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九章 亀裂
黒い感情は薄めて
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「フー……」
重い空気の中深く溜め息をつきた。
「アリムさん椅子をお願いします」
「はいこちらに! どうぞそのままお座りください!」
「ありが……ん?」
お願いひとつで全部やってくれる有能アリムさん、持つべきものはやっぱ部……んん? うちの椅子こんなカチカチだっけか……。
気を引き締めた手前申し訳ないが、下を見た僕は自然と目が据わる。
「……アリムさん」
「はい! なんなりとご用命を! 」
元気よく首をあげるアリムさんはというと、床に膝をつき何故か四つん這いになっていらっしゃる。
「僕は椅子を持ってきて欲しかったんです」
「存じております! ですからこうして私めが椅子に……!」
「……そうですか」
まぁいいやこのままで。
だれが部下に椅子になってとお願いしたよというツッコミは言葉は飲み込んどこ。
「言葉挟むの諦めたな……」
「アルさんはもう少しまっててね」
「おう……」
馬の体制になったアリムさんに座った僕、ソファーで微妙な表情で肘をつくアルさん。
「ふむ、これはいったいなんだろうか」
そして最後に、床に正座している魔王様ことダルーダさん。
「さてダルーダさん、本題に入りたいと思いますが、宜しいですね?」
アリムさんの腰の上、足を組んだ僕はダルーダさんに向け目を細める。
「………いいとも」
アルさんとはまた違った方向の厳つさを持つダルーダさんはハリのある声と引き換えに青ざめた顔で僕を見た。
「先に僕の現状を先に言いますが、とても荒れてます」
「そうだな」
「とってもとっても荒れてます」
「とってもか」
「言い方が可愛い」
「アルさん黙って」
「おおう……こえーな」
言い方が子供くさいか、見直そう。
「その、正直言えばどう文句を言おうかはっきりとは決まってはないんですけど、とりあえずダルーダさんはそのままでいてね」
「分かった……が、ラグーン」
「何でしょう」
「謝りたいことがあるんだが、先に言ってしまってもいいか」
「どうぞ」
洋風の軍服が正座しながらキリッとするのすごいシュール……いや、余計なこと考えないで自分。
「礼を言う……では、許可なく記憶を覗き視てその上心を揺らがせてしまった事はやり過ぎたと思う、すまなかった……」
眉間にシワを寄せダルーダさんは勢いよく頭を下げた。
「暫く根に持ちます」
良いよ許すよとここは建前でも言う流れなんだろうけど、今の僕はイライラしてるのだ、これくらいはする。
「感謝する」
「そうですか…… 感謝?」
ゆっくりと上げたその顔は予想とは違い頬を染め口角をあげていた。
「根に持つということはつまり思考の片隅に常に俺が存在し続けるということだな、素晴らしい」
「え」
固まる僕に世間話をするようにダルーダさんは続けた。
「どんな形であれ好いた者が俺の事を考えていると思えば嬉しいだろう? なあ蛮族」
なぜここでアルさんに話をふるの。
「半分は理解できる」
「だろう?」
おいこら。
だろうってどや顔ですか……いやなに意思疏通成功してんのあんた達。
「んなことより好いた奴には良いとこだけ見せて甘やかすのが一番じゃねえか?」
「あぁ確かにそれも格別だが憐れむような目で引いた言葉や純粋な罵倒を受けるのもまた一興だぞ?」
「……ありだな」
顎に手を当てるアルさんと微笑むダルーダさん。
何言ってるんだこの人たち……本筋に戻そう
「理解できない話題はまた今度にしてもう少し僕について話させてくれます?」
「あぁそうだな……すまない」
半目を開け視線を交わす二人を睨めば、慌てたようにダルーダさんは居ずまいを正した。
「……そうですね」
自分から仕切っておいてなんだが特別ダルーダさんに向けた明確な怒りは正直無い、しいて上げるなら……。
「今僕は珍しくイラついてます、自分でもビックリするくらい」
「俺のせいだな」
眉を下げるダルーダさんにゆっくり頷く
「そうです、でも実際何に対してイラついているのか明確には分かってなくて、不完全燃焼なもやもやを解消するためとりあえず当て付けでダルーダさんに正座して貰ってる訳ですが……うーん」
「これでは足りないか、よし、次は何をすれば良い? ラグーン手ずからならば大抵の事は喜んで受けよう」
「そうですね………て違う、そう言うわけではなく……あの、八つ当たりを軽く受け入れないで貰えます? 」
よしじゃなくて!胸張って凛々しく言う事ではないだろう。
「なぜだ、嬉しいだろう」
「嬉しくないです……どうしようかこれ」
頬を緩ませるダルーダさんに自然と溜め息が漏れる。
また本題が逸れた……何を言おうか悩んでたのにこれじゃダメじゃないか、しっかりしろ僕。
「怒られる側から言うのは何だが、その……あまり 気を負いすぎるなよ?」
「そういう訳じゃないんです……そうですね」
僕は今何故こんなもやもやしてるのか、何故言葉が出ないのか、目の前に人がいるけどちょっと自問自答を……。
「多分、不安なんだと思います」
「歯切れ悪いな」
自分は何を恐れてる? 何をそんなに怖がってる?
「何にとは具体的にこれだって言える言葉は見つかってないんですけど……ただ怖くてとにかく、不安なんです」
胸がざわつく感覚、からだがむず痒く感じる、頭の裏から何か、焦るような何かしてしまったかのような後悔に似た何かが重く居座っている。
「……それも、俺のせいか?」
「半分は……そうです」
「半分は?」
「半分はダルーダさんですけど残りの半分は元からというかここに来てからずっと、ずっと感じていたもの現実と向き合わず逃げていたツケが来たような感じ……? です」
驚いた表情で顔をあげるダルーダさんに僕はもう一度溜め息を吐いた。
「アルさん」
「おうよ」
「僕とダルーダさんの会話はどのくらい聞いてます? 」
腕を組み話を聞いていたアルさんに問う。
途中から相槌変わっていたのは分かるけどそこからはわからん。
「ラグが異世界の人間って所までだな」
「そうですか」
弁明とかごまかしの方向は無し、と。
「なあラグ」
「はい」
「そんな大事な事を……なんで黙ってた」
思わず敬語になってしまった僕に顔をしかめたアルさんは太い眉を下げる。
「なんで、と」
「口調が固くなってる、戻せ」
「はい………異世界とかそんなおとぎ話言っても仕方ないかなぁ、て」
異世界、勇者、 魔物、物語やゲームだけのおとぎ話もこちらでは普通と捉える、ならば僕の元いた世界も逆説的にそうなるだろう。
「仕方ない……だと?」
「仕方ないでしょ?」
「……チッ」
低くなった声に作り笑いを浮かべ誤魔化せばアルさんは僕を見る目を鋭くする。
「だって……言ったらアルさんはどんな反応をするのかを考えて悩むより言わずに黙って誤魔化していた方が良いもの」
「……へぇ」
まぁでもこれは結局……。
「逃げてるだけってのは分かってる、けどアルさんに嫌われたり仲良くなってた王様やアイデンさんに嫌われるなんて事を想像したら……何もできなくて怖くて、たまにそんな想像がフラッシュバックして…?正直誤魔化すのも限界だった」
「……だろうな」
吐き出すように言うとダルーダさんは気遣うような目で僕を見る。
「は?」
「少しラグーンの中を覗いたが並みの者を凌駕する屈折しきった俺好みの心になっていたぞ」
えぇ……いまいち理解できない。
「……やっぱ消すかこいつ」
「すまんが……時間だな、動くぞ」
「へ?」
訝しげに聞くアルさんに笑顔で答えたダルーダさんは正座を辞めゆっくりと立ち上がった。
アリムさんに未だ座ったままの僕が目を丸くして見ているとダルーダさんは目元を和らげ手を広げると暖かく笑った。
「愛しいラグーンよ、お前の事情は分かった、形のないものに恐怖し苦しんでいる事も、なぁ蛮族」
「おうとも、まだ納得はしてねえがな」
「それは俺も同じだ、そもそもなんだ貴様は、思考の7割ラグーンの事じゃないか気持ち悪い……」
「どの口が言ってんだおい」
呆れた顔のアルさんにダルーダさんは更に胸を張る。
「世界一ラグーンを愛している者の口だが? ふふん、このダルーダ、愛する者のため道化となろう」
「……何いってんだこいつ」
「どうとでもいえ……涙を流す暇など与えるものか、俺は我儘だが待つことが出来る男だ、例え既に先約がいようとお前の心の準備ができるまで待つとも」
「え」
アルさんの冷ややかな視線を気にも止めずダルーダさんは僕にウインクをするとあっという間に僕との距離を詰め顔を近づける。
「目を瞑れ」
「へ、ん?」
「オイ!!」
唇にかさついたものが当てられたかと思えばアルさんのキツイ声がする。
「え、なに? ……キス?」
「おうとも、初めはこれくらいが良いだろうサ、ではなラグーン、また会いに来る! 」
視界いっぱいに広がる満足げなダルーダさんの顔、呆けて固まっていれば頬を撫でられ次の瞬間、瞬きひとつでいなくなった。
「消えた……」
「……なんだあいつ」
残ったのは呆気に取られたアリムさんの腰に座る僕と溜め息をつくアルさん。
「おいラグ、俺が言うのも何だが……人は選べよ」
「だね」
ほんとそうだね。
「それとだ」
「ん?」
「ほれ」
おもむろにソファーから立ち上がるアルさん、思考を放棄してじっと見ていれば、ダルーダさん同様僕の目の前に歩いてくると僕の脇腹に骨ばった手を差し込み軽く持ち上げられる。
「おぉ、ん?」
「何キョトンとしてんだ、いつまでも鎧なんかに座ってんじゃねえよ」
少し不満そうに言ったアルさんは持ち上げた僕を引き寄せきつく抱き締められる。
「……そだね」
「な? 」
「うん……あのさ」
「ん? 」
「……背中、叩かないでくれる?」
今あやされる感じで叩かれると……弱いんだよなぁ。
アルさんの肩に顎をのせ抗議を言ってはみたけどこの人の事だから返答は。
「断る」
だよねぇ……。
はぁ…………甘やかされてるなぁ。
「……泣きたい」
「よし、泣け」
「簡単にできたらやってる」
泣きわめきたいし大声だしたい、けどそれ以上にそんな事をする自分が嫌だから……できない。
そんな僕を察してるのか察してないのか、僕を抱き込んだままソファーに座ったアルさんはかさついた指で僕の耳をいじる。
「んじゃ何も考えず目瞑ってろ」
「うん……」
「あー、ラグ?」
「なに」
「その、だな……別に俺は怒ってないからな? お前がどんな奴でも何があっても、俺のこのラグに対する気持ちは変わらねえ……愛してるぜ」
「……ありがと、背中叩かないで」
「ことわる」
「ちぇ」
意地悪く笑うアルさんになす統べなく、僕はあやされ、撫でられる。
諦めて力を抜けば腰や肩に回るアルさんの腕の力が強くなった。
「ふふん、可愛いじゃねえか」
あぁもう全くこの人はもう。
……好きだなぁ。
この際変な抵抗は無しにして……甘えるか。
★★★
読んで頂きありがとうございます!
九章、終わりでございます。
重い空気の中深く溜め息をつきた。
「アリムさん椅子をお願いします」
「はいこちらに! どうぞそのままお座りください!」
「ありが……ん?」
お願いひとつで全部やってくれる有能アリムさん、持つべきものはやっぱ部……んん? うちの椅子こんなカチカチだっけか……。
気を引き締めた手前申し訳ないが、下を見た僕は自然と目が据わる。
「……アリムさん」
「はい! なんなりとご用命を! 」
元気よく首をあげるアリムさんはというと、床に膝をつき何故か四つん這いになっていらっしゃる。
「僕は椅子を持ってきて欲しかったんです」
「存じております! ですからこうして私めが椅子に……!」
「……そうですか」
まぁいいやこのままで。
だれが部下に椅子になってとお願いしたよというツッコミは言葉は飲み込んどこ。
「言葉挟むの諦めたな……」
「アルさんはもう少しまっててね」
「おう……」
馬の体制になったアリムさんに座った僕、ソファーで微妙な表情で肘をつくアルさん。
「ふむ、これはいったいなんだろうか」
そして最後に、床に正座している魔王様ことダルーダさん。
「さてダルーダさん、本題に入りたいと思いますが、宜しいですね?」
アリムさんの腰の上、足を組んだ僕はダルーダさんに向け目を細める。
「………いいとも」
アルさんとはまた違った方向の厳つさを持つダルーダさんはハリのある声と引き換えに青ざめた顔で僕を見た。
「先に僕の現状を先に言いますが、とても荒れてます」
「そうだな」
「とってもとっても荒れてます」
「とってもか」
「言い方が可愛い」
「アルさん黙って」
「おおう……こえーな」
言い方が子供くさいか、見直そう。
「その、正直言えばどう文句を言おうかはっきりとは決まってはないんですけど、とりあえずダルーダさんはそのままでいてね」
「分かった……が、ラグーン」
「何でしょう」
「謝りたいことがあるんだが、先に言ってしまってもいいか」
「どうぞ」
洋風の軍服が正座しながらキリッとするのすごいシュール……いや、余計なこと考えないで自分。
「礼を言う……では、許可なく記憶を覗き視てその上心を揺らがせてしまった事はやり過ぎたと思う、すまなかった……」
眉間にシワを寄せダルーダさんは勢いよく頭を下げた。
「暫く根に持ちます」
良いよ許すよとここは建前でも言う流れなんだろうけど、今の僕はイライラしてるのだ、これくらいはする。
「感謝する」
「そうですか…… 感謝?」
ゆっくりと上げたその顔は予想とは違い頬を染め口角をあげていた。
「根に持つということはつまり思考の片隅に常に俺が存在し続けるということだな、素晴らしい」
「え」
固まる僕に世間話をするようにダルーダさんは続けた。
「どんな形であれ好いた者が俺の事を考えていると思えば嬉しいだろう? なあ蛮族」
なぜここでアルさんに話をふるの。
「半分は理解できる」
「だろう?」
おいこら。
だろうってどや顔ですか……いやなに意思疏通成功してんのあんた達。
「んなことより好いた奴には良いとこだけ見せて甘やかすのが一番じゃねえか?」
「あぁ確かにそれも格別だが憐れむような目で引いた言葉や純粋な罵倒を受けるのもまた一興だぞ?」
「……ありだな」
顎に手を当てるアルさんと微笑むダルーダさん。
何言ってるんだこの人たち……本筋に戻そう
「理解できない話題はまた今度にしてもう少し僕について話させてくれます?」
「あぁそうだな……すまない」
半目を開け視線を交わす二人を睨めば、慌てたようにダルーダさんは居ずまいを正した。
「……そうですね」
自分から仕切っておいてなんだが特別ダルーダさんに向けた明確な怒りは正直無い、しいて上げるなら……。
「今僕は珍しくイラついてます、自分でもビックリするくらい」
「俺のせいだな」
眉を下げるダルーダさんにゆっくり頷く
「そうです、でも実際何に対してイラついているのか明確には分かってなくて、不完全燃焼なもやもやを解消するためとりあえず当て付けでダルーダさんに正座して貰ってる訳ですが……うーん」
「これでは足りないか、よし、次は何をすれば良い? ラグーン手ずからならば大抵の事は喜んで受けよう」
「そうですね………て違う、そう言うわけではなく……あの、八つ当たりを軽く受け入れないで貰えます? 」
よしじゃなくて!胸張って凛々しく言う事ではないだろう。
「なぜだ、嬉しいだろう」
「嬉しくないです……どうしようかこれ」
頬を緩ませるダルーダさんに自然と溜め息が漏れる。
また本題が逸れた……何を言おうか悩んでたのにこれじゃダメじゃないか、しっかりしろ僕。
「怒られる側から言うのは何だが、その……あまり 気を負いすぎるなよ?」
「そういう訳じゃないんです……そうですね」
僕は今何故こんなもやもやしてるのか、何故言葉が出ないのか、目の前に人がいるけどちょっと自問自答を……。
「多分、不安なんだと思います」
「歯切れ悪いな」
自分は何を恐れてる? 何をそんなに怖がってる?
「何にとは具体的にこれだって言える言葉は見つかってないんですけど……ただ怖くてとにかく、不安なんです」
胸がざわつく感覚、からだがむず痒く感じる、頭の裏から何か、焦るような何かしてしまったかのような後悔に似た何かが重く居座っている。
「……それも、俺のせいか?」
「半分は……そうです」
「半分は?」
「半分はダルーダさんですけど残りの半分は元からというかここに来てからずっと、ずっと感じていたもの現実と向き合わず逃げていたツケが来たような感じ……? です」
驚いた表情で顔をあげるダルーダさんに僕はもう一度溜め息を吐いた。
「アルさん」
「おうよ」
「僕とダルーダさんの会話はどのくらい聞いてます? 」
腕を組み話を聞いていたアルさんに問う。
途中から相槌変わっていたのは分かるけどそこからはわからん。
「ラグが異世界の人間って所までだな」
「そうですか」
弁明とかごまかしの方向は無し、と。
「なあラグ」
「はい」
「そんな大事な事を……なんで黙ってた」
思わず敬語になってしまった僕に顔をしかめたアルさんは太い眉を下げる。
「なんで、と」
「口調が固くなってる、戻せ」
「はい………異世界とかそんなおとぎ話言っても仕方ないかなぁ、て」
異世界、勇者、 魔物、物語やゲームだけのおとぎ話もこちらでは普通と捉える、ならば僕の元いた世界も逆説的にそうなるだろう。
「仕方ない……だと?」
「仕方ないでしょ?」
「……チッ」
低くなった声に作り笑いを浮かべ誤魔化せばアルさんは僕を見る目を鋭くする。
「だって……言ったらアルさんはどんな反応をするのかを考えて悩むより言わずに黙って誤魔化していた方が良いもの」
「……へぇ」
まぁでもこれは結局……。
「逃げてるだけってのは分かってる、けどアルさんに嫌われたり仲良くなってた王様やアイデンさんに嫌われるなんて事を想像したら……何もできなくて怖くて、たまにそんな想像がフラッシュバックして…?正直誤魔化すのも限界だった」
「……だろうな」
吐き出すように言うとダルーダさんは気遣うような目で僕を見る。
「は?」
「少しラグーンの中を覗いたが並みの者を凌駕する屈折しきった俺好みの心になっていたぞ」
えぇ……いまいち理解できない。
「……やっぱ消すかこいつ」
「すまんが……時間だな、動くぞ」
「へ?」
訝しげに聞くアルさんに笑顔で答えたダルーダさんは正座を辞めゆっくりと立ち上がった。
アリムさんに未だ座ったままの僕が目を丸くして見ているとダルーダさんは目元を和らげ手を広げると暖かく笑った。
「愛しいラグーンよ、お前の事情は分かった、形のないものに恐怖し苦しんでいる事も、なぁ蛮族」
「おうとも、まだ納得はしてねえがな」
「それは俺も同じだ、そもそもなんだ貴様は、思考の7割ラグーンの事じゃないか気持ち悪い……」
「どの口が言ってんだおい」
呆れた顔のアルさんにダルーダさんは更に胸を張る。
「世界一ラグーンを愛している者の口だが? ふふん、このダルーダ、愛する者のため道化となろう」
「……何いってんだこいつ」
「どうとでもいえ……涙を流す暇など与えるものか、俺は我儘だが待つことが出来る男だ、例え既に先約がいようとお前の心の準備ができるまで待つとも」
「え」
アルさんの冷ややかな視線を気にも止めずダルーダさんは僕にウインクをするとあっという間に僕との距離を詰め顔を近づける。
「目を瞑れ」
「へ、ん?」
「オイ!!」
唇にかさついたものが当てられたかと思えばアルさんのキツイ声がする。
「え、なに? ……キス?」
「おうとも、初めはこれくらいが良いだろうサ、ではなラグーン、また会いに来る! 」
視界いっぱいに広がる満足げなダルーダさんの顔、呆けて固まっていれば頬を撫でられ次の瞬間、瞬きひとつでいなくなった。
「消えた……」
「……なんだあいつ」
残ったのは呆気に取られたアリムさんの腰に座る僕と溜め息をつくアルさん。
「おいラグ、俺が言うのも何だが……人は選べよ」
「だね」
ほんとそうだね。
「それとだ」
「ん?」
「ほれ」
おもむろにソファーから立ち上がるアルさん、思考を放棄してじっと見ていれば、ダルーダさん同様僕の目の前に歩いてくると僕の脇腹に骨ばった手を差し込み軽く持ち上げられる。
「おぉ、ん?」
「何キョトンとしてんだ、いつまでも鎧なんかに座ってんじゃねえよ」
少し不満そうに言ったアルさんは持ち上げた僕を引き寄せきつく抱き締められる。
「……そだね」
「な? 」
「うん……あのさ」
「ん? 」
「……背中、叩かないでくれる?」
今あやされる感じで叩かれると……弱いんだよなぁ。
アルさんの肩に顎をのせ抗議を言ってはみたけどこの人の事だから返答は。
「断る」
だよねぇ……。
はぁ…………甘やかされてるなぁ。
「……泣きたい」
「よし、泣け」
「簡単にできたらやってる」
泣きわめきたいし大声だしたい、けどそれ以上にそんな事をする自分が嫌だから……できない。
そんな僕を察してるのか察してないのか、僕を抱き込んだままソファーに座ったアルさんはかさついた指で僕の耳をいじる。
「んじゃ何も考えず目瞑ってろ」
「うん……」
「あー、ラグ?」
「なに」
「その、だな……別に俺は怒ってないからな? お前がどんな奴でも何があっても、俺のこのラグに対する気持ちは変わらねえ……愛してるぜ」
「……ありがと、背中叩かないで」
「ことわる」
「ちぇ」
意地悪く笑うアルさんになす統べなく、僕はあやされ、撫でられる。
諦めて力を抜けば腰や肩に回るアルさんの腕の力が強くなった。
「ふふん、可愛いじゃねえか」
あぁもう全くこの人はもう。
……好きだなぁ。
この際変な抵抗は無しにして……甘えるか。
★★★
読んで頂きありがとうございます!
九章、終わりでございます。
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