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織月せつな

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今の私が出来ること①

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 眠って、起きて。傍にいて下さった方と少しお話をして(相槌を打つくらいしか出来ない時もありましたが)、水分を補給して貰って、身体が起こせるようになってから食事をさせて貰ったりして、また眠って。
 時間の感覚はありませんでしたし、目覚めた際にいつも誰かがいてくれている訳ではなかったので、ままならない身体に泣いてしまったこともありましたが、ジネットさんの姿を久し振りに見た頃には、三日が経っていたようです。

「事情は聞いているぞ、カナル。身体は動くのだろう? 立ってみろ」
「は、はい」

 言われて立ち上がりますと、ジネットさんは私の身体のあちこちに触れたり素肌を確認したりしていきます。ちょっと痛い時とくすぐったい時と恥ずかしい時がありました。

「ふむ。あれだけの怪我を療術師の力もなく回復させるとは。お前の盾は化け物だな。……ああ、神だったな」
「あの……私の怪我というのは……」
「酷いものだったぞ? 反射したものをまた反射させたという話だったが、そもそもお前の盾の反射自体、同じものをそっくりそのまま返すのではなく、一回り上乗せさせた力で返すそうじゃないか」

 話ながら、ジネットさんの手はまだ私のふくらはぎを撫でています。今、誰かが中に入って来たら誤解を受けてしまいそうな感じでしたから、ようやく立ち上がって下さった時には、つい安堵の息をついていました。

「だが今回、盾の暴走によって反射の力が二倍にも三倍にもふくれ上がっていたと聞いた。それを自分の身に返したということは自殺行為だ」
「! すみません……」

 鋭い眼差しを向けられて、肩がビクリと跳ねました。するとジネットさんは困ったような笑顔になって。

「お前は自分に出来ることをしてくれ。死んでも構わないなんて思わず、死なない程度に頑張って私たちに力を貸して欲しい」
「……?」
「その盾の力を借りたい。ブラッディアウルを倒し、魔物が溢れ出てくる遺跡を封じたいのだ。ギルドメンバーの消耗は激しい。中には街に戻ったまま、怪我が回復しても閉じ籠ってしまっている者もいる。そいつらを軟弱だの何だのと責めることは出来ない」

 ジネットさんの表情は辛そうでした。注意して観察すると、前より痩せたような印象を受けました。いえ、これは見たままのものではなく、そういった雰囲気を感じたのです。疲弊しきったオーラを纏っているように見える、といったところでしょうか。
 肉体的には療術などで回復したようでも、精神的なところでストレスとなって負担が掛かっているのでしょう。

「『アテナの愛し子』の称号と『クラトスの守護』を得た漆黒の武装全てを持つ、ギルドマスターだけに頼り続けた結果がこのざまだ。『カルナックの盾』と称賛される程に守護の力は高くても、その先に進むだけの力を穿うがたねば、状況は悪化するばかりだ。せめてロロが守りに回らずに済むだけのタンクか、守りに集中出来るだけのアタッカーが欲しい」

 そこで真っ直ぐに私を見据えます。

「お前の盾ならば、そのどちらもが可能だ。否、無理をさせたい訳じゃない。だが……ああ、やはり矛盾しているか」

 ふるふると頭を振ってから、ジネットさんが私に向かって頭を下げました。

「!」
「少しでいい。少しだけ無理をしてくれ。ロロはお前を前線に連れて行くと言っていた。だから私は、お前の様子を看に行くと断って、こうして頼みに来たのだ」
「ジネットさん、あの……」
「何かあればロロが必ずお前を守るだろう。厳しいことを言うのも、それだけあいつがお前を大事にしているからだ。それは『シェムハザの盾』を手にしたからではない。お前の危うさが心配でならないのだろう。私も同じだ。私も可能な限りお前を守る。だからどうか、現状を打開する力を貸してくれ!」
「……」

 気圧されてしまって、言葉が出ませんでした。
 早く頭を上げて貰いたいのに。私にそんなことをしないで欲しいのに、どうしたらいいのかと頭の中が真っ白になってしまいます。

「う、わ、私っ」

 やっと声が出せたのは、どれだけお待たせしてしまった後なのでしょう。

「頑張ります。皆さんが、ちゃんとお休み出来るように、死なない程度に、頑張りますっ」
「……そうか。その言葉を信じて待っている。今、何かしてやれることはあるか? 近くに用事を頼めそうな者がいないからな。言うなら今のうちだぞ」
「大丈夫です。ありがとうございます」

 ジネットさんの儚げな微笑に胸が痛くなりました。
 私の方は大丈夫です。きっと反射されたものの殆どを盾さんが身代わりになって下さったのでしょう。
 だから今度は、私が盾さんに何かお返ししなければなりません。けれど私にはどうお返しすれば良いのか分からないので、亀裂の目立たなくなるまでに自己修復を終えたその隅々まで、丁寧ていねいに心を込めて磨き続けるのでした。
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