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第一章 幼少期
第四十八話 セリアの心
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「とにかく、あの小僧のことはお前に任せた。適当にあしらっておけばいいだろう。セリアの事情を知ったところでせいぜい文句を言いに来る程度だろうしな」
イザギさんはそう言って無理矢理話を終わらせた。
イーナさんは何か言いたげだったが、とぼとぼとドアの方へ歩いていき、廊下に出て部屋に戻った。
『上手くいったな。これで望み通りの情報が手に入ったわけだ』
(そう、だね)
作戦の成功を喜べる心境じゃない。さっきのことを少し思い出すだけで、怒りが爆発しそうだ。必死に理性で押さえつけないと、自分が何をしでかすかすらわからない。
『落ち着けよ。ここで暴れたって意味がねぇ。お前がやるべき事はそんな事じゃないはずだ』
(うん。わかってる。そんなこと、わかってるよ……! けど!! 親が一番言っちゃいけないことを言ったんだよ!? セリアがいなければいいって!)
『だから落ち着けって言ってんだろ。感情のままに行動するのは馬鹿のやることだ。ちゃんと頭を使って何をすべきか考えろ』
ソルの諭すような声に、僕は大きく深呼吸をして心を鎮める。二度、三度と繰り返すうちに心に少し余裕が出来てきた。
(ふぅ、ありがと、ソル。そうだね。僕がやるべきなのはセリアの家族の仲を良くすることだ。セリアに両親からの愛を教えてあげることだ。もう、大丈夫。もう暴れたりなんてしないよ)
『はっ、世話の焼けるやつだ。んで、この後はどうすんだ?』
(そうだね……セリアの様子でも見てから帰ろうかな)
僕はセリアの気配がした方へ歩いていった。扉の前に立ち、そうっと扉を開き中を覗いてみた。なんだか変態っぽいなぁなんて馬鹿な考えを一瞬で吹き飛ばすような光景が、そこにはあった。
僕はすぐさま部屋の中に飛び込み、ナイフを持った・・・・・・・セリアの手を掴む。僕が強く掴んだせいでセリアはナイフを取り落とした。氷で出来たナイフは、鈍い音を立てて床に転がった。
「どうして……どうしてこんなことを?」
僕は床に落ちている数本の髪の毛を見ながらセリアに尋ねる。
そう、セリアは自分の髪の毛を切ろうとしていたのだ。
あと一瞬でも遅れていればセリアの綺麗な銀髪は、バッサリと切られていたことだろう。
「……魔法使って……パパとママの声聞こえて……喧嘩してたから……こんな髪……なくなっちゃえって……」
セリアはポロポロと涙を零した。ぼたぽたと雫が床に落ち、小さなシミを作る。
『……恐らく、風の魔法を使ったんだろうな。風の魔法で音を拾ってたから、さっきの会話が聞こえちまったんだろ』
それで、自分の銀の髪の毛がなくなればいいと思ったってわけか。
僕はセリアを優しく抱きしめ、頭を何度も何度も撫でた。
「そんな事言わないで。僕はセリアの綺麗な髪が好きだよ? とっても綺麗な銀の髪。それを切ろうとなんてしないでよ。セリアは何も悪くないんだ。きっとお父さんとお母さんもわかってくれる。今はちょっと戸惑ってるだけなんだ。セリアはちゃんと、イーナさんとイザギさんの娘だよ」
だから大丈夫。僕は繰り返しそう言って、セリアが落ち着くまで抱きしめ続けた。しばらくして、泣き声が収まったので腕の中を見てみると、セリアは夢の世界に旅立っているようだった。
僕はポケットからハンカチを取り出し、顔を拭いてあげた。そして起こさないように慎重にベッドに運び、布団をかけた。
「おやすみ、セリア」
僕はセリアの頭をもう一度なでてから、セリアの家を出た。
覚悟は、完全に固まった。
イザギさんはそう言って無理矢理話を終わらせた。
イーナさんは何か言いたげだったが、とぼとぼとドアの方へ歩いていき、廊下に出て部屋に戻った。
『上手くいったな。これで望み通りの情報が手に入ったわけだ』
(そう、だね)
作戦の成功を喜べる心境じゃない。さっきのことを少し思い出すだけで、怒りが爆発しそうだ。必死に理性で押さえつけないと、自分が何をしでかすかすらわからない。
『落ち着けよ。ここで暴れたって意味がねぇ。お前がやるべき事はそんな事じゃないはずだ』
(うん。わかってる。そんなこと、わかってるよ……! けど!! 親が一番言っちゃいけないことを言ったんだよ!? セリアがいなければいいって!)
『だから落ち着けって言ってんだろ。感情のままに行動するのは馬鹿のやることだ。ちゃんと頭を使って何をすべきか考えろ』
ソルの諭すような声に、僕は大きく深呼吸をして心を鎮める。二度、三度と繰り返すうちに心に少し余裕が出来てきた。
(ふぅ、ありがと、ソル。そうだね。僕がやるべきなのはセリアの家族の仲を良くすることだ。セリアに両親からの愛を教えてあげることだ。もう、大丈夫。もう暴れたりなんてしないよ)
『はっ、世話の焼けるやつだ。んで、この後はどうすんだ?』
(そうだね……セリアの様子でも見てから帰ろうかな)
僕はセリアの気配がした方へ歩いていった。扉の前に立ち、そうっと扉を開き中を覗いてみた。なんだか変態っぽいなぁなんて馬鹿な考えを一瞬で吹き飛ばすような光景が、そこにはあった。
僕はすぐさま部屋の中に飛び込み、ナイフを持った・・・・・・・セリアの手を掴む。僕が強く掴んだせいでセリアはナイフを取り落とした。氷で出来たナイフは、鈍い音を立てて床に転がった。
「どうして……どうしてこんなことを?」
僕は床に落ちている数本の髪の毛を見ながらセリアに尋ねる。
そう、セリアは自分の髪の毛を切ろうとしていたのだ。
あと一瞬でも遅れていればセリアの綺麗な銀髪は、バッサリと切られていたことだろう。
「……魔法使って……パパとママの声聞こえて……喧嘩してたから……こんな髪……なくなっちゃえって……」
セリアはポロポロと涙を零した。ぼたぽたと雫が床に落ち、小さなシミを作る。
『……恐らく、風の魔法を使ったんだろうな。風の魔法で音を拾ってたから、さっきの会話が聞こえちまったんだろ』
それで、自分の銀の髪の毛がなくなればいいと思ったってわけか。
僕はセリアを優しく抱きしめ、頭を何度も何度も撫でた。
「そんな事言わないで。僕はセリアの綺麗な髪が好きだよ? とっても綺麗な銀の髪。それを切ろうとなんてしないでよ。セリアは何も悪くないんだ。きっとお父さんとお母さんもわかってくれる。今はちょっと戸惑ってるだけなんだ。セリアはちゃんと、イーナさんとイザギさんの娘だよ」
だから大丈夫。僕は繰り返しそう言って、セリアが落ち着くまで抱きしめ続けた。しばらくして、泣き声が収まったので腕の中を見てみると、セリアは夢の世界に旅立っているようだった。
僕はポケットからハンカチを取り出し、顔を拭いてあげた。そして起こさないように慎重にベッドに運び、布団をかけた。
「おやすみ、セリア」
僕はセリアの頭をもう一度なでてから、セリアの家を出た。
覚悟は、完全に固まった。
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