拾って下さい。

織月せつな

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ギルドにて

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 ギルドに戻って来ました。
 ドラクロワさんが来て下さることを期待しましたが、とてもお忙しい方のようで、私を助けて下さったのも、本当に奇跡的な偶然だったようです。
 そして、私が着ていた制服は、ドラクロワさんがお洗濯して下さると持ち帰ってしまわれたようで、すぐにでもお家に伺いたかったのですが、暫くは留守なのではないかと、お家の場所を教えて貰うことも出来ませんでした。

「オグラ様!」

 ロビーに入ってすぐに、タッと駆け寄って来て下さったのは、にゃんこさんでした。
 私の足にスリスリと、身を擦り寄せてくれます。くすぐったくて幸せです。
 初めての方専用のロビーは、人がまばらにいましたが、窓口は空いていました。

「お知り合いの療術師の元へ行く途中で、具合を悪くなされたと聞きました。お泊まりになられた程に酷かったのですか? 今はお元気そうですが、大丈夫なのですか?」

 にゃんこさんが後ろ足で立ち上がり、まるでちょうだいなをするみたいに、前足をクイクイ動かしながら話すので、ご心配をお掛けしてしまったようですから反省しなければならないのに、つい笑みがこぼれてしまいます。

「はい。もう大丈夫です。お気遣いいただいてありがとうございます」

 邪魔にならないことを確認した上で、しゃがんでにゃんこさんと目線を近くして言いますと、にゃんこさんはホッとしたように前足を床におろしました。

「ところで、その療術師はどのような方ですか? 出来れば討伐メンバーの医療班として加わっていただきたいのですが」

 ちょこちょこと歩き出しながら言われて、私は立ち上がって後に続きながらうーんと悩みます。

「ダンディさんという方なのですが、ご存知ですか?」
「にゃっ?」

 結局お名前を先に口にすると、にゃんこさんは短く鳴いて、目を真ん丸に見開いた状態でこちらを仰ぎ見ました。

「まさか、あのやる気の欠片もない、研究熱心かと思えば本を読んで満足しているだけという、宝の持ち腐れ男のことですか?」
「…………」

 早口だったので、よく分かりませんでした。

「ガストン=ダンディではないのですか?」
「あ、その方です」

 にゃんこさんもお知り合いだったならば、話は早いです。私は笑顔で頷きました。
 するとにゃんこさんは大きく口を開けて何かを言いたげでしたが、ふるふると頭を振ってから、多分別の話に変えることにしたようです。

「オグラ様にもお部屋の移動をお願いしなければなりません。ご案内致しますので、お荷物をお持ちいただいても宜しいでしょうか」

 着いたのは、私がお借りしている部屋の前でした。
 お荷物といっても、あるのはお留守番中の盾さんだけなので、お待たせする時間が少なくて良かったです。
 盾さんを手にしますと、一瞬だけ私の腕に誰かの腕が絡められたような温もりを感じました。
 怖さはなく「おかえり」と抱きつかれたような感じです。きっと私の中で盾さんが擬人化されていることから生じた錯覚でしょう。

 私はやはり戦闘ギルドの所属になってしまいました。
 実はにゃんこさんは戦闘ギルドの事務員さんなのですが、時折他のギルドに貸し出されてしまうのだそうです。人不足とのことで、キアラさんを含めた他の事務員さんたちも、あまり一ヶ所に留まっていられないとのことでした。

「ああ、この子ね!」

 戦闘ギルドのロビーに入った途端に、近くにいた方々に囲まれてしまいました。皆さん背が高いのでちょっと気圧けおされてしまいます。

「ちっちゃい、可愛いよ、可愛いよー!」
「こら、お触り禁止だぞ」
「意地悪するなよ、ほら、怯えさせてるじゃないか」
「エマさんと一緒とか、萌えしかない」
「ちょっとエマさんを抱っこして貰っていいかな? そう――そう! 癒しの天使が降臨したーっ!!」

 ……今、何ガ起キテマスカ?

「皆様、日々荒みきった時間を過ごされているのは百も承知でありますが、オグラ様で癒しをお求めになる場合は離れて、ご本人のご迷惑にならぬ範囲でお願いします」

 にゃんこさんがお一人お一人に猫パンチしながら言いました。
 私で癒しを云々ではなく、にゃんこさんが天使なのだと思いますが。

「戻る前に会えて良かったよ。頑張れそうだよ。もう精神的に負けそうだったけど」
「生きて帰ってくれば癒しが待ってるぞ!」
「内臓の一つや二つぶっ壊れても、回復薬で乗り切ってやるぜ」

 わいわいと楽しげですが、内容にあまり救いを感じません。これからまた討伐に「戻る」方たちのようです。ちょっとおかしなテンションであったのも、無理に自分たちを鼓舞してらしたからでしょう。

「が、頑張って下さい」
「!」

 それだけしか言えませんでした。
 けれど皆さんは、それはそれは素敵な笑顔を向けて下さると。

「うん。行って来るね」

 そう言って颯爽と出て行かれたのでした。

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