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26.スペシャルリフレ

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 そんな曽根川を、加賀は複雑な表情で眺めた。何せ、この短い間に起こった出来事が多すぎる。五十年の間に培われた価値観を全て上書きするような出来事だ。それをどう処理していいのか解らずに、薄く眼を伏せて浅く溜息を吐いた。

「…正直なところ、まだ信じられない部分が多くて…混乱してる。──自分に、そんな魅力があるなんて思ってもいなかったからね。…それに、あんなところを見せておいて、今更否定できない。…頭の中が真っ白になるくらい……気持ちがよかったんだ。……俺は、自覚がないだけで、実はゲイだったっていうことかな…?」
「いいえ?何度だって言いますけど、加賀さんは素敵ですよ。昔、だいぶモテたでしょう?目鼻立ちもお優しそうで…身体もきちんと鍛えていて、何より、年上の包容力がある。そういうの、俺すっごく憧れるんです。──んー、性癖がゲイかストレートかっていうより、ただカラダの相性が良かった、が正解なんじゃないですかねぇ」

 一回り以上若い曽根川にそこまで褒められるのを、少々くすぐったく感じた。そして、自分の中の疑問に答える曽根川の言葉に、軽く首を傾げる。

「身体の相性……?」
「そう。生物学的なことは抜きにしておいても、セックスって、気持ちがいいからするものじゃないですか?男だろうが女だろうが、それで気持ちよくなれたなら、そこの相性はいいんです。…そもそも、加賀さんに魅力が無かったら、俺、あんなになってないですよ。──せめてもの救いは、あんなサイテーなことをやらかしても、気持ちよかった、って言ってくれたことですかね…。受け身の人を気持ちよく出来るなんて、タチ冥利に尽きますよ…だけど」

 と、曽根川は一度言葉を切る。心底から乾いた、自嘲と後悔に満ちた表情で、唇を薄く歪めた。

「──流石にさ、もう…来てくれないでしょ?昔、加賀さんに奥さんがいたっていうことも知ってて、なのに俺…貴方に手を出しました。EDを治してあげたい、っていう気持ちは本当、でも、そっから先を我慢できなかったのは、本ッ当にサイテーだと思います。お客さんに手出すとか、セラピストとして絶対にやっちゃいけないことだから。あーやだやだ、汚い大人になったもんですよ…。儚い恋を、欲情でブチ壊しちゃうなんてね…」
「……それなんだけど、曽根川君…」

 いつの間にか、自分の中で曽根川の呼び方が変わっていることに気が付く。こうなっては今更、他人行儀な呼び方をすると、かえってギクシャクするだけであるように思えて、加賀は自然に、そのように曽根川を呼んでいた。

「──こんなに気持ちのいいテクニックを知ってしまったら、他の店に鞍替えなんて…もう考えられない。…それに…方法はちょっと驚いたけど、言った通り、俺のEDは治してくれた訳だろう?あんな風なみっともないところを見せて、今更嘘をついて、取り繕っても仕方がない。…されたことは、嫌じゃなかったよ。……驚きはしたけどね」
「……えっ」

 一瞬呆気にとられたような顔で、曽根川は瞬きをする。自分の中で複雑に絡み合った感情の糸を少しずつ解きほぐしながら、やや赤面した頬を掻きつつ、言葉を続けた。

「でも、俺の気持ちを整理するのには、だいぶ時間が掛かると思う。…おじさんの凝り固まった常識は、今どきの若い子みたいに柔軟じゃないんだ。──曽根川君が気まずくなければ、少し…時間が欲しい」
「それって…まだチャンスがあるっていう解釈をしていいんですか?加賀さん」
「…何せ、十五年以上も恋愛沙汰なんて御無沙汰だったし…。それに、男性とそういうことになるっていうのがどういうことなのか、まだよくわかってないんだ。──こんな掴みどころのない状態で構わないなら、改めてここからスタートさせて欲しい…それじゃあ、駄目かな?」

 次の瞬間、バスローブに包まれた加賀の身体は、曽根川の両腕の中にしっかりと抱き締められていた。反射的に固まってしまう加賀を抱き締め、髪に頬を摺り寄せてくる曽根川からは、さっきまで吸っていた電子タバコの香りがする。

「──あー、可愛い。…メチャクチャ可愛いこと言うなぁ…。駄目だなんて言うはずないじゃないですか…。俺、ぶん殴られてそのまま振られるとばっかり思って、覚悟決めてました…」
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