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第一章 幼少期

第四十六話 偵察

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 それぞれの反応を示す二人を放置しながら、僕は料理に舌鼓を打った。少しすると、母さんも冷静になったのか壊れたような笑いを止め、フューを抱きしめている。
 ……いや、どうやらフューを観察しているようだ。フューに嫉妬するのは止めても、フュー自身に興味があるんだね……。
 とりあえず今は放っておいた方が良さそうだな。

「ごちそうさま!」

 料理を綺麗に食べ尽くした僕は、そう言って自分の部屋に戻った。
 そういえばこっちの世界では、食事の前後の挨拶ってないんだよね。父さんと母さんに正体を明かすまでは言わないように気をつけてたけど、もうそんな必要は無いし、これからは言っていこうかな。

「さて、と」

 僕は自室のベットの上に座り、そう声を漏らした。いつもならこの後はお風呂に入って寝るだけだけど、今日は違う。お風呂の前に行く所があるのだ。
 僕は枕元に置いてある、氷の人形に目をやる。セリアがくれた、僕の宝物だ。

「ソル、それじゃあ行こっか」
『あぁん? 行くってどこにだ?』
「決まってるじゃん! セリアの家だよ」
『あぁ? 正気か? こんな時間に行ったところで門前払いを食らうのがオチだろ』

 ソルの言う通り、辺りはすっかり闇に包まれている。そろそろ寝る支度を始める頃だろう。こんな時間に行ったところで相手にされないのはまず間違いない。

「そりゃ正面から行ったらそうだろうね。だから、忍び込むんだよ」
『忍び込むだと? ソーマ。お前何考えてんだ?』
「セリアのことを何とかするにしてもさ、事情をもっと知らないとダメでしょ? だから今は情報収集に徹するべきかなーと」

 今の僕はセリアが両親からあまり良い扱いを受けていないということしか知らない。そんな状態じゃセリアを助けるなんて出来ない。だから今から情報を集めるんだ。一応、策がないわけじゃないし。

『はぁ……お前、ほんとはバカだろ』
「酷いな! これにはちゃんと考えがあるんだよ!? ほら、面と向かってだと、セリアの両親の本音なんて聞けないでしょ?」
『だからってな、お前――』

 これ以上ソルに小言を言われない内に行動に移すことにした。家から抜け出したことがバレても心配をかけないよう、書き置きを残してから窓からこっそりと家を出た。

 この世界では、当然のごとく街灯なんてものはない。いや、都会に行けば魔道具のライトが点いているらしいが、こんな田舎町にあるはずもなく、日が完全に落ちた今、辺りは闇一色だった。いつもなら夜空に輝いている二つの月や星も、今日は厚い雲に覆われその姿を隠している。
 だが、そんなことは僕の障害たり得ない。前世で視界が潰された時の訓練と称して、目隠しされた状態で大勢に襲いかかられたことのある僕からすれば、暗闇の中を走ることなんて朝飯前だ。

「ソル、身体強化魔法は使える?」
『そうだな、全力は無理だが普通になら使えるぞ。元々あれは魔法というより技法の一つみてぇなもんだからな。魂にかける負荷はそう大きくねぇ』
「そっか、それはよかった。あんまり時間をかけると父さんと母さんに気づかれるかもしれないし、急ぎたかったからさ」

 僕は身体強化魔法を発動させた。全身を魔力が巡り始め、力が漲ってくる。軽くジャンプをして体を慣らしたあと、僕はセリアの家に向かって駆け出した。
 夜の冷たい空気を切り裂きながら走ること数分、セリアの家に到着した。
 やっぱり身体強化魔法はすごいね。いつもならもっと時間がかかるのに、あっという間だ。
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