3 / 3
3
しおりを挟む
シンディとリアは入り組んだ道の突き当たりで、座り込んで身を寄せあっていた。
これは悪手である。
隠れて魔物を遣り過ごすにしても、逃げ場を確保していなければ追い詰められた状態になってしまう。余程腕に覚えのある者でも、好んで選ぶような真似はしない。
「お前ら、マイナス2点な」
「先生~」
シンディとリアの無事を確認し、アーヴィンが告げると、シンディはくしゃりと顔を歪めて、まだ乾いていない頬の上に新たな涙の道筋をつける。
足を負傷していると聞いていたが、リアのそれは軽い捻挫のようだった。
アーヴィンは腫れ上がったリアの足首に触れる。
女生徒どころか彼を知っている者は全て好意を抱いてしまうという、秀麗なる青年の手が素足を撫でるのを、リアは緊張した面持ちで見つめていた。
少しそばかすの浮いた頬が赤く染まっているのは、泣いていた所為ではないだろう。
アーヴィンの手のひらから魔力が注がれるのを感じる。
その温かさに鼓動が高鳴り、胸の奥がキュッと切ない悲鳴を上げるのが分かった。
「痛むか?」
「っ、いえ、もう大丈夫です。有難うございます!」
「こら。元気なのはいいが、大声は出すな。お前は更にマイナス1点だ」
「あ、狡い」
「何だ。お前もマイナスされたいのか? 変わった奴だな」
「そっちじゃなくて」
唇を尖らせて自分の額を示すシンディ。
その前にリアがアーヴィンにされたデコピンのことを言っているらしい。リアの方は幸せそうに自分の額を撫でていて、アーヴィンは溜め息をつく。
「ほら、戻るぞ」
「……はい」
「はぁい」
立ち上がったアーヴィンに素直に従うリアと、仕方ないといった風に従うシンディ。
後退出来ない道の先に現れたオークに、アーヴィンは。
「戦えそうか? 経験値稼ぎたいなら……」
「戦えないです。先生頑張って下さい」
「――」
念のためと確認すれば、シンディから急かすような返答があり、リアは無言で頷く。
「甘やかしてもいいことないんだがな」
ポツリと呟き、向かって来たオークを軽く仕留めてみせた。
生徒二人を守りながらでも、アーヴィンの歩調は変わらなかった。すっかり見学気分のシンディを時折脅かしてやりながら進んでも、十分とかからずに離脱してしまう。
一仕事終えたとアーヴィンは安堵し、シンディとリアは名残惜し気にダンジョンを振り返る。
そこへ、待ち構えていたかのように駆け寄って来る姿があった。
「シンディ、リア~!」
二人の仲間たちである。人数が多いのは、友達が混じっているからと思われる。
そして生徒に混じってイヴリンが慌てた様子で来るのを見つけると、後頭部に手を回して頭を掻く。
「す、すみませんっ。アーヴィン先生が生徒の迎えに行ったと知って、メリリースが後を追ってダンジョンの中に入って行ってしまったとリズィーから報告がありました!」
「はああ? またあの問題児か。ったく、腹も減ってるってのに面倒臭いな」
「そう言わずに」
「今日のダンジョンならば、あいつ一人でもどうにかなるんじゃないですかね?」
「そんな呑気なこと言わないで下さい」
イヴリンがアーヴィンの腕を引くと、それを見ていた女生徒たちが騒ぎ始める。
「お前ら、さっさと戻れ」
声を掛けながらそっとイヴリンの手を外す。
「何処まで潜ったかわからない分、厄介なんだよな……」
いくらダンジョン内の魔物がアーヴィンにとって容易過ぎるものであっても、生徒一人をさがし出さなければならないとなると、面倒でしかない。
「冒険者やってる方が楽だったかもな」
アーヴィンは盛大に溜め息をつきながら、本日三度目となるダンジョンに入ったのだった。
(終わり)
これは悪手である。
隠れて魔物を遣り過ごすにしても、逃げ場を確保していなければ追い詰められた状態になってしまう。余程腕に覚えのある者でも、好んで選ぶような真似はしない。
「お前ら、マイナス2点な」
「先生~」
シンディとリアの無事を確認し、アーヴィンが告げると、シンディはくしゃりと顔を歪めて、まだ乾いていない頬の上に新たな涙の道筋をつける。
足を負傷していると聞いていたが、リアのそれは軽い捻挫のようだった。
アーヴィンは腫れ上がったリアの足首に触れる。
女生徒どころか彼を知っている者は全て好意を抱いてしまうという、秀麗なる青年の手が素足を撫でるのを、リアは緊張した面持ちで見つめていた。
少しそばかすの浮いた頬が赤く染まっているのは、泣いていた所為ではないだろう。
アーヴィンの手のひらから魔力が注がれるのを感じる。
その温かさに鼓動が高鳴り、胸の奥がキュッと切ない悲鳴を上げるのが分かった。
「痛むか?」
「っ、いえ、もう大丈夫です。有難うございます!」
「こら。元気なのはいいが、大声は出すな。お前は更にマイナス1点だ」
「あ、狡い」
「何だ。お前もマイナスされたいのか? 変わった奴だな」
「そっちじゃなくて」
唇を尖らせて自分の額を示すシンディ。
その前にリアがアーヴィンにされたデコピンのことを言っているらしい。リアの方は幸せそうに自分の額を撫でていて、アーヴィンは溜め息をつく。
「ほら、戻るぞ」
「……はい」
「はぁい」
立ち上がったアーヴィンに素直に従うリアと、仕方ないといった風に従うシンディ。
後退出来ない道の先に現れたオークに、アーヴィンは。
「戦えそうか? 経験値稼ぎたいなら……」
「戦えないです。先生頑張って下さい」
「――」
念のためと確認すれば、シンディから急かすような返答があり、リアは無言で頷く。
「甘やかしてもいいことないんだがな」
ポツリと呟き、向かって来たオークを軽く仕留めてみせた。
生徒二人を守りながらでも、アーヴィンの歩調は変わらなかった。すっかり見学気分のシンディを時折脅かしてやりながら進んでも、十分とかからずに離脱してしまう。
一仕事終えたとアーヴィンは安堵し、シンディとリアは名残惜し気にダンジョンを振り返る。
そこへ、待ち構えていたかのように駆け寄って来る姿があった。
「シンディ、リア~!」
二人の仲間たちである。人数が多いのは、友達が混じっているからと思われる。
そして生徒に混じってイヴリンが慌てた様子で来るのを見つけると、後頭部に手を回して頭を掻く。
「す、すみませんっ。アーヴィン先生が生徒の迎えに行ったと知って、メリリースが後を追ってダンジョンの中に入って行ってしまったとリズィーから報告がありました!」
「はああ? またあの問題児か。ったく、腹も減ってるってのに面倒臭いな」
「そう言わずに」
「今日のダンジョンならば、あいつ一人でもどうにかなるんじゃないですかね?」
「そんな呑気なこと言わないで下さい」
イヴリンがアーヴィンの腕を引くと、それを見ていた女生徒たちが騒ぎ始める。
「お前ら、さっさと戻れ」
声を掛けながらそっとイヴリンの手を外す。
「何処まで潜ったかわからない分、厄介なんだよな……」
いくらダンジョン内の魔物がアーヴィンにとって容易過ぎるものであっても、生徒一人をさがし出さなければならないとなると、面倒でしかない。
「冒険者やってる方が楽だったかもな」
アーヴィンは盛大に溜め息をつきながら、本日三度目となるダンジョンに入ったのだった。
(終わり)
0
お気に入りに追加
5
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
私が魔王?いやいや、そんなわけないでしょ?えっ、本当なの?なら、『証明』してみなさいよ!
R.K.
ファンタジー
これは、不運にも『魔王』になってしまった女の子の物語。
「はあ~、おはよう。」
「おはようございます、魔王様。」
「・・・」
「誰?えっ、魔王?魔王ってどういうこと!!」
不運にも『魔王』になってしまった女の子が、どうにかこうにかして、魔王であることを信じようとしない、そんな女の子と、魔王に仕える魔人が織り成す異世界ファンタジー小説です!
面白そうでしたら、読んでいってください!
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
逆行聖女は剣を取る
渡琉兎
ファンタジー
聖女として育てられたアリシアは、国が魔獣に蹂躙されて悲運な死を遂げた。
死ぬ間際、アリシアは本当の自分をひた隠しにして聖女として生きてきた人生を悔やみ、来世では自分らしく生きることを密かに誓う。
しかし、目を覚ますとそこは懐かしい天井で、自分が過去に戻ってきたことを知る。
自分らしく生きると誓ったアリシアだったが、これから起こる最悪の悲劇を防ぐにはどうするべきかを考え、自らが剣を取って最前線に立つべきだと考えた。
未来に起こる悲劇を防ぐにはどうするべきか考えたアリシアは、後方からではなく自らも最前線に立ち、魔獣と戦った仲間を癒す必要があると考え、父親にせがみ剣を学び、女の子らしいことをせずに育っていき、一五歳になる年で聖女の神託を右手の甲に与えられる。
同じ運命を辿ることになるのか、はたまた自らの力で未来を切り開くことができるのか。
聖女アリシアの二度目の人生が、今から始まる。
※アルファポリス・カクヨム・小説家になろうで投稿しています。
流石に異世界でもこのチートはやばくない?
裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。
異世界転移で手に入れた無限鍛冶
のチート能力で異世界を生きて行く事になった!
この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。
移転した俺は欲しい物が思えば手に入る能力でスローライフするという計画を立てる
みなと劉
ファンタジー
「世界広しといえども転移そうそう池にポチャンと落ちるのは俺くらいなもんよ!」
濡れた身体を池から出してこれからどうしようと思い
「あー、薪があればな」
と思ったら
薪が出てきた。
「はい?……火があればな」
薪に火がついた。
「うわ!?」
どういうことだ?
どうやら俺の能力は欲しいと思った事や願ったことが叶う能力の様だった。
これはいいと思い俺はこの能力を使ってスローライフを送る計画を立てるのであった。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる