにも驚きましたが、皆さんは慣れている様子で、剣風から逃げる様子を見せた後に、落ちて一瞬目を回したらしいブラッディアウルへの攻撃に入りますが、そう簡単にはいきません。
それぞれが手にしている杖を掲げますと、ロロさん以外の方たちが暴風に煽られたように飛ばされてしまいました。
私は、平気です。ロロさんの後ろにおりましたので、ちょっとした危機を感じ取りましたが、何事もなく済みました。
「ううっ……」
呻き声が聞こえる前に、ザワリと背筋が震えました。「回復」と無意識に呟いた後に、それを訂正します。
「盾さん、反射です。皆さんを助けて下さいっ」
ぎゅうっ、と盾さんを抱き締めてお願いします。先程の暴風にはカマイタチが潜んでいたのです。見えない刃によって、負傷者が多数。中には顔面に受けてしまって、仰向けに倒れたまま動けなくなってしまっている方もいました。
ロロさんを含め、動ける方たちが負傷者の血を狙うブラッディアウルを払おうとしますが、続いて杖から雷が放たれ、金属のものを纏っていたが故に、更に倒れ伏してしまう方が増えました。
ロロさんの鎧さんからは静電気のようなものが地面に流れていくのが見え、すぐに一体へと斬りかかり始めましたから、大丈夫なようです。
ですが、何故でしょう。反射のスキルが発動しません。
反射が出来ないなら回復だけでも……! そうお願いしますが、何の反応もありません。結界の時と吸収では上手くいったような感覚がありました。握っていた勾玉はもうありません。
どうして……。私は皆さんを助けられない……?
突き付けられた現実に、目の前が暗くなりかけていたことから、迫って来た影に気付くのが遅れてしまいます。
「カナル!」
ブラッディアウルのくちばしが、私の額へと突き立てられようとした瞬間、盾さんの中から紺色の薄絹が大きく開いていくのが見えました。
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