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八章 ほころび

※イウァンの思い

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人は不死を望む、永遠の若さ、完璧さを求める物だ。




だが、不老とは、完璧と称されるこれは、とてもではないが、良いものではない。

1年、10年100年、目の前の問題に相対し続け気がつけば700年。



途方もない時を、常人ではあり得ない時を過ごし、数えきれない壁を壊し、新たな友を作り、小さな楽しみを見つけ、ささやかな趣味を作り、笑い合い、酒を交わし、肩を組んだ時間はかけがえのないものだ。

だが、夜、夢に見る友の姿はもう土の下。



愛していた妻も、歴戦の戦士も、名を馳せた英雄も才に秀でた者も、気さくな者も心優しい者厳しい者弱い者強い者全て、皆、老いて逝く。


いかに仲を深めても、いかに拳を交え、いかに有意義な議論を交わせようとも、時間とは、寿命とは、とても残酷な者だ。


この者ならば、これほどの才を持つものならば、もしや、と期待をしても、彼らは平等に時を進んでいく。


彼ら彼女らの顔に一つ、また二つとシワが増えていくごとに、子が増え、孫が増え、その先その先と、臣下の面影の見える者達の増える様子に感心を超え、絶句した。



何故、自分達は歳を取らない、何故自分達は全盛期の若さを保ってい、なぜ、なぜ、なぜ……。


王としての傍ら、ひたすら鏡に写る自分に問いかけ、ひたすら頭のなかで考え、なぜ自分はこのような体になったのかと。

純血のエルフであるナパスや、共に年月を過ごしたアルギスやミネルスにも相談したが、より良い解決策など出るはずもない。



悩み、悩み悔いた時期も200年も前のこと。

もはや悟りに近い、諦めに近い。


簡単だ、必要以上に関わらなければいい、自らの子孫を守るために国王を続け、後引かない愛情を注いだ。


人間はとても適応しやすい、だから慣れた。



それでも、60年自分の傍にいた執事にたいして、心からの言葉を送るのは当然の事だ。










※※※

友人からは良く何かに集中している僕は話しかけづらいと言われる。




一度スイッチがすれば後は時間を忘れ作業するのみ。



目線を手元に固定して限界一歩手前のスピードを出し続ける事にのみ思考を動かす。


執事さんに教えて貰ったままに無心に、夢中に、書類の仕分けをしていると、ふいに王様たちの会話が耳に入ってきた。



「良い動きをするじゃあないか」

「えぇ、見習いの文官達も見習ってほしいものでございますな、私の跡につく予定の者には特に」

感心したような二人の声にちょっと照れ臭い、僕はおだてられるのに弱いんだからやめてやめて。


「そういえば………お前も歳だったな」

ん?

「ええ、今年で82、流石に体が厳しくなって来ました」

「俺としてはもう少しはと思っていたが……残念だ」

「申し訳ありません」

一旦作業の手を止め顔を上げれば執事さんが王様に頭を下げている所だった。

すると王様は残念そうに笑みを浮かべる。


「いや、いいんだ、今まで数十年、俺の補助を完璧にやってもらい、今は跡継ぎも育ててくれているんだ、さぁ、頭をあげてくれ」

「滅相もございません、来年には退職する身ではありますが誠心誠意、陛下にお仕えする所存であります」

顔をあげまっすくと王様を見る執事さん、王様は目をきつく閉じ、そしてゆっくりと、目を開け微笑んだ。


「あぁ、ありがとう」


重苦しいながらも少し切ない雰囲気。




いや、あの……人が真剣にやってる横で重い話辞めてもらえます?

喉からでかかったその言葉をすぐに飲み込む。


この二人の空間を壊す勇気は僕にはない……。

……作業に戻るか………あ。



「王様、ここ何もサインされてないよ」

「あ、あぁすまん、見せてくれ」

「あいよ」

王様おろおろしてるけど仕事に関しては別だね。



イッツ、シリアスブレイカー。



「それで王様あと30分で6時だけど仕事どーすんの? 」

「ん? あぁもうそんな時間か、ならもう切り上げてしまってもいいだろう、なあイム 」

「それがよろしいかと、勝手ながら陛下、明日のスケジュールを調整しまして、明日は1日ごゆるりと過ごせるようにしました」

「それは本当か!? よっしゃあ休み!! 」

「王様口調」

「ん? あぁすまん今のが素だ」

「左様で」

僕が手伝いすると言った以上にうきうきしだした王様に僕はため息をつく。


「……どうした? 」

「単純に疲れただけですよ」

「そうか……あぁそうだ! 」

何か閃いたと凄い良い笑顔を浮かべた王様に僕は嫌な予感がした。


「明日一緒に遊びに行こう!! 」

ほらやっぱり……。


「え「おらイウァンラグを返せ!! 」」

きらきらとした目をする王様に何か返そうと口を開けば今度は部屋の扉が勢いよく開く。



「なんだよアルギス、今良いとこなんだぞ」

「ぜんっぜん良くねえ!! 」

不機嫌マックスで入ってきたアルさんに王様は口を尖らせるが、次の瞬間何故か僕の視界が高くなる。


「あ、おい今ラグーンと大事な話してたんだぞアルギス」

「んなもん知ったこっちゃねぇ、ラグの成分が足りねえんだ俺は」

なに僕の成分て、て、ちょいちょいなんで早速部屋出ようとしてるの。

ナチュラルに抱き上げられた僕はすたすたと部屋の扉へと近づいていく。



「ちっ、じゃあラグーンまた明日な~! 」

扉が閉まる直前手を振る執事さんにこっそりと手を振り替えしておいた。












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