8 / 73
キアラさんとロロさんの攻防?
しおりを挟む「ロロさんっ」
キアラさんが咎め立てるような声で呼び掛けるのが聞こえました。
「もしかしたらご家族が亡くなられたショックで、記憶が一部欠落しているのかもしれませんよ? ギルドだって、その所為で登録していなかったと考えられます」
いいえ……いいえ!
違います。そんなことはないのです。誰も死んだりしてません。ギルドに登録してなかったのは、私がこの世界に紛れ込んでしまったのが今日だったからです。
誰も――。
私も一緒に死ぬ筈だったのに、生き残ってしまったから、世界に棄てられてしまったのです。
ああ、違います。今思い浮かんだことは絶対に有り得ません。キアラさんが私に気を遣って下さっただけの言葉に、一瞬だけ惑わされただけです。
あまりにも、非現実的なことばかり続いているので、全てを鵜呑みにして、自分で考えないでいる方がいいなんて、脳が楽をし過ぎてしまった罰なのです。
「オグラ様、ロロさんはこの戦闘ギルドのマスターですから、明日はきっとオグラ様に特別な計らいをして下さいます」
「おい」
「見学だけで済むように危険のないところに隠して下さるかもしれません」
「そんなことは一言も……」
「では今すぐ他のギルドに登録出来るよう、手配させていただいても宜しいですか? ロロさんともあろう方が、小さい子をいじめるだなんて見損ないました」
「否、十六歳で小さい子扱いをする方が――」
「よ ろ し い で す か?」
……キアラさんがロロさんを圧倒させています。
私の涙は止まってはおりませんでしたが、怒濤のように溢れていた勢いはおさまりました。
「カナルには金が必要だという話だ。明日の訓練に参加させることも、今日登録に訪れた以上は義務化されたものだから避けられん。どのような事情があろうと一人だけを特別扱いすることは出来んからな」
どうどうといなすようにキアラさんへ両手のひらを向けたロロさんの言葉に、立ち上がっていたキアラさんがストンと座り直しました。そして、私の頭を撫でてくれます。
その手の優しさに、また涙が溢れてしまいました。
ハンカチを目元に押しあてて貰いますが、拭いきれません。
「顔を洗って来させればいいだろう」
言われて、キアラさんに支えられながら一度退室し、化粧室の洗面台でじゃぶじゃぶと顔を洗ったことで、気持ちも少しすっきりしました。
「お待たせしました」
戻った時、ロロさんは兜を被り直していたようでした。
ずっと被りっ放しでは息苦しいに違いありません。
外していても構わないと思うのですが、お顔を見られたくないのでしょうか。
傷があったりして、こちらが怯えるだろうとお気遣いいただいているなら、申し訳ない気がします。
一方でキアラさんは残念そうに肩を落とします。もしかすると、キアラさんもロロさんのお顔を見たことがないのかもしれません。
「取り乱してしまって、すみませんでした」
「否、こちらも責め立てるような聞き方をした。配慮が足りなかったようだ」
私が頭を下げると、ロロさんはこちらに来て身を屈めます。
「腫れたな。色が白いから真っ赤になってしまった。すまない」
色、とは肌の色を指しているようです。そこまで白いという意識はありませんでしたから、何故か照れてしまいます。
こうして近くにおりますと、やはりロロさんは大きいです。私が小さい子と言われてしまったのは無理もありません。
「気にしないで下さい。少しですが森側の話を聞いておりましたから、本当に何となくではありますが、事情は理解しているつもりです。そんな時期にのこのことやって来たのがいけないのです」
「それは――否、もうこの件については話すまい。ギルドから支給される装備のことなど、彼女から教わらねばならないことは山程あるのだから、時間が足らんだろう。明朝七時にギルド内のロビーに来なさい。先程キアラが言っていた件については考えておこう」
そう言うと、ロロさんは出て行ってしまいました。
キアラさんにはいっぱい言われていたような気がします。私はその全部を聞けていた訳ではないと思うので、キアラさんに向けて首を傾げます。
「ふふ。きっと片時も離れずに、ロロさんがオグラ様を守って下さるに違いありません。……萌えますね」
うっとりとそんなことを呟いて、キアラさんが別の世界に旅立ってしまいました。
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる