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本編

十七話 鏡

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歩幅は少なく、一定に。


ベッドから床に足をつけて、自分の力で立ち上がって……意識して進んで、転ばないように諦めないうように。


ちょっと進んだだけでもうしんどくなったけど……頑張れ自分。


「ニッキー、今日はそのあたりに」
「結構です」
頑張っているのに邪魔されるのはちょっと正直、話しかけられたくないという本音が口にでそうだけど我慢して……がまん。


「歩くにはまだ筋肉が辛いだろう? 」
「ええはい辛いので話かけないでください!」
「うぐう……」
我慢……できなかった~。



いやまあ砕けた感じで接してくれってお父様言ってたし……後で謝っとこ。




「ふう……もうちょい」
目指すは、化粧台、ドレッサー……。



3時間に1度だった睡眠が5時間に1度になって、少しでも疲れを感じるとほとんど動けなかったのが少しは改善されて……辛いけど、孤独な時よりはずっと良い。


今、ダンさんとかお父様の目がある所限定だけど、自分の足で歩けるようになってきて、頑張って運動をして……辛い。



「ふう……んんぬぬ! 」
「大丈夫なのか!? 」
「大丈夫……です!!」
体が重くって足が震えちゃうのは見ないふりをして……足を、動かして。


残り少し、あと4回足を動かせば……つく、から。


「に、ニッキー……、もう、いいだろう?_ 頑張ったぞ、今日はもうそのあたりにしておかないか?! 怪我をしてしまったらリハビリの意味がないと思うのだがっ、そ、そうだ、好きなものはないか!?」
「公爵」
よし、ついた……。

なら、やることはひとつ。

「な、なんだ、何故私を睨む」
「失礼は承知で申し上げますと、煩いです」
「なんだと?! 私に向かって何て事を……」
「ニッキー様の邪魔になっておりますので、よろしいでしょうか」
「ぬ、ぬう……!?」
「……おお?」
実は意外なことに鏡を見る機会が一度も無かった。

目覚めてから今に至るまで、一度も。

メルディアさん、ダンさん、お父様。

僕の顔を見て皆は初め、顔を歪めて、泣きそうな顔になって。

そんな顔をさせる僕って一体どんな顔をしているのか気になっていたけども、中身を治すほうを優先して見ていなかった。

そして今、鏡に映る自分を見た感想は……なんだろうか。


「……ミイラみたい」
率直な感想としては、顔色の良いミイラ。


「……ニッキー?」
「お肌カサカサで、髪真っ白で……骨格がはっきりしてて、元気なミイラだこれ、すごーい」
「すごくは無い」
真っ白な髪は、銀髪や白髪とは比べてはいけないくらいボロボロで、頬は痩けて。

「こんな状態の良いミイラみたいな顔だったなんて思わなくて……、面白くなってきちゃいましたなんか」
「面白くもないわ……阿呆」
怖いなって少しは思うけどそれ以上に驚いてしまった。


「いやだってほらお父様……お父様?」
ちょっと楽しくなってお父様達をみれば、二人とも悲しそうな顔で僕をみていた。


あぁ……うん、何してるんだろうね、僕。


まともに考えたら、すごい姿だ。

多分、ほとんど骨と皮だろうし、そんな僕をお世話をしてくれるお父様達ってありがたいね。



「あの……お父様」
「なんだ」
うん……悲しくなってきた。


「これ……良くなりますかね」

折角ならそれなりに楽しく過ごしたいなとは思ったけど、骸骨みたいな顔じゃまともに外に出れないだろう。

醜い姿の僕の世話をしてくれる人達にほんと申し訳無くなっちゃう。


多少の醜さならどうって事無いけど、これは……大丈夫なのかな。
見なきゃ良かったかも……、もう少し待ってから見れば良かったかも。


「ニッキー?  」
「はい……」
「大丈夫だ、治すとも」
見上げて見る僕に、歩いてきたお父様は笑顔で言った。


「でも、なにも無い状態から肉をつけるなんて……」
「私を誰だと思っている、医者だぞ?」
「そうなんですか?」
あ、いや、そうなのかな、朝の診察とかしてるし、うん。

「まぁそうなのだが……体の肉が無いくらいどうってことない、私は国一番の医術師だからな」
「初めて聞きました」
「そうか……残念だ」
「え? 」
「まあいい、ニッキー、お前はただ、楽しいことだけ考えていれば良い」
先の事を想像して不安になる僕を抱きしめて、お父様は優しく言ってくれる。

「それじゃあ……治ります?」
「ああ、必ず治す」
「……ありがとう、ございます?」
ちょっと……お父様に惚れそう。





治るなら、もう少し頑張ろうかな。







「それはそれとして、しばらくリハビリは禁止だ、心臓に悪すぎる」
「え?! どうしてです!?」
あ、あれぇ? それじゃあどう頑張ろうか。










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