1 / 73
状況が呑み込めません
しおりを挟む「……」
はて。ここは一体何処でしょう。
「……」
どのように道を間違ったら、近所にある筈のないウユニ塩湖的な場所に出るのでしょうか。
青空が視界いっぱいに広がって眩しいです。
足元を見れば、私が私にハローします。
お察し下さい。私は今、混乱しています。大ピンチなのです。誰か説明して下さい。私の頭でも理解出来るように噛み砕いた形で。
「……」
綺麗です。青空の中に入道雲のようなものが連なってお散歩してます。
とても感動する景色なのでしょうが、こんなところに独りぼっちは寂しいです。心細いです。泣きます。
パシャン
歩くと、当然ながら足元の水面に波紋が広がりました。本物のウユニ塩湖に行ったことがないので分かりませんが、あそこもこのように、水溜まり程しか足が浸からない程度なのでしょうか。
「取敢えず、歩きましょう」
バシャンバシャンとわざと水を跳ねさせるのは、辺りが静か過ぎて怖いからです。
「あの地平線の彼方まで行ってみるのですよ。これは大冒険の始まりなのです。サクサク行きましょう」
独り言を普段から口にしてしまう方ではありましたが、それを指摘してくれる人も、おかしな話し方をするなと言ってくれる人がいないのも辛いです。
バシャンバシャンと歩くのも疲れてきました。疲労というより虚脱感に襲われてしまったのでしょう。
がっくりと肩を落として項垂れます。私と私とが再びハローしますが、さっき会った時より不細工な顔をしています。
……元から、そう褒められたものではないのですが。
「これは夢ですか?」
私に訊いてみますが、同じタイミングでこちらが訊きたいことを訊いてくるだけです。
「私は、いつの間にかに死んでしまったのでしょうか」
夢ならば早く目覚めたい。
死んでしまったのならば、そう教えてくれる誰かにお迎えに来て欲しいのです。
「おはようございます。朝なので起きませんか?」
足元の自分に向けて言ってみますが、やはり同じタイミングで向こうも口を開くだけで、待ってみても返事は来ません。
もしかすると、向こうも同じことを思っているのでしょうか。
私は私。あなたも私。
スカートの裾が濡れてしまうことも気にせず、しゃがんで水面に手で触れてみました。
すると。
「あ」
グイッと重なるだけの筈だった手に引き込まれ、私の身体は水の中に、
ちゃぷん
可愛らしい音を残して入っていってしまったのでした。
――ワンワンッ!
遠くから、ワンちゃんの吠える声が聞こえています。飼い主さん、ちゃんと構ってあげて下さい。
それより、どうしてか土の匂いがします。不快ではありませんが、湿った感じのその匂いがとても気になります。
ワウッ、ワンワンッ!
ザッザッザッ……
興奮したような声が近く明確に聞こえ始めたのは、何かを掘り起こすような音が大きく伝わってきた頃でした。
ザッザッザッ、ガリッ
「!」
痛いです。
肩の辺りを引っ掻かれ、私は目を開けました。
「おい、何やってんだ。人様の畑掘り返してんじゃねーよ……って、おおおおいっ!?」
うるさい人が来たと思ってそちらを見ると、まるで穴の中か崖下でも覗き込むかのような体勢の男の人が。
「うわ、目ぇ開けた、開けたってか、動いた! 何でだよ、生きてんなら――っ!」
騒がしい人だと思っていたら、私に掛かっている布団を手で掘り返し始めます。その表情は怒ってるような焦っているような、とにかく真剣そのものでした。
……? はて。どうして私は土の中にいるのでありましょうか。
「ほら、起きれるか?」
ワンワンッと近くでワンちゃんが忙しなく駆け回る足音と吠える声が聞こえる中、男の人が土の中から私を発掘……いえ、収穫して下さいました。
さて、ここで問題なのです。
私はどうしてキャベツ畑に埋まっていたのでしょうか。
どうして埋まっていたのに生き苦しさを感じることなく、土のお布団にくるまっていたと思えない程、手足どころか髪や制服に土が纏わりついていなかったり汚れたりもしていないのでしょうか。
「なあ、状況、分かってるか? お前を生き埋めにしやがったのは誰だ?」
金髪碧眼の男の人が、やたら流暢な日本語を話します。外見は西洋風でも日本生まれなのでしょうか。私は日本語も母国語ながら怪しいところがある上に、英語などはまるきり駄目なので助かります。
でも、残念ながらお兄さんの言ってることが分かりません。言葉は理解出来ていますが、生き埋めって誰がですか?
「……よし、酸欠と心因性による一時的失語症だな。療術師のところに連れてってやるか」
ワンッ
私は何も言っていないのに、お兄さんは一人で納得すると、ワンちゃんも同意を主張するように、尻尾をブンブン振ります。犬種はレトリバーのようです。
ちなみにお兄さんは大変美形です。なので抱き上げられた際に思わず「ギャーッ」と悲鳴をあげてしまいました。
「反応の遅いマンドラゴラかよ」
お兄さんには呆れたようにそんなことを言われながら、抱き上げられるのが嫌ならとおぶさるように促され。
「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」
これはこれで恥ずかしいと緊張しながら、おとなしく出荷されることにしました。
0
お気に入りに追加
388
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約者すらいない私に、離縁状が届いたのですが・・・・・・。
夢草 蝶
恋愛
侯爵家の末姫で、人付き合いが好きではないシェーラは、邸の敷地から出ることなく過ごしていた。
そのため、当然婚約者もいない。
なのにある日、何故かシェーラ宛に離縁状が届く。
差出人の名前に覚えのなかったシェーラは、間違いだろうとその離縁状を燃やしてしまう。
すると後日、見知らぬ男が怒りの形相で邸に押し掛けてきて──?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる