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四章 僕の迷宮へ

抑え込んだ蓋に 鍵を

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アルさんの呻くように言った言葉が理解が遅れ、固まる。

ごつごつと骨ばって逞しい手が僕の目元に触れ、ゆっくりと優しくなでられる。

そしてアルさんは目を細める。


「………目が充血している……泣いていたのか? 」

「………え? 」

すぐに言葉を返せなでいる僕にアルさんは更に眉間に皺をよせ怖い顔をする。


「ばばあと鎧ぶっ飛ばして下降りてみたらえらく眩しい光で奥全然見えねえからその壁壊したんだがよ………」

地味に固かったぜと言って言葉を区切ったアルさんは僕の揺れている眼差し見た。


「何でラグがそんな沈んだ顔してるんだ? 」

その率直な質問に僕は膝に置いていた手を握り直す。


「別に……大したことはないよ…………」

「大したこと事ない事で泣くほどお前涙脆かったか? 」

「………そういうときもあるよ」

「こんな時にか? 」

「…………こんな時でも」

「……………で、何があった? 」

どうしよう、言い逃れられない…………。



「アルさんに言うほどの事じゃあないよ………」

だってこんなこと言ったところで困る困らない以前に信じてもらえるかも怪しい事柄……言えた物じゃあない。


「関係ねえ、言え」

目が、マジになってらっしゃる……?

ここは言った方が良いのか……いやここで流されてはいけない………。


言って……信じて貰えなかった時の恐怖、一種の絶望………、可笑しな物を見る目で、見られたくない。

そんな怖いもの、知りたくない………。


「だから「ラグ」」

否を唱えようとする僕の言葉を遮ったアルさんは萎縮しきっている僕の肩に優しく手を添えた。


壊れ物を扱うような形で置かれたその手も逃げ出したいと、消えて無くなりたいと思っている僕には死刑宣告を受けるのと同じにしか感じられない、どんどんと浮かぶ最悪な展開、嫌な感情、ネガティブな考え、頭の中で溢れるそれに顔から血の気が失せるのを感じる。


そんな僕を知ってか知らずか、アルさんは口を開いた。


「俺はな、お前を幸せにすると決めている」

「…………うん?」

ナンだって?


「こんなときに何言ってるんだお前……」

今までアルさんの後ろで腕を組み黙って聞いていた王様が話に入ってくるが、アルさんはお構いなしに話を続ける。


「それにラグはかわいい、触れれば壊れそうでいて案外もっちりとして抱き心地がたまらん、腕にすっぽりとはまるその身長も分け隔てなく明るく話したりするお前を誰の目にも触れさせたくねえから部屋から出したくねえ、いっそ鎖で縛って逃げ出さねえように閉じ込めてえが、四六時中持ち運びたいとも自由に遊ばせたいとも思う」

「おい聞いてるのか犯罪者…………」

重苦しい空気を台無しにするアルさんの引くような発言に僕だけでなく王様も別の意味で顔を青くさせる。


なんだこのでかい変態。



反射的に椅子に座っているのに後ろに下がろうとすればアルさんに顎を掴まれる。


「俺を見ろ」

あ、はい。


「だからな、ラグ、俺はお前には笑顔でいてほしいんだ」

分からなくもないけど今までの会話で何故その結論に至るの………? し、支離滅裂じゃなーい?


「10割型お前の願望じゃないか………」

だよねえ……。

王様ががため息混じりに言えばアルさんは王様を睨む。



「うるせえイウァン大事なとこなんだから黙ってろや」

「その大事なところでしょうもない事言っているのは何処のどいつ………」

「で、だなイウァンはほっとくとして話を戻すが、俺はそんなひとり泣くのを堪えて辛そうにしてるお前なんて見たくねえし、俺が見ていない所で泣いたりするのも嫌だ」

冒頭と同じような顔つきでアルさんは言ってるけど。アルさんの予想していなかった言葉で雰囲気も出かけてた涙もなんか色んな物引っ込んじゃった……。


真剣に考えてくれているのは確か………だと思いたいけど。

こんな調子のアルさんなのに僕があーだこーだ悩むのは、……なんか馬鹿らしくなって来た。


それに何よりアルさんのお陰で冷静になれた、抑えていた蓋に鍵をかけた、よし。


「ん? 元気になったか? 」

「多分もう大丈夫だよ、何かごめんね」

笑顔を作り、アルさんに笑いかければまだ納得してない顔で僕を見る。


王様も僕の座る王座の横に回りため息をついた。


「まだまだ心配だが………、所でラグーン、アルギスと同じ質問になるがラグーンは何故あのように悲観的な顔をしていたんだ? 」


悲観的……? そんな感じだったかな…………。


ここで何も言わないじゃ無限ループに入るし、かといって嘘をついた所ですぐに王様に看破されるだろう……。


なら……最小限の事実とこっちの事情も混ぜて………。


仕方ない、と目の前の二人の視線が集る中僕はため息をついた。


「えっとね………詳しくは話せないけど、二度目の死の記憶が戻ったから、その事に頭が付いて来なかった、それだけだよ」


そう、僕は、死んだ、死んでしまった、もしかしたら帰れるかも、今の生活を謳歌しながらも何処か思っていた、だけど、確かに僕は死んで、しまった………でも、大丈夫。


どろどろとしたあの感情も、どこまでも続く闇のような絶望も、心の奥底、壺の中に押し込めて、かすかすになるまで蒸発するまで待とう、それまでは。

壺の事は忘れて、楽しもう、今を。


「それじゃあそろそろ用も終えたし帰ろう」

そうと決まればと微妙な顔をする二人に声をかける。


お腹空いてきちゃった


「ん? ……あぁ、分かった」  

納得が行かない顔でアルさんは立ち上がると僕を抱き上げようと腕を出す。


いつもならここで僕は嫌がる素振りをしてアルさんが無理矢理抱き上げるという流れだけど、今日は、ちょっと…………寂しいというか、誰かに少しだけ、甘えたい………ほんの、少しだけ。



だから僕はその手を取り、軽々とアルさんに抱き上げられる。


今はちょっと人肌が恋しくなっちゃった…………、てへ。


何かアルさんがにまにまとだらしない顔をしていた。王様がアルさんに気持ち悪いと言ったりしたけど、特に何事もなく、お城に帰った。





そう、何事もなく僕は暮らしていける筈………きっとね。


アルさんに甘えるのも今だけ、今だけなんだ。







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