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さっそく宇治の組紐のお店にいき、予約をしていた手組み体験で組紐の組み方を教えてもらったあと、道具一式を購入した。
組紐用の紐はたくさんの色があり、青王様の着物や帯の色を思い出しながらどの色にするかあれでもないこれでもないと迷っていると、あっという間に一時間以上が経っていた。
「ちょっと買いすぎたかな...」
どうしても選びきれなかったのと、おそろいの色で自分用の帯締おびじめも作りたいと思ってしまったことで、たくさんの荷物を抱えて歩くことになった。
「せっかく来たんだからお参りして帰ろう」
のんびりお散歩をしながら宇治神社と宇治上神社をまわり、しっかりとお参りをした。
「組紐が上手に作れますように...青王様に気に入ってもらえるといいな」


「瑠璃、ちょっと穂香のところへいってくる」
「あ、穂香さんは今日お買い物にいくって言ってましたよ」
「そうか...」
「でも、夜には来ると思いますから、その時には会えますよ」
青王は残念そうにうつむきながら自室へ戻っていった。
「きっと穂香はもうすぐ帰ってくる」そう思った瑠璃は Lupinus の厨房で待っていることにした。

「あれ?明かりがついてる」
「穂香さん、おかえりなさい」
「あっ、瑠璃ちゃん、どうしたの?」
「さっき青王様がここに来ようとしていたんですけど、穂香さんはお買い物にいってるって伝えたら、なんだかしょんぼりしちゃって」
青王様が来ようとした理由はたぶん...と瑠璃が話してくれた。
「それならあとで持っていきましょう。瑠璃ちゃん、ちょっとお手伝いしてくれる?」
「もちろん!」


「青王様、明日からの視察のお供に持っていってください」
私はいろいろな味のボンボンショコラを作り、瑠璃に個包装にしてもらったものを青王様に渡した。
「ありがとう。じつは先ほど穂香のところへいこうとしたら、今日は買い物にいっていると瑠璃から聞いてね。明日持って行くためにチョコレートが欲しかったけれど諦めていたんだ」
青王様は視察にチョコレートを持っていきたいんだと思う、と瑠璃から聞いたので、ボンボンショコラを作り食べやすいように個包装にしたのだ。
「それならよかったです。気をつけていってきてくださいね」
私と瑠璃は仕込みがあるからと王城を出て、泉に寄ってから Lupinus に戻った。茜様から泉の水のことを聞いてからは、一日一回は必ずこちらへ来て水を口にするようにしている。

仕込みを終え瑠璃が王城へ戻ったあと組紐を作ることにした。少しだけと思っていたけれど、同じ動作の繰り返しで思っていた以上に無心になりかなり没頭していたらしく、気がつくと結構な時間が経っていた。仕事に影響が出ないようにしないといけないけれど、青王様が視察から戻って来るまでに仕上げたいと思う。

それからも私は毎晩王城や泉に通っていたけれど、例の男の子の姿をした鬼に出くわすことはなかった。出没するのは営業中のふじの周辺だけで、カカオの森でも見かけたという情報はない。

青王様が視察に出かけてから四日後、ほまれと一緒に閉店後の片付けをしているところへ瑠璃がやってきた。
「穂香さん、今夜青王様が帰ってきますから、王城でカレーを作って待ってましょうよ」
「そうね。せっかくだからデザートにチョコレートケーキを作ってもらえる?」
「いいですね!ケーキ用のチョコレートは少しビターにしてください。あと、かわいいデコレーションもしたいので、チョコペンも作ってください」
私は瑠璃からリクエストされた通り、ビターチョコと七色のチョコペンを作り王城へ向かった。

「穂香ちゃん、いらっしゃい!はい、これ。トマトもナスもいっぱい収穫しておいたからね~!早く作りましょう!」
王城の厨房では、かごいっぱいの野菜とともにやる気満々の茜様が待っていた。
いつものようにトマトのカレーとフルーツのサラダを作り、準備が整ったところへタイミングよく青王様が帰ってきた。
「ただいま。穂香、なにか変わったことはなかったかい?怖い思いや怪我なんかもしてないか?」
「ちょっ...青王様!とりあえず離してもらえませんか」
「いやだ。ぜったいに離さない!」
青王様は帰って来るなり私をギュッと抱きしめ頭をなでてきた。みんなが見ているのに恥ずかしすぎる!
私の困惑した顔を見た茜様が「青王、穂香ちゃんが困っているわよ。そろそろ離してあげなさい」と助け船を出してくれた。
「あ...すまない。何日も会えなくて心配だったから、つい」
「変わったことも怖いこともありませんでしたよ。ほら、みんな待ってますから夕食にしましょう」
「今夜はカレーか。帰って来たときからいい香りがしている」
「食後にデザートもあるので、あまり満腹にしないでくださいね」

「うわぁ!かわいい!」
「食べちゃうの、もったいないわぁ」
瑠璃が作ったチョコレートケーキは本当に手が込んでいてかわいらしく、寿ひさと茜様はお皿を持ち上げいろいろな角度から眺めている。
「スポンジがふわもちでおいしい!瑠璃ちゃんはどんどん腕を磨いているわね」
「穂香さんのお店に来るお客様に、笑顔になってほしいんです。そのためにパティシエールとしても座敷童子としても、もっとがんばりますよ~」
「ありがとう。私も負けられないわね」
みんなおなかいっぱいになり幸せな笑顔で「ごちそうさま」をすると、瑠璃が片付けを引き受けてくれたので、私は青王様に山形視察のお話を聞くことにした。

将棋の駒の形をしたとても大きなオブジェがある広場にいったとか、普通のもりそばを注文したのに山盛りのそばが運ばれてきて、これが普通盛りだと言われて驚いたとか...
いままで見たこともないものをいろいろ口にしたけれど、その中でも一番気に入ったものがあるそうだ。
芋煮いもにというものがおいしかったんだ。店ごとに少しずつ味が違うんだが、基本的には甘辛い醤油味だった」
「芋煮って、ニュースで見たことがあります。家族や友達同士で、河原で作って食べるんです。あれはおいしそうだなって思ってました」
「それなら今度一緒に山形を旅行しよう!芋煮以外にもおいしいものがたくさんあったし、温泉もあるし...その...」
青王様の耳がどんどん赤くなっていく。
「り、旅行はそのうちに...私、芋煮の作り方を調べておくので、明日の夕食に作りましょう。お手伝いしてくださいね」
「それは楽しみだ。いくらでも手伝うよ!」
旅行の話から青王様の気をそらすことに成功した私は「少しやることがあるので、今日はもう帰りますね」と家に戻ってきた。

結局組紐は青王様が戻ってくるまでには仕上げられなかった。でもせっかく作るのだから青王様に喜んでほしくて、ゆがんだりしないよう焦らず丁寧に組んでいった。
それでももう少しでできあがる。明日には渡せるように深夜までかかって仕上げをした。
「できた!」
初めてにしては綺麗に仕上がったと思う。早く渡したいという気持ちを抑えて、約束の芋煮の作り方を調べ、うっすら明るくなってきた空を見ながら少しだけ仮眠することにした。
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