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織月せつな

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キアラさんとロロさんの攻防?

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「ロロさんっ」

 キアラさんがとがめ立てるような声で呼び掛けるのが聞こえました。

「もしかしたらご家族が亡くなられたショックで、記憶が一部欠落しているのかもしれませんよ? ギルドだって、その所為で登録していなかったと考えられます」

 いいえ……いいえ!
 違います。そんなことはないのです。誰も死んだりしてません。ギルドに登録してなかったのは、私がこの世界に紛れ込んでしまったのが今日だったからです。
 誰も――。


 私も一緒に死ぬ筈だったのに、生き残ってしまったから、世界に棄てられてしまったのです。


 ああ、違います。今思い浮かんだことは絶対に有り得ません。キアラさんが私に気を遣って下さっただけの言葉に、一瞬だけ惑わされただけです。
 あまりにも、非現実的なことばかり続いているので、全てを鵜呑みにして、自分で考えないでいる方がいいなんて、脳が楽をし過ぎてしまった罰なのです。

「オグラ様、ロロさんはこの戦闘ギルドのマスターですから、明日はきっとオグラ様に特別な計らいをして下さいます」
「おい」
「見学だけで済むように危険のないところに隠して下さるかもしれません」
「そんなことは一言も……」
「では今すぐ他のギルドに登録出来るよう、手配させていただいても宜しいですか? ロロさんともあろう方が、小さい子をいじめるだなんて見損ないました」
「否、十六歳で小さい子扱いをする方が――」
「よ ろ し い で す か?」

 ……キアラさんがロロさんを圧倒させています。
 私の涙は止まってはおりませんでしたが、怒濤のように溢れていた勢いはおさまりました。

「カナルには金が必要だという話だ。明日の訓練に参加させることも、今日登録に訪れた以上は義務化されたものだから避けられん。どのような事情があろうと一人だけを特別扱いすることは出来んからな」

 どうどうといなすようにキアラさんへ両手のひらを向けたロロさんの言葉に、立ち上がっていたキアラさんがストンと座り直しました。そして、私の頭を撫でてくれます。
 その手の優しさに、また涙が溢れてしまいました。
 ハンカチを目元に押しあてて貰いますが、拭いきれません。

「顔を洗って来させればいいだろう」

 言われて、キアラさんに支えられながら一度退室し、化粧室の洗面台でじゃぶじゃぶと顔を洗ったことで、気持ちも少しすっきりしました。

「お待たせしました」

 戻った時、ロロさんは兜を被り直していたようでした。
 ずっと被りっ放しでは息苦しいに違いありません。
 外していても構わないと思うのですが、お顔を見られたくないのでしょうか。
 傷があったりして、こちらが怯えるだろうとお気遣いいただいているなら、申し訳ない気がします。
 一方でキアラさんは残念そうに肩を落とします。もしかすると、キアラさんもロロさんのお顔を見たことがないのかもしれません。

「取り乱してしまって、すみませんでした」
「否、こちらも責め立てるような聞き方をした。配慮が足りなかったようだ」

 私が頭を下げると、ロロさんはこちらに来て身を屈めます。

「腫れたな。色が白いから真っ赤になってしまった。すまない」

 色、とは肌の色を指しているようです。そこまで白いという意識はありませんでしたから、何故か照れてしまいます。
 こうして近くにおりますと、やはりロロさんは大きいです。私が小さい子と言われてしまったのは無理もありません。

「気にしないで下さい。少しですが森側の話を聞いておりましたから、本当に何となくではありますが、事情は理解しているつもりです。そんな時期にのこのことやって来たのがいけないのです」
「それは――否、もうこの件については話すまい。ギルドから支給される装備のことなど、彼女から教わらねばならないことは山程あるのだから、時間が足らんだろう。明朝七時にギルド内のロビーに来なさい。先程キアラが言っていた件については考えておこう」

 そう言うと、ロロさんは出て行ってしまいました。
 キアラさんにはいっぱい言われていたような気がします。私はその全部を聞けていた訳ではないと思うので、キアラさんに向けて首を傾げます。

「ふふ。きっと片時も離れずに、ロロさんがオグラ様を守って下さるに違いありません。……萌えますね」

 うっとりとそんなことを呟いて、キアラさんが別の世界に旅立ってしまいました。
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