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本編
二十八話 昼寝はお茶会の前に
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カーテンが開いて明るくなった静かな部屋の中、ダンさんがお茶の用意をしている音が心地よく響く。
ワゴンに乗せたお茶のセットの前で静かに支度するダンさんの大きな背中をぼんやりと眺めなから耳を澄ませば、聞こえるのは外の音。
誰かの大声、風の音が少しだけ。
ただ聞こえるなぁ、と緩く考えているとダンさんがこちらをに体を向けて微笑んだ。
「ニッキー様、お茶に入れる砂糖は幾つにしますか?」
「んー、三つでお願いします」
「お体に触りますので一つにしますね」
「えぇ……」
はじめから入れる数決まってたやつじゃん……。
「砂糖はあまり入れられませんが、その代わりミルクはたっぷりと入れました、さぁどうぞ、礼は不要ですからね?」
「ありがとうございます」
「……おや」
「お礼の強要です、くるしゅうないとか言えば良いですかね?」
「んん……! ニッキー様のイメージではないので、できればお控え頂ければと少し」
「そうですか、残念」
「全然残念とは思ってない顔してますね……」
「黙秘しときますね」
「おや」
片方の眉を器用に上げたダンさん、とても良い笑顔、素敵ね。
そしてメインのお茶を一口を、ゴクンと。
「うん、おいしい」
「お気に召して頂けましたか?」
「とっても」
「それはよかった」
ミルクのまろやかさとお茶の香りと味、渋みはほんの少しだけ、一口一口大事に飲みたいと思える美味しさ、素敵。
ゆったりと、まったりと。
落ち着いた中にちょっと気安い感じは嫌いじゃないね、うん、すき。
「砂糖は入ってませんがスコーンを用意しましたがいかがでしょう」
「それはもちろん、お願いします」
「かしこまりました、落とさないよう気を付けて」
「はい 」
変わらない笑顔のダンさんからいつの間にか手に持たされていたお皿に少し驚きつつ、カップをテーブルに置いてもそもそとスコーンに齧りつく。
うん、最高。
水分の無くなった口にに暖かい紅茶を入れて、うむうむ、最高。
もう一口齧って、紅茶を呑んでと二回ほど繰り返して満足のままに息を吐いて、またスコーンを食べ……ようにもそこには何もなかった、悲しい、紅茶を飲もう。
「ダンさん、おかわりお願いします」
「気に入っていただけて嬉しいのですが……焼かなければ用意できません、申し訳ありません」
「なんと、なら焼きたてが欲しいですね」
「ニッキー様の要望であれば喜んで、ではニッキー様がお昼寝をしている間に用意しますので是非ごゆるりとおやすみくださいませ」
「そうですね、その方が効率的に……ん?」
ん?
「……大事なはなし、するのでは?」
和んだけど、ダンさんが……お悩み相談的なのしてくれるからこうして色々準備してくれて……いやでもこのまま寝るのも悪くはないかも……ん?
「ええ、それはもちろん」
「いやでもこのまま寝るのも全然……、ん?」
「くくっ、あまり話が長くならないよう気を付けます」
「ん?」
なんか……てのひらの上で転がされたような……気持ち良く誘導されたような……ん?
「前からおもってましたけど、ダンさんて人お世話というか、人を使うのが上手ですよね」
「ええまぁ、人の上に立っていましたので」
僕という人間は、もしかしたら自分で思うよりもなんか……単、分かりやすい人間なのかも……しれない。
いや、ダンさんが特別なだけかもしれない、きっとそうだ。
「それは、団長とか隊長とか、結構偉いところですよね」
「似たようなものですね、はい」
「……なんで僕なんかの世話してるんです?」
「ニッキー様のお世話をするために遠路はるばるやってきたのです、ご自分のことを"なんか"等と下げてはいけません、よろしいですね?」
「えぇ……僕のために?」
「おや、信じられませんか?」
「なんせ僕があの部屋から出てきてからお世話する準備をしてたみたいなので、まぁ、はい」
楽しげなダンさんに疑惑の目を向ける僕を、ダンさんは目尻を和らげて微笑み、口を開いた。
「それでは仕方ありませんね、ニッキー様が重く捉えるような悲しい話をひとつしましょう」
「えっ」
「ささ、もう一杯お茶をどうぞ、私の昔についてですが、ニッキー様にも関係のある話です、聞きたくは無いですか? 」
僕に関係のある……昔の話。
「……お願いします」
「喜んで」
ワゴンに乗せたお茶のセットの前で静かに支度するダンさんの大きな背中をぼんやりと眺めなから耳を澄ませば、聞こえるのは外の音。
誰かの大声、風の音が少しだけ。
ただ聞こえるなぁ、と緩く考えているとダンさんがこちらをに体を向けて微笑んだ。
「ニッキー様、お茶に入れる砂糖は幾つにしますか?」
「んー、三つでお願いします」
「お体に触りますので一つにしますね」
「えぇ……」
はじめから入れる数決まってたやつじゃん……。
「砂糖はあまり入れられませんが、その代わりミルクはたっぷりと入れました、さぁどうぞ、礼は不要ですからね?」
「ありがとうございます」
「……おや」
「お礼の強要です、くるしゅうないとか言えば良いですかね?」
「んん……! ニッキー様のイメージではないので、できればお控え頂ければと少し」
「そうですか、残念」
「全然残念とは思ってない顔してますね……」
「黙秘しときますね」
「おや」
片方の眉を器用に上げたダンさん、とても良い笑顔、素敵ね。
そしてメインのお茶を一口を、ゴクンと。
「うん、おいしい」
「お気に召して頂けましたか?」
「とっても」
「それはよかった」
ミルクのまろやかさとお茶の香りと味、渋みはほんの少しだけ、一口一口大事に飲みたいと思える美味しさ、素敵。
ゆったりと、まったりと。
落ち着いた中にちょっと気安い感じは嫌いじゃないね、うん、すき。
「砂糖は入ってませんがスコーンを用意しましたがいかがでしょう」
「それはもちろん、お願いします」
「かしこまりました、落とさないよう気を付けて」
「はい 」
変わらない笑顔のダンさんからいつの間にか手に持たされていたお皿に少し驚きつつ、カップをテーブルに置いてもそもそとスコーンに齧りつく。
うん、最高。
水分の無くなった口にに暖かい紅茶を入れて、うむうむ、最高。
もう一口齧って、紅茶を呑んでと二回ほど繰り返して満足のままに息を吐いて、またスコーンを食べ……ようにもそこには何もなかった、悲しい、紅茶を飲もう。
「ダンさん、おかわりお願いします」
「気に入っていただけて嬉しいのですが……焼かなければ用意できません、申し訳ありません」
「なんと、なら焼きたてが欲しいですね」
「ニッキー様の要望であれば喜んで、ではニッキー様がお昼寝をしている間に用意しますので是非ごゆるりとおやすみくださいませ」
「そうですね、その方が効率的に……ん?」
ん?
「……大事なはなし、するのでは?」
和んだけど、ダンさんが……お悩み相談的なのしてくれるからこうして色々準備してくれて……いやでもこのまま寝るのも悪くはないかも……ん?
「ええ、それはもちろん」
「いやでもこのまま寝るのも全然……、ん?」
「くくっ、あまり話が長くならないよう気を付けます」
「ん?」
なんか……てのひらの上で転がされたような……気持ち良く誘導されたような……ん?
「前からおもってましたけど、ダンさんて人お世話というか、人を使うのが上手ですよね」
「ええまぁ、人の上に立っていましたので」
僕という人間は、もしかしたら自分で思うよりもなんか……単、分かりやすい人間なのかも……しれない。
いや、ダンさんが特別なだけかもしれない、きっとそうだ。
「それは、団長とか隊長とか、結構偉いところですよね」
「似たようなものですね、はい」
「……なんで僕なんかの世話してるんです?」
「ニッキー様のお世話をするために遠路はるばるやってきたのです、ご自分のことを"なんか"等と下げてはいけません、よろしいですね?」
「えぇ……僕のために?」
「おや、信じられませんか?」
「なんせ僕があの部屋から出てきてからお世話する準備をしてたみたいなので、まぁ、はい」
楽しげなダンさんに疑惑の目を向ける僕を、ダンさんは目尻を和らげて微笑み、口を開いた。
「それでは仕方ありませんね、ニッキー様が重く捉えるような悲しい話をひとつしましょう」
「えっ」
「ささ、もう一杯お茶をどうぞ、私の昔についてですが、ニッキー様にも関係のある話です、聞きたくは無いですか? 」
僕に関係のある……昔の話。
「……お願いします」
「喜んで」
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