上 下
13 / 69
ラサール魔法学校入学編

第11話《噂の転校生》

しおりを挟む


      *


「いたたた…………たく、中身が男じゃから暴力的じゃな」
「男でなくとも結果は同じだと思います、ハゲ校長」
「うぅ…………最近の子は皆ノリが悪いのぉ」
  校長はつるつるに大きな絆創膏ばんそうこを張って、涙目でこちらを見つめてくる。
  ちょっと苛立った顔で俺は言った。
「セクハラとかいいんで、早く話を進めてください。このままだとグダグダで終わりかねないんで」
「それもそうじゃな…………ゴホン!」
   咳払いって便利だなと、この時俺は思った。どんな流れでもそこで打ち切ることができるから。
「アヤノン君、君は早速新しいクラスに行ってもらうんじゃが…………その前に、『魔力測定』を行う」
「ま、魔力測定?」
  ゲームとかアニメでありそうなやつだな…………。校長は言う。
「ここは名の通りの魔法学校。よって言わずもがな、生徒全員が魔法を使えるんじゃ。それはまぁ大前提であるから、君にも分かると思うが…………君はこの学校の“魔力階級制度”は知っとるか?」
「い、いいえ…………両親からはまったくなにも…………」
「そうか…………“魔力階級制度”というのは、生徒たちを魔力の『度合い』によってクラス分け、階級分けする制度じゃ」
「それっていわゆる、私立の学校が成績でクラス分けしているみたいな?」
「うむ、それと一緒じゃ。本来なら入学前にその測定が行われるんじゃが、君は別の世界で暮らしていた身じゃ。魔法を使ったことは?」
「ないっすね……………」
「じゃろ? だからここで測定せねばならん。その結果によって、君の新しいクラスが決定される。少し納得がいかんと思うが、階級別によって授業も丸々変わってくるからのぉ。そこは勘弁してほしい」
  俺は少し胸がズキズキするような懸念に襲われた。
  無理もない。俺は一度も魔法なんて使ったことないし、まず魔法力があることすら知らなかったし…………。
  名門校だというから、そのくらいのことはするだろうと納得がいくが、未だに“魔法”の概念がない俺には、そもそも俺にそんなものが眠っているのか自体が心配になるのだ。
  測定器は単純なものだった。見た目は学校でよく見る握力測定器にそっくりだ。
  校長は俺にそれを手渡し、握れと言った。
「測定器を握ったら、ぐっと力強く握るんじゃ。ぐっとじゃぞ?ぐっと!」
  それただの握力測定器じゃんか。
「ぐっ…………ぬぬぬぅ~~~!」
  血管が腕に浮き出るくらい、力いっぱいに握ってやった。パッと手を離し、校長に返還した。
  これで下のメーターに俺の握力じゃなくて魔力が数値として示されてることになる。
「どうですか? 俺の魔力はどれくらいですか!?」
  俺は期待に満ちた視線を校長に向ける。
  だが……………。
「…………………………」
  あれ?
「……………校長?」
「ん? あ、あぁ、すまない。いやはや、これで君のクラスは決定じゃ」
「そうですか! よかった~…………俺って魔力有ったんだぁ~……………」
  俺は胸を撫で下ろした。
「で、どこなんですか、俺のクラスは?」
「う、うむ…………君はな…………」
  ドキドキ、ドキドキ……………。
  これ以上にない緊張が俺を包み込む。対して校長は言いにくそうに、その口を開いた。
「…………君の新しいクラスは――――」


      7


  ザワザワ…………ザワザワ…………。
  マリナーラはクラスに入った途端、クラスの変な雰囲気を敏感に察知した。
「これは…………何事なのです…………?」
  マリナーラは席に座ると、隣の席である男子に話しかけた。
「ジェンダーくん、ちょっといいですか?」
「あ、マリナーラさん、おはよう」  
  ジェンダー、と呼ばれた少年はフッと甘い香りを引き立てて振り返った。
  天使のようなその笑みは、クラスの女子はおろか男子の心もわし掴みにするほどの力を持ち、その顔立ちは美少女にしか見えない。しかも髪も女のように長い。
  一体これまで何人の男が第三の世界へと出家しただろう。
  ジェンダー少年は、いわゆる“男の娘”である。
「はぁ~……………いやされるのです……………」
  とろけた表情のマリナーラに、ジェンダーはあたふたと混乱した。
「マ、マリナーラさん? どうしたの、何かあった?」
「いえいえジェンダーくん、それはこっちのセリフなのです。皆がおかしいくらいにザワザワしているのです! これは何かあったのですか?」
  ジェンダーは嬉しそうに答えた。
「あ、そうそう、そうなんだ! 実はさっき風の噂で聞いたんだけど…………」
「ふむふむ、なのです」
「僕たちのY組に、新しくがやって来るんだって!」
「て、転校生、なのです?」
「そう! 転校生だよ! はぁ~、楽しみだよね~。男の子か女の子なのか、その辺のところがまだハッキリしてないから、皆舞い上がってるんだ~」
「……………
  そういえば――――と、マリナーラは朝の出来事を思い出す。
(朝の子も転校生だったのです…………まさか…………?)
  マリナーラはその転校生を担いで保健室に向かい、そこのシルナ先生に預けてきたのだ。
  あの一級の宝石のような少女が、まさかこのクラスに…………?

  ガラガラガラガラっ。

  教室の戸が音をたてて引かれた。先生の登場である。

「は~い、皆席ついて~」
  潮が引くように皆は席にガタガタと戻っていった。
  マリナーラたち、Y組の担任である彼は『クロ』先生という。いつも眠そうな目をしているが、普段から覚醒はしており、口調がダルそうな感じなのは、これは人前で話すのが得意じゃないから…………と、本人は語っている。
  クロ先生は出席簿で全員の出席を確認してから、パタンとそれを閉じた。
  クロ先生が妙に改まっている。
「えー…………皆にお伝えすることがあります。多分噂で聞いていると思うけど…………今日、このクラスに転校生がやって来ます」
「「おぉぉぉぉ!」」
  全員が一斉に感極まった。
  一人の男子が興奮の息を抑えられずに言った。
「マジかよ本当だったのか! せ、先生、転校生は女子ですか、男子ですか!?」
「……………女子だぞ」
「「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
  男子たちは青春の尾ひれを見せつけた。ついに俺たちにも青い春が来た! みたいな。
「じ、じゃあ、その子はかわいいですか!?」
「うん、むっちゃかわいいぞ」
「「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
  これは確実にフラグ立ったぞ! みたいな感動の渦が巻き起こる。
  だが ――――その中で、小さく舌打ちをする男子もいることも、マリナーラは知っている。

「っ…………なんだよ、ふざけんなよ…………新しい男かなぁ~って思ってたのに、新たな下着コレクション(男)の数が増えるって期待してたのに…………いやマジありえんしホントありえんしなんで女だし…………」

(“男好き”の『レオナルド・ザックレー』くん…………負のオーラ全開なのです……………)
  
  彼女とは遠い席のレオナルドだが、マリナーラにはその呪言が耳元で囁かれてるかのごとく流れてきた。これの影響で彼女が何度眠れぬ夜を過ごしたことか…………。彼女自身も、その回数は存じていない。レオナルドの負のオーラは昔年の恨みが積もりに積もったような、古く重いものだった。
  それはさておき、クロ先生は相変わらずの調子で、
「こらこら男子、朝っぱらから騒ぐなぁ。毎日毎日ギャーギャーバカみたいに声をあげて…………少しは先生の身にもなってみろ」
「先生~! はやく転校生を連れてこいよ!」
「「そうだそうだー!」」
「人の話を聞けよ…………あぁー、分かった分かった。じゃ、そういうことだから、入ってきていいぞ~」
  廊下にいる転校生に、クロ先生は入ってくるよう促した。


      *


  廊下に待機しているのは、誰であろう転校生だ。声をかけられた転校生は、深呼吸で意識を保ち、その戸を開いた。

  一体、誰が予想したことだろうか。後にこの転校生が、ここラサール魔法学校に波乱を巻き起こす『異端児』のような存在になるということを。


      *


  ――――数十分前。
「…………君の新しいクラスは…………『一年Y組』じゃ」
「はい!」
  勢いで返事をしたが、Y組はどういうクラスなのか、俺はまったく認知をしていない。
  校長に俺は尋ねた。
「あの、『Y組』って、階級とかはどうなんですか? 高いんですか?」
  だとしたら、俺は夢に描くような魔法使いになれるのでは!? そうそう、大体こんな感じの流れだと、実はあなたは魔法力がスゴく高いですよみたいな展開が多い。
  あ、そういえばさっき校長黙ってたな。そうか、やっぱそうか! どうやら俺にもアニメのようなフラグが――――
「…………じゃよ」
「…………………え?」
  校長は俺にフッと背を向けた。
「この学校の中で『最弱魔法使いの集まり』と揶揄やゆされるクラス、それが『Y組』じゃ」
「さ、最弱魔法使い……………」
「そしてアヤノン君、君は……………」
  そこでようやく校長は俺を見据えた。深刻な顔つきで。

「わしが見てきた中で、君は最も魔法力が少ない生徒じゃ」

  …………俺の名前は福本アヤノン。どうやら俺には異世界もののフラグが立たなかったみたいだ。

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

                   ―章『完』―








  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】ダイブ〈AV世界へ堕とされたら〉

ちゅー
ファンタジー
なんの変哲も無いDVDプレーヤー それはAVの世界へ転移させられる魔性の快楽装置だった 女の身体の快楽を徹底的に焦らされ叩き込まれ心までも堕とされる者 手足を拘束され、オモチャで延々と絶頂を味わされる者 潜入先で捕まり、媚薬を打たれ狂う様によがる者 そんなエロ要素しかない話

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

処理中です...