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第伍話
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「青子様、足をみせて頂きますね」
玖涅くんの背中から下りた私は、もう一度お礼を言って示されるままに巨石を倒したようなものの上に座った。
表面がつるりとした手触りのその石もまた鍾乳石のようだ。幾つかの石筍がくっついて、私の腰の辺りまでの高さになったらしい。
自然に出来たものではなく人の手が加えられたように思えるのは、中央がやけに滑らかであるからだ。
何とかの逆鱗とかって名前が付けられている場所であるし、お城からの抜け道にもなっているくらいだから、隠れ家のように利用されているところなのかもしれない。大学の講堂くらいの広さがあるこの空間には、他に寝台代わりになりそうな大きさのものもあった。
そして、目を疑う程この場に不似合いな両開きの小さな棚が一つだけポツンと置かれてあり、それに気を取られていたところで章杏さんが私の前に跪くようにして右足を手にしたものだからギョッとした。
「えっ? あっ……」
すぐに捻って傷めた部分に触れられ、触らないでとその手を退けてしまいたい衝動に駆られる。
「腫れて熱を持っていますけど、これなら大丈夫です」
先程までの事務的な話し方ではなく、少し親しみを込められた声で告げられた。
大丈夫、というのは放置しても治るといった意味ではなく、章杏さんの力で治すことが出来るということだった。妖狐族はその殆どが癒術を扱えるそうなのだけれど、得意不得意というものがあるらしく、以前私が腕を刺されて軽く抉られたものを痕跡なく治せる人もいれば、軽い火傷や小さな傷の痛みを取り除く程度しか出来ない人、また、瀕死の重傷者を快復までに期間は必要とするが治癒が可能である、といった人もいるらしい。
章杏さんはどの程度か分からないけれど、数回撫でて貰っただけで痛みは消え、歩いてみても違和感もないくらいに完治していた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、お礼なんていいんですよ。丹思様にこの章杏がちゃんとお役に立てたことをご報告して下されるだけで」
ニコニコしながら返され、曖昧な笑みを浮かべる。
丹思様に褒めて貰いたくて仕方いその様子は、何度見ても「ご主人様が大好きなワンコ」みたいだと思ってしまって微笑ましい。
「おっ。やったね、食いモンみっけ!」
玖涅くんが、しゃがみ込んで小さな棚を開き、中を覗いて歓声を上げた。ごそごそしているのは物色しているのだろう。
「クンクン。まだイケるな、これは。クセーのはこっちのか? 駄目だろ、腹壊すぞ絶対」
呟きながら後方へ投げ捨てられたものが駄目になった食品だろう。いつから置いてあるのか分からないそれが何なのか気になって近付いてみたのだけど、途中で足が止まってしまった。
酷く生臭いということが、まだ距離があるうちから分かってしまったからだ。
「ありゃりゃ。日持ちしなかったのですわねー。勿体ないですわ」
躊躇しながら章杏さんがそれを抓み上げる。その手を体から離している辺り、妖狐族にとってもなかなかに手強い臭いであるらしい。ならば玖涅くんが棚を開けた瞬間にでも異臭に気付きそうなものだと思うんだけど、臭いは籠っていなかったんだろうか。
「玖涅殿、他に駄目そうなのはありますか?」
「ひぃや、まいっふお」
「無断で食べるなんて行儀がなっておりませんね」
お腹が空いていたのか、玖涅くんは口いっぱいに頬張っていたものをモグモグしながら答え、章杏さんが冷めた眼差しを向ける。
それから自分が抓んでいるものを見て、微かに悪いことを考えているような笑みを浮かべる章杏さん。もしかすると、その手にある駄目だと判断された食品を玖涅くんの口に突っ込んでしまおうか、なんて考えたのかもしれない。なんて思ってしまったのは、私の考え方に問題があるのだろう。章杏さんに失礼だ。
「わたし……いえ、わたくしはお二方をこちらへ案内するのが役目でしたので、コレを廃棄しに行って参ります。何かありましたらすぐに戻りますが、じきに丹思様が来られると思いますので、こちらでお待ち下さい」
ペコリと頭を下げて出て行こうとする章杏さん。しかし、クルリとこちらを振り返ると。
「青子様、くれぐれも宜しくお願いしますわ。この章杏がどれ程立派であったかを!」
「あー……はい。丹思様にお話しておきますね」
「ふふふっ。これなら栞梠様にも認めて貰えるかも」
念を押され、絶対忘れないようにしようと胸に刻むと、章杏さんはご機嫌な様子でこの空間を後にした。
何かいつもと違う様子に感じていたのは、緊迫した雰囲気だったから事務的に話されていた、ということだけじゃなく、何かしら思うところあって章杏さんが栞梠さんを真似ていたからのようだ。
「ん」
「!?」
章杏さんの背中を見送っていると、いつの間にか隣にいた玖涅くんが、何かを差し出して来て驚く。
「甘い匂いがするからあげるっす」
「……ありがとう」
高さがバラバラの五ヶ所に置かれたランタンに、章杏さんが狐火で火を灯しただけの明るさだったから、薄茶色にも黄色にも思える繊維質のあるそれは、ドライフルーツのようだ。香りからするとマンゴーだろう。
受け取ったそれをずっと持っている訳にもいかなかったから、取り敢えず口にする。
うん。味もマンゴーだ。ちょっとパサついているけれども。
玖涅くんが食べているのは燻製されたお肉だそうだ。小分けにされて袋に入れられている。あの臭い何かも袋に入っていたものを取り出したから、急激に臭いが広がっていったのだろう。ちなみにまだ少し周囲が臭い。
「全部食ったら怒られるっすかね? 今日、いーっぱい緊張したから腹減っちゃって」
「さすがに全部は駄目だと思うよ?」
緊張したからお腹が空くというのは私には分からないのだけど、非常用に確保してある食料だろうから、あまり手をつけない方がいいと思う。だけど食べるなとも言えないから、嗜める程度に答えると、玖涅くんはたくさん抱えていた小袋を三つにして、残りを棚の中へと戻した。
空腹はともかくとして、喉が渇いてしまった。ペットボトルの水が置いてあるということがないから、我慢するしかなさそうだ。
そんなことを思っているところで、不意に水を汲む微かな音が聞こえた。不思議に思って見回すと、奥の方で玖涅くんが壁と思われたところに上って何かをしている。天井との隙間に上半身をおさめてしまっているから、何をしているのか近くに行っても分からないのだけど、確かにそこから水の音がしている。そして「ぷはーっ」という声も。
「あの……もしかして、飲み水があるの?」
「ん? イテッ、こんにゃろ。おう、あるっすよ」
急に呼び掛けてしまったからか、こちらを向いた玖涅くんが天井に頭をぶつけてしまった。ぺしりと鋭さのない鍾乳石を叩いてから再び奥へ頭を突っ込んだ玖涅くん。すぐに水を汲む音がして、次に頭上を気にしつつ顔をこちらに向けて差し出してくれたのは、水の入ったカップだった。
「あ、ありがとう」
飲んでも大丈夫だろうか。と少しばかり疑いを持ちながらも、さっき玖涅くんが飲んでいたのだから平気だろうと口に含む。
口当たりがやや硬くて飲み難かったが、渇きには逆らえず飲み干す。
「もういい?」
「うん。ごめんなさい、ありがとう」
お代わりを欲しがるかと待っていてくれたらしい。お礼を言うと弾みをつけて壁から飛び下りる。
使い終わったカップをどうしようかと思っていると、察してくれた玖涅くんが棚の中にそのまま入れてしまった。どうせ飲む時に濯ぐだろう、ということらしい。
水のある場所を知っていたなんて、実は来たことがあるのじゃないかと訊ねると、棚の中にカップがあるだけで飲み物がないのはおかしいと考えたところで、上方から水の流れる音と水の匂いがしたので壁を乗り越えてみようと思ったのだそうだ。
そう言われれば水の気配が感じられるようであり、また感じないようでもある。人である私にはそう容易く感知出来ないものだろうし、例え出来たとしても、この壁をのぼるのは無理だ。
ほぅ、と息をつく。
渇きも癒えて、落ち着いてみると、待っているだけというのは手持無沙汰に感じる。
すると玖涅くんがひらりと石の台に乗り、お座りの格好でこちらを見つめ。「寝てれば?」なんて言う。ちなみに燻製されたお肉の入った袋は大事そうに抱えられていた。
「こんな急展開になると思わなかったんすよね、蒼慈さんの考えでは。寧ろ、暫く動くのは控えるだろうって判断したから、雑用の俺をあんたのところに寄越したんであって、俺はあの屋敷で狐たちを見張りながら寛げる筈だったんすよ。なのに奇襲とか、本当に勘弁して欲しかったっす」
だから、と今度はゴロリと横になって少しきつめの目を和らげ、大きく欠伸をしたかと思うと目を閉じてしまう。
「丹思様たちも来るとか言ってたけど、今は解放された自由時間として寝るのが一番っすよ。もう疲れたし」
そのまま寝入ってしまいそうだとジッと見ていたら、不意にぱかりと目が開いて。
「一応、くっついて寝ます? 俺、あんたの護衛だか警護だかしないとなんで」
言って、手招きされたけれど遠慮させて貰うべく頭を振る。
「あ、俺のことなら安心していいっすよ。同じ白狼族以外の女に興味ないんで」
さっき蒼慈さんにも言ったけど。なんて続けられても、問題はそういうことじゃない。
「それとも、俺に惚れちゃったりしちゃったっすか? 結構優しかったでしょ? 俺」
ニヤニヤと意地悪そうに笑う玖涅くんに、私はそっぽを向いて離れた石に座った。
足場の頼りない階段で支えて貰ったり、おんぶして貰ったり、玖涅くんには本当にお世話になりっ放しだったけど、うっかりときめかなくて良かったと思う。
私が返事をしないものだから、つまらないと言って玖涅くんはそのまま眠ってしまったようで。すると私も何だか眠くなってきて少しだけ目を閉じていようと目蓋を下ろした。
玖涅くんの背中から下りた私は、もう一度お礼を言って示されるままに巨石を倒したようなものの上に座った。
表面がつるりとした手触りのその石もまた鍾乳石のようだ。幾つかの石筍がくっついて、私の腰の辺りまでの高さになったらしい。
自然に出来たものではなく人の手が加えられたように思えるのは、中央がやけに滑らかであるからだ。
何とかの逆鱗とかって名前が付けられている場所であるし、お城からの抜け道にもなっているくらいだから、隠れ家のように利用されているところなのかもしれない。大学の講堂くらいの広さがあるこの空間には、他に寝台代わりになりそうな大きさのものもあった。
そして、目を疑う程この場に不似合いな両開きの小さな棚が一つだけポツンと置かれてあり、それに気を取られていたところで章杏さんが私の前に跪くようにして右足を手にしたものだからギョッとした。
「えっ? あっ……」
すぐに捻って傷めた部分に触れられ、触らないでとその手を退けてしまいたい衝動に駆られる。
「腫れて熱を持っていますけど、これなら大丈夫です」
先程までの事務的な話し方ではなく、少し親しみを込められた声で告げられた。
大丈夫、というのは放置しても治るといった意味ではなく、章杏さんの力で治すことが出来るということだった。妖狐族はその殆どが癒術を扱えるそうなのだけれど、得意不得意というものがあるらしく、以前私が腕を刺されて軽く抉られたものを痕跡なく治せる人もいれば、軽い火傷や小さな傷の痛みを取り除く程度しか出来ない人、また、瀕死の重傷者を快復までに期間は必要とするが治癒が可能である、といった人もいるらしい。
章杏さんはどの程度か分からないけれど、数回撫でて貰っただけで痛みは消え、歩いてみても違和感もないくらいに完治していた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、お礼なんていいんですよ。丹思様にこの章杏がちゃんとお役に立てたことをご報告して下されるだけで」
ニコニコしながら返され、曖昧な笑みを浮かべる。
丹思様に褒めて貰いたくて仕方いその様子は、何度見ても「ご主人様が大好きなワンコ」みたいだと思ってしまって微笑ましい。
「おっ。やったね、食いモンみっけ!」
玖涅くんが、しゃがみ込んで小さな棚を開き、中を覗いて歓声を上げた。ごそごそしているのは物色しているのだろう。
「クンクン。まだイケるな、これは。クセーのはこっちのか? 駄目だろ、腹壊すぞ絶対」
呟きながら後方へ投げ捨てられたものが駄目になった食品だろう。いつから置いてあるのか分からないそれが何なのか気になって近付いてみたのだけど、途中で足が止まってしまった。
酷く生臭いということが、まだ距離があるうちから分かってしまったからだ。
「ありゃりゃ。日持ちしなかったのですわねー。勿体ないですわ」
躊躇しながら章杏さんがそれを抓み上げる。その手を体から離している辺り、妖狐族にとってもなかなかに手強い臭いであるらしい。ならば玖涅くんが棚を開けた瞬間にでも異臭に気付きそうなものだと思うんだけど、臭いは籠っていなかったんだろうか。
「玖涅殿、他に駄目そうなのはありますか?」
「ひぃや、まいっふお」
「無断で食べるなんて行儀がなっておりませんね」
お腹が空いていたのか、玖涅くんは口いっぱいに頬張っていたものをモグモグしながら答え、章杏さんが冷めた眼差しを向ける。
それから自分が抓んでいるものを見て、微かに悪いことを考えているような笑みを浮かべる章杏さん。もしかすると、その手にある駄目だと判断された食品を玖涅くんの口に突っ込んでしまおうか、なんて考えたのかもしれない。なんて思ってしまったのは、私の考え方に問題があるのだろう。章杏さんに失礼だ。
「わたし……いえ、わたくしはお二方をこちらへ案内するのが役目でしたので、コレを廃棄しに行って参ります。何かありましたらすぐに戻りますが、じきに丹思様が来られると思いますので、こちらでお待ち下さい」
ペコリと頭を下げて出て行こうとする章杏さん。しかし、クルリとこちらを振り返ると。
「青子様、くれぐれも宜しくお願いしますわ。この章杏がどれ程立派であったかを!」
「あー……はい。丹思様にお話しておきますね」
「ふふふっ。これなら栞梠様にも認めて貰えるかも」
念を押され、絶対忘れないようにしようと胸に刻むと、章杏さんはご機嫌な様子でこの空間を後にした。
何かいつもと違う様子に感じていたのは、緊迫した雰囲気だったから事務的に話されていた、ということだけじゃなく、何かしら思うところあって章杏さんが栞梠さんを真似ていたからのようだ。
「ん」
「!?」
章杏さんの背中を見送っていると、いつの間にか隣にいた玖涅くんが、何かを差し出して来て驚く。
「甘い匂いがするからあげるっす」
「……ありがとう」
高さがバラバラの五ヶ所に置かれたランタンに、章杏さんが狐火で火を灯しただけの明るさだったから、薄茶色にも黄色にも思える繊維質のあるそれは、ドライフルーツのようだ。香りからするとマンゴーだろう。
受け取ったそれをずっと持っている訳にもいかなかったから、取り敢えず口にする。
うん。味もマンゴーだ。ちょっとパサついているけれども。
玖涅くんが食べているのは燻製されたお肉だそうだ。小分けにされて袋に入れられている。あの臭い何かも袋に入っていたものを取り出したから、急激に臭いが広がっていったのだろう。ちなみにまだ少し周囲が臭い。
「全部食ったら怒られるっすかね? 今日、いーっぱい緊張したから腹減っちゃって」
「さすがに全部は駄目だと思うよ?」
緊張したからお腹が空くというのは私には分からないのだけど、非常用に確保してある食料だろうから、あまり手をつけない方がいいと思う。だけど食べるなとも言えないから、嗜める程度に答えると、玖涅くんはたくさん抱えていた小袋を三つにして、残りを棚の中へと戻した。
空腹はともかくとして、喉が渇いてしまった。ペットボトルの水が置いてあるということがないから、我慢するしかなさそうだ。
そんなことを思っているところで、不意に水を汲む微かな音が聞こえた。不思議に思って見回すと、奥の方で玖涅くんが壁と思われたところに上って何かをしている。天井との隙間に上半身をおさめてしまっているから、何をしているのか近くに行っても分からないのだけど、確かにそこから水の音がしている。そして「ぷはーっ」という声も。
「あの……もしかして、飲み水があるの?」
「ん? イテッ、こんにゃろ。おう、あるっすよ」
急に呼び掛けてしまったからか、こちらを向いた玖涅くんが天井に頭をぶつけてしまった。ぺしりと鋭さのない鍾乳石を叩いてから再び奥へ頭を突っ込んだ玖涅くん。すぐに水を汲む音がして、次に頭上を気にしつつ顔をこちらに向けて差し出してくれたのは、水の入ったカップだった。
「あ、ありがとう」
飲んでも大丈夫だろうか。と少しばかり疑いを持ちながらも、さっき玖涅くんが飲んでいたのだから平気だろうと口に含む。
口当たりがやや硬くて飲み難かったが、渇きには逆らえず飲み干す。
「もういい?」
「うん。ごめんなさい、ありがとう」
お代わりを欲しがるかと待っていてくれたらしい。お礼を言うと弾みをつけて壁から飛び下りる。
使い終わったカップをどうしようかと思っていると、察してくれた玖涅くんが棚の中にそのまま入れてしまった。どうせ飲む時に濯ぐだろう、ということらしい。
水のある場所を知っていたなんて、実は来たことがあるのじゃないかと訊ねると、棚の中にカップがあるだけで飲み物がないのはおかしいと考えたところで、上方から水の流れる音と水の匂いがしたので壁を乗り越えてみようと思ったのだそうだ。
そう言われれば水の気配が感じられるようであり、また感じないようでもある。人である私にはそう容易く感知出来ないものだろうし、例え出来たとしても、この壁をのぼるのは無理だ。
ほぅ、と息をつく。
渇きも癒えて、落ち着いてみると、待っているだけというのは手持無沙汰に感じる。
すると玖涅くんがひらりと石の台に乗り、お座りの格好でこちらを見つめ。「寝てれば?」なんて言う。ちなみに燻製されたお肉の入った袋は大事そうに抱えられていた。
「こんな急展開になると思わなかったんすよね、蒼慈さんの考えでは。寧ろ、暫く動くのは控えるだろうって判断したから、雑用の俺をあんたのところに寄越したんであって、俺はあの屋敷で狐たちを見張りながら寛げる筈だったんすよ。なのに奇襲とか、本当に勘弁して欲しかったっす」
だから、と今度はゴロリと横になって少しきつめの目を和らげ、大きく欠伸をしたかと思うと目を閉じてしまう。
「丹思様たちも来るとか言ってたけど、今は解放された自由時間として寝るのが一番っすよ。もう疲れたし」
そのまま寝入ってしまいそうだとジッと見ていたら、不意にぱかりと目が開いて。
「一応、くっついて寝ます? 俺、あんたの護衛だか警護だかしないとなんで」
言って、手招きされたけれど遠慮させて貰うべく頭を振る。
「あ、俺のことなら安心していいっすよ。同じ白狼族以外の女に興味ないんで」
さっき蒼慈さんにも言ったけど。なんて続けられても、問題はそういうことじゃない。
「それとも、俺に惚れちゃったりしちゃったっすか? 結構優しかったでしょ? 俺」
ニヤニヤと意地悪そうに笑う玖涅くんに、私はそっぽを向いて離れた石に座った。
足場の頼りない階段で支えて貰ったり、おんぶして貰ったり、玖涅くんには本当にお世話になりっ放しだったけど、うっかりときめかなくて良かったと思う。
私が返事をしないものだから、つまらないと言って玖涅くんはそのまま眠ってしまったようで。すると私も何だか眠くなってきて少しだけ目を閉じていようと目蓋を下ろした。
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