上 下
18 / 94
第一章 幼少期

第十八話 決着

しおりを挟む
(頼んだよ!)

 僕は迫り来る巨大な炎を前にして、ソルに合図をし、ソルに体の主導権を譲り渡す。
 ソルは体の主導権が入れ替わると同時に魔力を放出し、フラムの魔法にぶつけ相殺する。

「そんな! あの一瞬で、しかも純粋な魔力のみで私の魔法を打ち消した!? そんなことができるのなんてアイツくらいしか……」

 ソルは動揺するフラムに向かってゆっくりと歩いていく。

「アイツは死んだはずよ! アンタは何者なの!?」
「よぉ、久しぶりだな、フラム。地獄の底からもどってきてやったぜぇ?」
「ガルルルゥゥ!」

 ソルに向かってノワールウルフが唸り声をあげる。

「その口ぶり、スコルのこの反応……まさか本当にソルなの!?」
「そうだ。正真正銘、魔導師のソル=ヴィズハイム様だ」

 ソルの答えにフラムはしばし呆然としていたが、やがて顔を怒りに染める。

「どうして生きているのかは知らないけど、よくものこのことアタシの前に顔を出せたわね! 魔王様の仇、取らせてもらうわよ!」

 フラムはそう叫ぶと、胸元から笛を取り出し思い切り吹いた。ピィーと甲高い笛の音ねが静かな森に響き渡る。

「今吹いたのは私が従える魔物を呼ぶ笛よ。さすがのアンタでも百を超える魔物に一斉に襲いかかられればそれなりに消耗するでしょ。恨むのならたった一人・・・・・で来た自分の愚かさを恨むのね」

 フラムは得意げに言うが、待てど暮らせど魔物達は来ない。当然だ。僕が全て始末したのだから。

「どうした? ご自慢の魔物は来ないみてぇだが? 魔物にまで愛想を尽かされたか?」
「くっ! 馬鹿にしてぇ……! いいわ、魔物なんかに頼らなくたってアタシとスコルでアンタを殺してあげる!」

 フラムが腕を振り上げると、百を優に超える火球が夜空に浮かべられ、辺りが明るくなる。炎に照らされたフラムが艶やかな笑みを浮かべ、あげた腕をソルに向かって振り下ろす。
 フラムの指示に従って火球が次々と降り注ぐ。

『ソル、挑発ご苦労さま。作戦通りだね。あとは任せて!』

 僕とソルは再び体の主導権を入れ替える。
 体を自分で動かせるようになった僕は、降り注ぐ火球の間を縫い、紙一重で避けていく。火球が地面に着弾した時の爆風はソルが魔法で防いでくれる。
 全ての火球を避け終わると、辺りに土煙が舞う。僕はその土煙に紛れ、罠を仕掛けた場所に向かって走る。
 そして到着すると高い木の上に登り、そこからフラムめがけてクナイを投擲する。
 クナイがフラムの頭部に命中する直前、フラムがまたがるノワールウルフ、スコルが土の弾に気づき身をよじる。

「っ!? そっちにいるのね! 隠れても無駄よ!」

 フラムはスコルに命じ、僕の元へ走らせる。僕は自分の場所を知らせる為にあえて射撃を続ける。

(もう少し、もう少しだ)

 フラムが木ごと僕を焼き払おうとしたのか、火魔法を使う。五メートルほどの火球が現れ、周囲が明るくなる。

(ソル!)
『わかってる!』

 ソルが、火魔法が木に着弾する前に水魔法で火を消す。だが火が消される寸前、フラムの目に液体が滴したたっている細長いものが映った。

「何かある!?」

 しまった! 火に照らされて光を反射してしまったのか。だが保険は用意してある!

(フュー!)

 僕の念話に応え、フラムの背後からフュー、ではなくゴブリンジェネラルが姿を現した。

 どうして? ゴブリンジェネラルは倒したはず。それにフューはどこに? いや、今はそれよりも――

 僕は動こうとするが、それよりも前にゴブリンジェネラルが動き出した。
 さっき呼んでも出てこなかったのに、今になって自分が支配する魔物が現れたことに戸惑い、動きが止まったフラムにゴブリンジェネラルは拳を叩き込む。
 フラムは防御が間に合わず、直撃を受け吹き飛ぶ。

 考えてる暇はない! 罠を発動するなら今だ!

 僕は両手で、仕掛けておいたワイヤーを握り、木から飛ぶ。するとワイヤーが滑車の要領でフラムを締め上げ、フラムを身動き一つできなくする。ワイヤーを引っ張ると中心にいる人を締め上げるように仕掛けておいたのだ。

「くっ!」
(ソル!)
『あぁ!』

 ソルはワイヤーに魔力を注ぎ強化するとともに、僕が重りを作った時の要領で土を圧縮し、ワイヤーにぶら下がっている僕の体に纏わせる。
 ワイヤーがギチギチとフラムを締め付ける。常人なら体がバラバラになるほどの力が加わっているのだが、フラムは身体強化魔法を全力で使っているのか、ワイヤーが少し食い込むだけだ。
 だがフラムの体がバラバラになるのも時間の問題だろう。フラムはあれで全力なのに対し、こちらは重りを増やせば増やすほど威力が増すのだ。

「くっ! こん、な、罠を……!」

 だが念には念を、だ。僕とソルは氷魔法を発動し、氷の弾をフラムの周りに無数に発生させる。そして一斉にフラムに向けて発射する。

「ヴァァァァァ!」

 フラムが叫び声をあげると同時に巨大な青い炎に包まれる。その青い炎に僕とソルが放った氷の弾は溶かされる。

 追い詰められると自爆するってのは本当だったね。

 そう、フラムがここで自分ごと燃やすのは予定通りだ。だからその対策もしっかりとしてある。

 青い炎が収まり、現れたフラムは依然としてワイヤーに締め上げられたままだった。一つ違うのはそのワイヤーが青い炎をあげていることだ。

「ぐあっ! ど、どうして!?」

 何故ワイヤーが溶けていないかと言えば、フラムの自爆寸前にソルがありったけの魔力をワイヤーに込めて強化したからだし、ワイヤーが燃えているのは事前に油を塗っておいたからだが、それをあえてフラムに教える必要は無い。
 さっきまではよく喋っていたが、それはあくまで挑発の為で、アサシンは無駄口を叩かずに速やかに任務を遂行するのだ。
 だから僕は何も答えず、フラムにとどめを刺す為、魔法を発動させる。

 使うのは僕が使える中で一番威力が高い融合魔法だ。それも、フラムの得意な火魔法で打ち消しにくいだろう、土と火を融合させる。
 ソルは土と火に、更に雷を加えた魔法を発動させるようだ。
 僕が発動させた炎を纏う土の槍と、ソルが発動させた炎と雷を纏う土の剣がフラムを狙う。

「死んで、たまる、か!」

 だがそれがフラムの命を奪う前に、フラムが周りの木々を無作為に燃やした。ワイヤーの支えとなっていた木が燃やされたことでフラムの拘束が緩む。その瞬間スコルがとんできて、間一髪でフラムの命を救う。だが無傷とはいかなかったようで、フラムの右腕の肘から先が無くなっていた。

 すぐさま僕は次の魔法を使おうとするが、フラムの行動の方が早かった。
 フラムはスコルにまたがると、スコルごと風魔法で空に浮かび上がる。

「《火は全てを無に帰すもの。全てを喰らい、呑み込み、滅ぼすもの。火は破壊の象徴。火の後には何も残らぬ。我が魂を糧とし、地獄の業火を齎もたらさん》    【悪魔の焔イビルフレイム!】 村ごと、消え、ろ!!」

 そう叫んだフラムは両手を天に伸ばす。フラムの両手の先に数百メートルほどの大きさの青い炎が生まれる。

 フラムはそれを僕の方に放った。魔法の発動後、魔力を使い果たしたようで、フラムはスコルの背に倒れ込み墜落していく。

「ソル、あれどうにかできる?」

 僕は猛然と迫り来る炎を指さしながら言う。

『逃げるだけなら出来るが……逃げると村が消滅する』
「だったらどうにかするしかないね」
『十中八九死ぬぞ?』
「それでもやるしかないよ」
『ちっ、馬鹿なヤツだ』

 僕は覚悟を決め、氷と水の融合魔法を使う。ソルは氷と水、そして風の融合魔法を使った。
 どんどん魔法を大きくさせていくが、このままだと威力が足りない。
 内心で焦る僕の隣に、さっきフラムを殴り飛ばしたゴブリンジェネラルが現れた。そのゴブリンジェネラルは僕の方を見つめた後、その体を溶けさせた。いや、それは正確ではない。正しくは、その体をスライムへと変えたと言うべきだろう。

「フューだったのか!」

 僕の驚きの声には反応せず、フューも氷魔法を発動させる。

「ありがとう! 助かるよ!」

 だが、僕とソル、フューの魔法が合わさり、巨大な氷の塊が生まれるが、まだ足りない。

「くっ! 誰かあと一人いてくれれば……!」
『無い物ねだりしてもしょうがねぇ! 魔法に全力を注げ!』

 ソルに言われた通り全力で魔力を注ぐが、威力が足りないままとうとう炎と氷が接触してしまった。
 強烈な熱気を浴び、肌がヒリヒリする。
 氷はなんとか炎を押しとどめてこそいるが、徐々にその体積を減少させていく。一方炎の方に目立った変化は見られない。

「このままだと村が……! そうはさせない!」

 意識が飛びそうになるほど魔法に力を込める。すると何かがはじける感覚が体を襲う。その直後、魔法の威力が格段に上がり、炎を押し返し始める。

「一体何が!? もしかして指輪の制限が外れた?」

 集中をきらさないようにしながら左手に目をやると、指輪の色が青色から緑色に変わっていた。

「もう緑色、か。この調子だとすぐに赤になりそうだね。魂が壊れるのも時間の問題、かな?」
『どうする? 今ならまだ逃げれなくもねぇ』
「それだけは嫌だ。ごめんね、ソル」
『ちっ、しょうがねぇな。最後まで付き合ってやるよ』

 フューも同じ気持ちだということが伝わってくる。フューは激しくぷるぷると体を震わせ、賛同の意を体の動きでも表現している。

「二人とも、ありがとう……! それじゃあ、この炎が消えるのが先か、僕達の魂が壊れるのが先か、勝負といこうか!」

 僕は魔法に全神経を集中させる。あまりの集中力に脳が焼き切れそうになるが無視して魔力を注ぎ続ける。

 炎から受ける熱も徐々に大きくなってくる。全身に痛みが走り、喉がカラカラに乾く。気を抜けば意識を失ってしまいそうな灼熱の中、僕は気を強く持つために叫ぶ。

「うおぉぉぉぉぉ!」

 最後の気力を振り絞り、僕は魔力を魔法に送り続ける。僕の魔力が尽きるのと炎が消えるのは、ほとんど同時だった。

 熱によるダメージ、極度の疲労、魔力切れなどが重なり、僕は意識を手放す。
 薄れゆく意識の中、最後に僕の目に映ったのは真っ赤に輝く指輪だった。それは危険を示す色であると共に、僕の魂が壊れていないことの証明でもあった。

「ぼくの、かち、だ……」

 ズザァッと音を立てながら僕の体は地面に沈んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...