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冬【剪定】
13 訪問
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購入したチーズとおまけにもらった牡蠣、燻製の鮭を抱え、クロードは家までまた戻った。三角形に囲われたオリーブの前を通り過ぎ、ルネの家の前まで行く。
「おーい」
大きな一軒家の扉を叩く。返事はない。上を見上げると、煙突から薄く煙が出ている。
「ルネ! ルーネー!」
大声を出すと、横合いから「おーう」と遠く声が聞こえた。待っていると、家の横にある梨畑から、手に大きな鋏と鋸を持ったルネが出てくる。
「ルネ! 申し訳ない!」
「わ、危ないって」
クロードが飛び跳ねるように駆け寄ると、慌ててルネは鋏と鋸を腰のケースにしまった。その手を両手で握り、クロードはルネの目をまっすぐに見つめた。
「この前僕は……僕は、君の気持ちを考えずに酷いことを言ってしまった。心配してくれていたのに『君には関係ない』だなんて……本当に悪かった。謝らせてくれ」
許してもらいたいとは思わなかった。ただ、自分が反省しているということを、そして叶うならルネとまた仲良くしたいと考えていることを伝えたかった。
「え? いや……あれは、突然渡した俺も悪かったよ。ああでもしないと受け取ってもらえないと思って……俺も、君のことを考えていなかったんだ」
ルネは努めて無表情を装っているようだった。だがその目は落ち着かなげに揺れている。クロードは首を振り、ルネの手を握る指に力を込めた。
「ルネ……君と、もっと話したい。僕と一緒に年を越してくれないか。お詫びになるか分からないが、君の好きなチーズとワインも用意したんだ」
「クロード……その……」
怯えたように目をさまよわせたルネは、しばらくしてから「うん、わかった」と諦めたような表情になった。
「ありがとう、クロード。後で……お邪魔させてもらうよ」
クロードはほっと息をついた。いつの間にか息をつめてしまっていたらしい。よかった、と呟いた声が震えていることに気づき、慌ててルネの手を放す。
「そ、それじゃあ……待ってる、から」
道に出てからちらりと背後を見ると、じっとクロードを見ているコート姿のルネと目が合った。その目は穏やかだったが、何を考えているかは分からなかった。
家に戻ったクロードは、できるだけ綺麗な服を選び出してまた着替えた。身なりを整え、準備をしながらルネを待つ。
ルネは日暮れ頃、テリーヌを携えてやってきた。
軽く扉をノックする音にクロードが立ち上がると、玄関につくより前に扉が開いた。ルネの大きな影が入ってくる。
「クロード……邪魔するぞ」
「待ってたよ、ルネ」
笑いかけると、ルネは緊張したように口を引き結んだ。そのまま固い動きで着席するのを確認してから、クロードは寝室に向かった。ひやりとした白ワインのボトルをを手にして戻る。
「遅くなって申し訳ないけれど、僕からのプレゼントだ」
右手で差し出すと、ルネは物言いたげな目でクロードを見た。おずおずと伸びてきた手にボトルを置く。
「あれから考えてみたんだけどね、ルネ。僕も君のことが好きみたいだ……多分、愛しているんだ。いつの間にか、僕の中で君と一緒にいることが当たり前になっていて、もうルネのいない毎日なんて考えられないんだ」
栗皮色の目をまっすぐ見つめて、クロードは大きく息を吸った。
「これからも一緒にいてくれないか、ルネ」
特別な日も、そうでない日も。楽しい時も、悲しい時も。ルネと共に過ごしたい。
そのためになら、自分のすべてを捧げたって惜しくない。クロードにとって、ルネはかけがえのない存在になっていた。
「クロード……ありがとう」
固まっていたルネの表情がふわりと緩み、それから泣きそうに崩れていく。
愛おしい、と思った。
「おーい」
大きな一軒家の扉を叩く。返事はない。上を見上げると、煙突から薄く煙が出ている。
「ルネ! ルーネー!」
大声を出すと、横合いから「おーう」と遠く声が聞こえた。待っていると、家の横にある梨畑から、手に大きな鋏と鋸を持ったルネが出てくる。
「ルネ! 申し訳ない!」
「わ、危ないって」
クロードが飛び跳ねるように駆け寄ると、慌ててルネは鋏と鋸を腰のケースにしまった。その手を両手で握り、クロードはルネの目をまっすぐに見つめた。
「この前僕は……僕は、君の気持ちを考えずに酷いことを言ってしまった。心配してくれていたのに『君には関係ない』だなんて……本当に悪かった。謝らせてくれ」
許してもらいたいとは思わなかった。ただ、自分が反省しているということを、そして叶うならルネとまた仲良くしたいと考えていることを伝えたかった。
「え? いや……あれは、突然渡した俺も悪かったよ。ああでもしないと受け取ってもらえないと思って……俺も、君のことを考えていなかったんだ」
ルネは努めて無表情を装っているようだった。だがその目は落ち着かなげに揺れている。クロードは首を振り、ルネの手を握る指に力を込めた。
「ルネ……君と、もっと話したい。僕と一緒に年を越してくれないか。お詫びになるか分からないが、君の好きなチーズとワインも用意したんだ」
「クロード……その……」
怯えたように目をさまよわせたルネは、しばらくしてから「うん、わかった」と諦めたような表情になった。
「ありがとう、クロード。後で……お邪魔させてもらうよ」
クロードはほっと息をついた。いつの間にか息をつめてしまっていたらしい。よかった、と呟いた声が震えていることに気づき、慌ててルネの手を放す。
「そ、それじゃあ……待ってる、から」
道に出てからちらりと背後を見ると、じっとクロードを見ているコート姿のルネと目が合った。その目は穏やかだったが、何を考えているかは分からなかった。
家に戻ったクロードは、できるだけ綺麗な服を選び出してまた着替えた。身なりを整え、準備をしながらルネを待つ。
ルネは日暮れ頃、テリーヌを携えてやってきた。
軽く扉をノックする音にクロードが立ち上がると、玄関につくより前に扉が開いた。ルネの大きな影が入ってくる。
「クロード……邪魔するぞ」
「待ってたよ、ルネ」
笑いかけると、ルネは緊張したように口を引き結んだ。そのまま固い動きで着席するのを確認してから、クロードは寝室に向かった。ひやりとした白ワインのボトルをを手にして戻る。
「遅くなって申し訳ないけれど、僕からのプレゼントだ」
右手で差し出すと、ルネは物言いたげな目でクロードを見た。おずおずと伸びてきた手にボトルを置く。
「あれから考えてみたんだけどね、ルネ。僕も君のことが好きみたいだ……多分、愛しているんだ。いつの間にか、僕の中で君と一緒にいることが当たり前になっていて、もうルネのいない毎日なんて考えられないんだ」
栗皮色の目をまっすぐ見つめて、クロードは大きく息を吸った。
「これからも一緒にいてくれないか、ルネ」
特別な日も、そうでない日も。楽しい時も、悲しい時も。ルネと共に過ごしたい。
そのためになら、自分のすべてを捧げたって惜しくない。クロードにとって、ルネはかけがえのない存在になっていた。
「クロード……ありがとう」
固まっていたルネの表情がふわりと緩み、それから泣きそうに崩れていく。
愛おしい、と思った。
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