124 / 182
八章 ほころび
※イウァンの思い
しおりを挟む
人は不死を望む、永遠の若さ、完璧さを求める物だ。
だが、不老とは、完璧と称されるこれは、とてもではないが、良いものではない。
1年、10年100年、目の前の問題に相対し続け気がつけば700年。
途方もない時を、常人ではあり得ない時を過ごし、数えきれない壁を壊し、新たな友を作り、小さな楽しみを見つけ、ささやかな趣味を作り、笑い合い、酒を交わし、肩を組んだ時間はかけがえのないものだ。
だが、夜、夢に見る友の姿はもう土の下。
愛していた妻も、歴戦の戦士も、名を馳せた英雄も才に秀でた者も、気さくな者も心優しい者厳しい者弱い者強い者全て、皆、老いて逝く。
いかに仲を深めても、いかに拳を交え、いかに有意義な議論を交わせようとも、時間とは、寿命とは、とても残酷な者だ。
この者ならば、これほどの才を持つものならば、もしや、と期待をしても、彼らは平等に時を進んでいく。
彼ら彼女らの顔に一つ、また二つとシワが増えていくごとに、子が増え、孫が増え、その先その先と、臣下の面影の見える者達の増える様子に感心を超え、絶句した。
何故、自分達は歳を取らない、何故自分達は全盛期の若さを保ってい、なぜ、なぜ、なぜ……。
王としての傍ら、ひたすら鏡に写る自分に問いかけ、ひたすら頭のなかで考え、なぜ自分はこのような体になったのかと。
純血のエルフであるナパスや、共に年月を過ごしたアルギスやミネルスにも相談したが、より良い解決策など出るはずもない。
悩み、悩み悔いた時期も200年も前のこと。
もはや悟りに近い、諦めに近い。
簡単だ、必要以上に関わらなければいい、自らの子孫を守るために国王を続け、後引かない愛情を注いだ。
人間はとても適応しやすい、だから慣れた。
それでも、60年自分の傍にいた執事にたいして、心からの言葉を送るのは当然の事だ。
※※※
友人からは良く何かに集中している僕は話しかけづらいと言われる。
一度スイッチがすれば後は時間を忘れ作業するのみ。
目線を手元に固定して限界一歩手前のスピードを出し続ける事にのみ思考を動かす。
執事さんに教えて貰ったままに無心に、夢中に、書類の仕分けをしていると、ふいに王様たちの会話が耳に入ってきた。
「良い動きをするじゃあないか」
「えぇ、見習いの文官達も見習ってほしいものでございますな、私の跡につく予定の者には特に」
感心したような二人の声にちょっと照れ臭い、僕はおだてられるのに弱いんだからやめてやめて。
「そういえば………お前も歳だったな」
ん?
「ええ、今年で82、流石に体が厳しくなって来ました」
「俺としてはもう少しはと思っていたが……残念だ」
「申し訳ありません」
一旦作業の手を止め顔を上げれば執事さんが王様に頭を下げている所だった。
すると王様は残念そうに笑みを浮かべる。
「いや、いいんだ、今まで数十年、俺の補助を完璧にやってもらい、今は跡継ぎも育ててくれているんだ、さぁ、頭をあげてくれ」
「滅相もございません、来年には退職する身ではありますが誠心誠意、陛下にお仕えする所存であります」
顔をあげまっすくと王様を見る執事さん、王様は目をきつく閉じ、そしてゆっくりと、目を開け微笑んだ。
「あぁ、ありがとう」
重苦しいながらも少し切ない雰囲気。
いや、あの……人が真剣にやってる横で重い話辞めてもらえます?
喉からでかかったその言葉をすぐに飲み込む。
この二人の空間を壊す勇気は僕にはない……。
……作業に戻るか………あ。
「王様、ここ何もサインされてないよ」
「あ、あぁすまん、見せてくれ」
「あいよ」
王様おろおろしてるけど仕事に関しては別だね。
イッツ、シリアスブレイカー。
「それで王様あと30分で6時だけど仕事どーすんの? 」
「ん? あぁもうそんな時間か、ならもう切り上げてしまってもいいだろう、なあイム 」
「それがよろしいかと、勝手ながら陛下、明日のスケジュールを調整しまして、明日は1日ごゆるりと過ごせるようにしました」
「それは本当か!? よっしゃあ休み!! 」
「王様口調」
「ん? あぁすまん今のが素だ」
「左様で」
僕が手伝いすると言った以上にうきうきしだした王様に僕はため息をつく。
「……どうした? 」
「単純に疲れただけですよ」
「そうか……あぁそうだ! 」
何か閃いたと凄い良い笑顔を浮かべた王様に僕は嫌な予感がした。
「明日一緒に遊びに行こう!! 」
ほらやっぱり……。
「え「おらイウァンラグを返せ!! 」」
きらきらとした目をする王様に何か返そうと口を開けば今度は部屋の扉が勢いよく開く。
「なんだよアルギス、今良いとこなんだぞ」
「ぜんっぜん良くねえ!! 」
不機嫌マックスで入ってきたアルさんに王様は口を尖らせるが、次の瞬間何故か僕の視界が高くなる。
「あ、おい今ラグーンと大事な話してたんだぞアルギス」
「んなもん知ったこっちゃねぇ、ラグの成分が足りねえんだ俺は」
なに僕の成分て、て、ちょいちょいなんで早速部屋出ようとしてるの。
ナチュラルに抱き上げられた僕はすたすたと部屋の扉へと近づいていく。
「ちっ、じゃあラグーンまた明日な~! 」
扉が閉まる直前手を振る執事さんにこっそりと手を振り替えしておいた。
だが、不老とは、完璧と称されるこれは、とてもではないが、良いものではない。
1年、10年100年、目の前の問題に相対し続け気がつけば700年。
途方もない時を、常人ではあり得ない時を過ごし、数えきれない壁を壊し、新たな友を作り、小さな楽しみを見つけ、ささやかな趣味を作り、笑い合い、酒を交わし、肩を組んだ時間はかけがえのないものだ。
だが、夜、夢に見る友の姿はもう土の下。
愛していた妻も、歴戦の戦士も、名を馳せた英雄も才に秀でた者も、気さくな者も心優しい者厳しい者弱い者強い者全て、皆、老いて逝く。
いかに仲を深めても、いかに拳を交え、いかに有意義な議論を交わせようとも、時間とは、寿命とは、とても残酷な者だ。
この者ならば、これほどの才を持つものならば、もしや、と期待をしても、彼らは平等に時を進んでいく。
彼ら彼女らの顔に一つ、また二つとシワが増えていくごとに、子が増え、孫が増え、その先その先と、臣下の面影の見える者達の増える様子に感心を超え、絶句した。
何故、自分達は歳を取らない、何故自分達は全盛期の若さを保ってい、なぜ、なぜ、なぜ……。
王としての傍ら、ひたすら鏡に写る自分に問いかけ、ひたすら頭のなかで考え、なぜ自分はこのような体になったのかと。
純血のエルフであるナパスや、共に年月を過ごしたアルギスやミネルスにも相談したが、より良い解決策など出るはずもない。
悩み、悩み悔いた時期も200年も前のこと。
もはや悟りに近い、諦めに近い。
簡単だ、必要以上に関わらなければいい、自らの子孫を守るために国王を続け、後引かない愛情を注いだ。
人間はとても適応しやすい、だから慣れた。
それでも、60年自分の傍にいた執事にたいして、心からの言葉を送るのは当然の事だ。
※※※
友人からは良く何かに集中している僕は話しかけづらいと言われる。
一度スイッチがすれば後は時間を忘れ作業するのみ。
目線を手元に固定して限界一歩手前のスピードを出し続ける事にのみ思考を動かす。
執事さんに教えて貰ったままに無心に、夢中に、書類の仕分けをしていると、ふいに王様たちの会話が耳に入ってきた。
「良い動きをするじゃあないか」
「えぇ、見習いの文官達も見習ってほしいものでございますな、私の跡につく予定の者には特に」
感心したような二人の声にちょっと照れ臭い、僕はおだてられるのに弱いんだからやめてやめて。
「そういえば………お前も歳だったな」
ん?
「ええ、今年で82、流石に体が厳しくなって来ました」
「俺としてはもう少しはと思っていたが……残念だ」
「申し訳ありません」
一旦作業の手を止め顔を上げれば執事さんが王様に頭を下げている所だった。
すると王様は残念そうに笑みを浮かべる。
「いや、いいんだ、今まで数十年、俺の補助を完璧にやってもらい、今は跡継ぎも育ててくれているんだ、さぁ、頭をあげてくれ」
「滅相もございません、来年には退職する身ではありますが誠心誠意、陛下にお仕えする所存であります」
顔をあげまっすくと王様を見る執事さん、王様は目をきつく閉じ、そしてゆっくりと、目を開け微笑んだ。
「あぁ、ありがとう」
重苦しいながらも少し切ない雰囲気。
いや、あの……人が真剣にやってる横で重い話辞めてもらえます?
喉からでかかったその言葉をすぐに飲み込む。
この二人の空間を壊す勇気は僕にはない……。
……作業に戻るか………あ。
「王様、ここ何もサインされてないよ」
「あ、あぁすまん、見せてくれ」
「あいよ」
王様おろおろしてるけど仕事に関しては別だね。
イッツ、シリアスブレイカー。
「それで王様あと30分で6時だけど仕事どーすんの? 」
「ん? あぁもうそんな時間か、ならもう切り上げてしまってもいいだろう、なあイム 」
「それがよろしいかと、勝手ながら陛下、明日のスケジュールを調整しまして、明日は1日ごゆるりと過ごせるようにしました」
「それは本当か!? よっしゃあ休み!! 」
「王様口調」
「ん? あぁすまん今のが素だ」
「左様で」
僕が手伝いすると言った以上にうきうきしだした王様に僕はため息をつく。
「……どうした? 」
「単純に疲れただけですよ」
「そうか……あぁそうだ! 」
何か閃いたと凄い良い笑顔を浮かべた王様に僕は嫌な予感がした。
「明日一緒に遊びに行こう!! 」
ほらやっぱり……。
「え「おらイウァンラグを返せ!! 」」
きらきらとした目をする王様に何か返そうと口を開けば今度は部屋の扉が勢いよく開く。
「なんだよアルギス、今良いとこなんだぞ」
「ぜんっぜん良くねえ!! 」
不機嫌マックスで入ってきたアルさんに王様は口を尖らせるが、次の瞬間何故か僕の視界が高くなる。
「あ、おい今ラグーンと大事な話してたんだぞアルギス」
「んなもん知ったこっちゃねぇ、ラグの成分が足りねえんだ俺は」
なに僕の成分て、て、ちょいちょいなんで早速部屋出ようとしてるの。
ナチュラルに抱き上げられた僕はすたすたと部屋の扉へと近づいていく。
「ちっ、じゃあラグーンまた明日な~! 」
扉が閉まる直前手を振る執事さんにこっそりと手を振り替えしておいた。
11
お気に入りに追加
1,918
あなたにおすすめの小説
使い捨ての元神子ですが、二回目はのんびり暮らしたい
夜乃すてら
BL
一度目、支倉翠は異世界人を使い捨ての電池扱いしていた国に召喚された。双子の妹と信頼していた騎士の死を聞いて激怒した翠は、命と引き換えにその国を水没させたはずだった。
しかし、日本に舞い戻ってしまう。そこでは妹は行方不明になっていた。
病院を退院した帰り、事故で再び異世界へ。
二度目の国では、親切な猫獣人夫婦のエドアとシュシュに助けられ、コフィ屋で雑用をしながら、のんびり暮らし始めるが……どうやらこの国では魔法士狩りをしているようで……?
※なんかよくわからんな…と没にしてた小説なんですが、案外いいかも…?と思って、試しにのせてみますが、続きはちゃんと考えてないので、その時の雰囲気で書く予定。
※主人公が受けです。
元々は騎士ヒーローもので考えてたけど、ちょっと迷ってるから決めないでおきます。
※猫獣人がひどい目にもあいません。
(※R指定、後から付け足すかもしれません。まだわからん。)
※試し置きなので、急に消したらすみません。
継母の心得
トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】
※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。
山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。
治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。
不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!?
前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった!
突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。
オタクの知識を使って、子育て頑張ります!!
子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です!
番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる