上 下
170 / 182
龍の国と死者の番

龍の国からの迎え 【後】

しおりを挟む
どうしようかな、と良くわからない事に対する悩みは杞憂に終わったらしい。

王様の怖いオーラを醸し出しながらの仲裁のお陰で喧嘩に発展しそうな空気を無くしてくれた。





アルさんがちょっと離れた所でステイされているのは置いといて、今は王様達だ。


「そら、受けとれ」
怪訝な顔をする王様にルドレウスさんは懐から丸められた羊皮紙を取り出すと王様に向けて放り投げる。
受け取った王様が中身を確認すると目を剥く。


「これは……どういう事だ龍王!」
王様が驚く様子に僕が驚き、ルドレウスさんが降格を上げ笑う。


「見ての通りだ、ラグーンに火山の採掘権をやったという話をしただろう? 今回の非礼も兼ねることになったがラグーンが世話になった礼だ、活用してくれ」
「だとしてもあの山脈の採掘権だぞ?! そう簡単に渡して良い代物ではないのではないか」
「ラグーンが信頼したものなのだから下らぬ事はしないだろう? この話は仕舞いだ」
「は?! 」
手に持つ羊皮紙固とルドレウスさんを交互に見て聞いたことない声を出す王様をぼーっと見ていると、僕の前にルドレウスさんが歩いてきた。

「本題を早々に済ませよう ラグーン」
目を瞬かせて見上げる僕に太陽に照らされて眩しいルドレウスさんは微笑み、手を差し出した。


「特別な事は何もない、この手を取れ」
「……へ?」
「其方はこれより我が国に参り、我は其方を迎えに来た、簡単な話であろう?」
「……うーん?」
「悩む必要はない、気楽な気持ちでこの手を取ればいいのだ」
「えーっと……」
朗らかに穏やかな声で言ったルドレウスさんに僕はどうすればいいのかわからず唸る。


「どうした、なぜ困惑している」
「……ちょっと、未練というかここにいたいというか」
「我が国には来たくないと?」
「そういうわけでは……」
「では何故ああ、そうだな、危ないところだった」
「?」
「目的を達成する事は簡単だが、今後につなげるためには手順を踏まねばいけない」
「?」
良く分からない事をつぶやいたルドレウスさんは手を引っ込めると腕を組み、僕の後ろを見てにやりと笑った。



「さてラグーン、追い打ちをかけるようだが、後ろを見て見るがいい」
「なんです? ……うわあ」
良く分からないままルドレウスさんに促されるまま後ろを見るとちょっと離れた所でものすごい形相でこっちを見るアルさん。


「あそこも見てみると良い、引くぞ」
「ええ? えぇ……」
今度は僕の右隣を促され見ればニコニコして腕組んでるアイデンさんがいた、5歩くらい先で。


「なにあれえ……」
「可笑しな顔をしているがあれはラグーンではなく我に向けての殺意だ、安心すると良い」
「……上手く返せる言葉が見つからないです」
「はっはっは! よい! 我も正直引いている」
朗らかに笑うルドレウスさんには悪いけどこれは……、微妙な気持ちだ。



待ってアルさん達ちょっと近くなってない?



「くくっ、少しばかり我が部下を休ませるが故、その間そこの男たちと語らってくるといい」
「それは……、どういう?」
「いらぬいざこざを生まないための措置だ、別れの挨拶程度はしてくるといい」
「聞き捨てならないな」
「わっ、アイデンさん?」
たった少しの間で気配も無くすぐ真横に移動したアイデンさんが笑顔を引っ込め、無表情でルドレウスさんをにらんでいる。




「貴殿はいったい何を言っているのか全く理解できないな、 別れ? さもこの場が最後だと言わんばかりの物言いだな? 俺と、ラグーンがもう2度と会わないと言いたいか?」
「? だったらどうした」
「そういうつもりな今ここでラグーンを連れ去り貴殿の手の届かぬ場に行くことも辞さないと思うが、お前はどう思う?」
「決まってんだろ」
僕の後ろに向けて声をかけると、後ろからアルさんの不機嫌な声が帰ってきた。


「アイデンだけが連れてく点は論外だがな、ラグを俺から離そうとするなら……攫うだろ」
「だよな、という事でラグーン、龍王の誘いを無視してこの国に留まることを提案する」
「やだ……普通に困る」
「はあぁ……、聞くに絶えんな、何なのだ貴様たちは、ラグーンのためにと大義名分を掲げ、やろうとする事は己のためとは性質が悪いな」
意気投合するアルさんとアイデンさんが頷き合う姿におろおろとする僕を見て、ルドレウスさんは長いため息をついた。


「そんな自分勝手な輩に我が弟を任せられる訳が無かろう馬鹿たれ! 」
「ああ? 」
「親交を深めるにしても関係を断つにしても一度貴様らとラグーンは距離をとる必要がある! そうだな。とりあえず1000キロは取るべきだな」
「はあ?」
「何を言っているのか全く理解できないな?」
「そういう所だと思うが……、まあ、今後は弟と会わせなければよいか」
「「ああ””?」」
みんなの言ってる事のスケールが大きすぎて困惑しかできない自分を客観的に見て平静を保って、さてどうしようじゃ。


「さあ、別れの挨拶はと思ったがこ奴らの阿呆な考えに付き合ってると時間が足りなくなるの、行こうラグーン」
「え、あ、うわあ……」
「……行くのか?」
「できれば留まってほしいな、俺は」
手を取れと伸ばすルドレウスさん、鬼みたいな顔で見るアルさん、笑顔が怖いアイデンさん。


なにをしても地獄になりそうなこの修羅場に、一人の救世主が現れた。


「ほらほらほら、じめじめとくだらない問題起こしていないで、男らしく挨拶を済ませなさいな、ラグーン君に嫌われますよ?」
「げ」
「……ふん」
凍えるような笑顔を貼り付けて、圧がすごい大人二人の前にミネルスさんが躍り出て二人の圧を中和してくれた。


「……あのポンクラ共に何か言う事はあるか?」
「へ? あ、ああ……」
「こいつらの事なら大丈夫ですので、サクッと言っちゃってください」
「え、……て、手紙書くね!!」
「な、マジで行くのかよ?!」
「……行くのか」
あ、なんかすごい申し訳ない気持ちに。

「花嫁修業にでも行くと考えなさいな、おとなしくしていればまたきっと会えますから」
「結婚は認めんぞ」
さよならは悲しいし、またねもなんか軽い気がする出した答え、もとい言葉にアルさん達の表情は瞬時に凍ってミネルスさんが仲裁して、ようやく終わりそうな雰囲気がする。


「そろそろ行こうか」
「あ、おいごらあ!」
アルさん達を見る僕の手を、ルドレウスさんが優しく手に取り、もう片方の腕を僕の肩に置いて、龍車の方へと促される。

一歩一歩龍車に近づき、後ろからアルさんの怒鳴り声が耳に響く。

「……」
僕、このまま流されててもいいのだろうか。

胸でもやもやと燻る違和感がとてもとても、とても気持ち悪い。


「おや、どうした」
「うひゃっ」
「おおすまん、敏感なんだな」
耳元に直接声をかけられ少し飛び上がる。

反射で振り返りルドレウスさんを睨めば苦笑いをされてしまう

「すまんすまん許してくれわざとではないのだ、だがひとつだけ言わせてくれ……我は其方を苦しめたい訳ではない」
「へ?」
「さあ自慢の龍車に乗るがいい、我自らが存分にもてなしてやろう」
言葉の意味を考える前に、背中を優しく叩かれ開いた龍車に乗せられた。

扉が閉まり、ルドレウスさんと二人きりの中、窓から遠くなったアルさんを覗いてみるとなんとこっちを泣きそうな顔をしていた……気がする。











★★★
読んでいただきありがとうございます!

こちらの生産チートの作品、かなり長くなってしまったので二部が書き上がりましたら一段落ついたとして完結とさせて頂きます( ゚∀゚)

目処がつきましたら別作品扱いで三部を書きたいと思うのでのんびりとお待ちくださいませ



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい

夜乃すてら
BL
 一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。  しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。  病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。  二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?  ※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。  ※主人公が受けです。   元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。  ※猫獣人がひどい目にもあいません。 (※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)  ※試し置きなので、急に消したらすみません。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

処理中です...