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本編
十九話 診察と療法と抵抗とアイス
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夜が少し寒くなってきた。
外の草原が少し寂れたきた気がする。
日光の出ている時間は変わらず暖かいけど、夜はきちんと布団に潜らないと寒い程度には寒くなってきた。
この辺りの気候はどんな感じだろうと思いを寄せながら、今日の僕の気分はあまりよろしくない。
「……」
「浮かない顔なんてしてどうした」
「いえ、なんでも」
「朝食が気に召さなかったか?」
「とても美味しかったです、明日もお願いします」
「畏まった言葉は禁止だと言うとるだろう」
体は元気だけど元気じゃない良く分からない状態、お父様達の助けがあって漸く生活できる位。
朝起きて、ベッドの上でお父様の診察を受けている僕は少し憂鬱な気分になっている。
「なんだ、言ってみろ、解決できるかは分からんが幾らかマシにはなるだろう」
「そうです?」
「おおとも」
お父様やダンさんとは全く関係ないとは分かっているけど……仕方がない。
「……それでは、少しだけ」
やんわりと笑顔で言ってくれる優しいお父様に少しだけ甘えて。
「この部屋に来てとても楽しく過ごせてるんですけど、少し不安というか、微妙なことがあってですね」
「ほう」
こう、特別問題にする事ではないけど、少しだけ重要なやつ。
「最近、メルディアさんのお陰で小説の中の物語に浸り楽しむ事が習慣になってて、1日に何冊か読んでますよね? 」
「そうだな」
頷くお父様を見て、僕は少しため息をつく。
「その……ずっと本を読んでると……現実と夢の区別が少し、曖昧になる時があって、少しだけ不安に思うときがあるんですよ」
「……ほう」
ここでの暮らしに不満も無いけど、目に映る景色が何一つ変わらない場所にいるとどうしても……頭の中の景色に見惚れちゃう。
ふわふわするような、夢心地のような……気持ち悪くはないけど、気持ちが良い訳でもない。
「それで夢の方が現実だと良いなあ、なんて最近思ってしまうんですけどこれって病んでますかね」
「それなりに危険だな……」
「そうですかね……じゃあ今日はもう休んだ方が良いかなって」
「そうだな、体だけではなく心のケアもしなければいけないな、さあ、注射を打とう」
………。
……………。
「目を剃らしてどうした……さあ、腕を出せ」
「……いやです」
「出さんかコラ」
恐ろしい凶器を手にお父様がにっこり微笑んでいる、怖いなぁ。
頑張って腕に力を込めるが悲しいかな、腕をとられ、細い細い針を刺されて……。
「んぎゃあ」
「その声はどこから出しているんだ、痛くはないだろう?」
悲鳴をあげる僕をお父様が呆れた顔で見る。
「ええまあはい、……今日は最悪な日ですねほんと」
注射、知識としては十分、使い方もある程度知っているし誰かに打てと言われれば打てる自信があるけど……やだ。
命の危険とか誰かを人質に取られれば分からないけど基本的には、打ちたくない、怖い。
「嘆いている所悪いが、後6本打つぞ」
「ろっぽん!? 意味が分からない!!」
「必要だからだ! 腕2本足2本背中と腰に1本ずつ! 」
「やだ! やめてください!!」
「やめん!!」
1本でも最悪だったのに何故そんな……!
「さあ頑張れ、父は応援してるぞ」
「やだ、やだやだ……、目の前の嫌なことを避けるために隠していた嫌なことを差し出す囮戦術が無駄に……!! あっ」
口を滑らして……お父様の顔がどんどん厳つく……。
あーあーあー、凄い真っ赤。
「こんの阿呆!! 切実な話をしたと思ったら意味のわからん事をしよって、ダン! 手伝え! 」
「畏まりました」
「え?! 」
抵抗しようとする僕に業を煮やしたお父様の掛け声で後ろに控えていたダンさんがにっこりとやってきた
「さあニッキー様、お覚悟を」
「こわいこわいこわい」
僕の頭を優しく撫でて腕を取ってお父様の方に持ってって……プスリ。
「この世全てが憎くなってきた……」
注射……怖い、お父様、嫌い。
「そこまで落ち込むことか……?」
「今ものすごく裏切られた気分です、ええ」
「私はお前がこんな注射嫌いなのを初めて知った」
抵抗らしいことはできないからサクサクと打たれてぐったりと天井を見つめる僕の顔を覗き込んでくる、お父様に虚ろな目で僕は答えると、呆れた声が返ってきた。
げんなりするお父様と、ついでに僕。
メルディアさん経由で手に入れた雑誌をゆったり読もうとしたらお父様が注射を持ってきて刺すなんて言うから。
「しばらく何もしたくないです、酷いです」
「同じ言葉をそのまま返せるぞ……疲れた」
「僕もです」
「誰のせいだと思ってるんだ馬鹿たれ、少しは我慢できんのか」
「いやぁ……我慢出来なくは無いんですが、もやもやが残って嫌なので一回思いきり抵抗して駄目なら仕方ないって自分なりに納得つけたいなって」
戦って負けて力を認める感じのあれ。
「考え方が剣闘士か阿呆……今日はデザートを多めにつけてやるから、な? 好きだろう? 」
デザートでご機嫌取り、うーん……。
「アイスクリームのミルク味とチョコ味を用意した、好きだろう?」
「好きです」
食べ物で釣ろうなんて酷いなと思った自分が恥ずかしい、お父様大好き。
「ならば良し、明日も注射を打つが大丈夫だな」
「そうですね……え? 」
え?
にっこりと笑顔のお父様のその裏に圧を感じる……。
「明日は取り寄せていた物品と呼び寄せていた者が到着するからな、楽しみだな、注射を頑張ったら明日もアイスをつけてやる、どうだ?」
「……ううん! 」
嫌だけど嫌じゃないというか最悪だけど最悪じゃないような……!
恨み辛み妬みは一切無いけどすっごい唸り散らかしたい複雑な気持ち……!!
あと呼び寄せてた人って何なのさと思うけども! お父様嫌い!
あ。
「すいません、喉痛くなってきました」
「……阿呆、大声出すからだ、待ってろ、ハチミツミルクを用意する」
「やったー」
疲れた背中のお父様を見送る笑顔の僕であった。
外の草原が少し寂れたきた気がする。
日光の出ている時間は変わらず暖かいけど、夜はきちんと布団に潜らないと寒い程度には寒くなってきた。
この辺りの気候はどんな感じだろうと思いを寄せながら、今日の僕の気分はあまりよろしくない。
「……」
「浮かない顔なんてしてどうした」
「いえ、なんでも」
「朝食が気に召さなかったか?」
「とても美味しかったです、明日もお願いします」
「畏まった言葉は禁止だと言うとるだろう」
体は元気だけど元気じゃない良く分からない状態、お父様達の助けがあって漸く生活できる位。
朝起きて、ベッドの上でお父様の診察を受けている僕は少し憂鬱な気分になっている。
「なんだ、言ってみろ、解決できるかは分からんが幾らかマシにはなるだろう」
「そうです?」
「おおとも」
お父様やダンさんとは全く関係ないとは分かっているけど……仕方がない。
「……それでは、少しだけ」
やんわりと笑顔で言ってくれる優しいお父様に少しだけ甘えて。
「この部屋に来てとても楽しく過ごせてるんですけど、少し不安というか、微妙なことがあってですね」
「ほう」
こう、特別問題にする事ではないけど、少しだけ重要なやつ。
「最近、メルディアさんのお陰で小説の中の物語に浸り楽しむ事が習慣になってて、1日に何冊か読んでますよね? 」
「そうだな」
頷くお父様を見て、僕は少しため息をつく。
「その……ずっと本を読んでると……現実と夢の区別が少し、曖昧になる時があって、少しだけ不安に思うときがあるんですよ」
「……ほう」
ここでの暮らしに不満も無いけど、目に映る景色が何一つ変わらない場所にいるとどうしても……頭の中の景色に見惚れちゃう。
ふわふわするような、夢心地のような……気持ち悪くはないけど、気持ちが良い訳でもない。
「それで夢の方が現実だと良いなあ、なんて最近思ってしまうんですけどこれって病んでますかね」
「それなりに危険だな……」
「そうですかね……じゃあ今日はもう休んだ方が良いかなって」
「そうだな、体だけではなく心のケアもしなければいけないな、さあ、注射を打とう」
………。
……………。
「目を剃らしてどうした……さあ、腕を出せ」
「……いやです」
「出さんかコラ」
恐ろしい凶器を手にお父様がにっこり微笑んでいる、怖いなぁ。
頑張って腕に力を込めるが悲しいかな、腕をとられ、細い細い針を刺されて……。
「んぎゃあ」
「その声はどこから出しているんだ、痛くはないだろう?」
悲鳴をあげる僕をお父様が呆れた顔で見る。
「ええまあはい、……今日は最悪な日ですねほんと」
注射、知識としては十分、使い方もある程度知っているし誰かに打てと言われれば打てる自信があるけど……やだ。
命の危険とか誰かを人質に取られれば分からないけど基本的には、打ちたくない、怖い。
「嘆いている所悪いが、後6本打つぞ」
「ろっぽん!? 意味が分からない!!」
「必要だからだ! 腕2本足2本背中と腰に1本ずつ! 」
「やだ! やめてください!!」
「やめん!!」
1本でも最悪だったのに何故そんな……!
「さあ頑張れ、父は応援してるぞ」
「やだ、やだやだ……、目の前の嫌なことを避けるために隠していた嫌なことを差し出す囮戦術が無駄に……!! あっ」
口を滑らして……お父様の顔がどんどん厳つく……。
あーあーあー、凄い真っ赤。
「こんの阿呆!! 切実な話をしたと思ったら意味のわからん事をしよって、ダン! 手伝え! 」
「畏まりました」
「え?! 」
抵抗しようとする僕に業を煮やしたお父様の掛け声で後ろに控えていたダンさんがにっこりとやってきた
「さあニッキー様、お覚悟を」
「こわいこわいこわい」
僕の頭を優しく撫でて腕を取ってお父様の方に持ってって……プスリ。
「この世全てが憎くなってきた……」
注射……怖い、お父様、嫌い。
「そこまで落ち込むことか……?」
「今ものすごく裏切られた気分です、ええ」
「私はお前がこんな注射嫌いなのを初めて知った」
抵抗らしいことはできないからサクサクと打たれてぐったりと天井を見つめる僕の顔を覗き込んでくる、お父様に虚ろな目で僕は答えると、呆れた声が返ってきた。
げんなりするお父様と、ついでに僕。
メルディアさん経由で手に入れた雑誌をゆったり読もうとしたらお父様が注射を持ってきて刺すなんて言うから。
「しばらく何もしたくないです、酷いです」
「同じ言葉をそのまま返せるぞ……疲れた」
「僕もです」
「誰のせいだと思ってるんだ馬鹿たれ、少しは我慢できんのか」
「いやぁ……我慢出来なくは無いんですが、もやもやが残って嫌なので一回思いきり抵抗して駄目なら仕方ないって自分なりに納得つけたいなって」
戦って負けて力を認める感じのあれ。
「考え方が剣闘士か阿呆……今日はデザートを多めにつけてやるから、な? 好きだろう? 」
デザートでご機嫌取り、うーん……。
「アイスクリームのミルク味とチョコ味を用意した、好きだろう?」
「好きです」
食べ物で釣ろうなんて酷いなと思った自分が恥ずかしい、お父様大好き。
「ならば良し、明日も注射を打つが大丈夫だな」
「そうですね……え? 」
え?
にっこりと笑顔のお父様のその裏に圧を感じる……。
「明日は取り寄せていた物品と呼び寄せていた者が到着するからな、楽しみだな、注射を頑張ったら明日もアイスをつけてやる、どうだ?」
「……ううん! 」
嫌だけど嫌じゃないというか最悪だけど最悪じゃないような……!
恨み辛み妬みは一切無いけどすっごい唸り散らかしたい複雑な気持ち……!!
あと呼び寄せてた人って何なのさと思うけども! お父様嫌い!
あ。
「すいません、喉痛くなってきました」
「……阿呆、大声出すからだ、待ってろ、ハチミツミルクを用意する」
「やったー」
疲れた背中のお父様を見送る笑顔の僕であった。
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