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昔の荷物を回収そのいち
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荷物、またの名を宝物。
大分前、まだ僕が活発に動いて旅をしていた時に使っていた荷物とか、気に入った名産品とか宝石類を厳選して木の幹の隙間とかに押し込んでそのまま放置した。
そしてそのままその存在そのものを記憶から消却していたのを多分思い出したんだろうね。
「つかれたぁ……」
しかめっ面のぐすたふに圧に押されてやってきたのは森の奥の奥、熊たちも中々近寄らない秘境もどきみたいな場所のひときわ大きな大樹の根本。
見上げても先が見えない位大きく、緑のコケやツタが絡んだ幹は例えるのもむずかしい位に大きく、その巨大さに見合った根が地面から露出していてその隙間に僕お手製の祠の箱が見える。
「大きな大きな森の中心に近い場所の大木に石積んで建てたちっちゃい祠的な奴に入れた話、したっけ?」
「聞いてねえ」
「あれ…大体感覚で喋ってるからたまに忘れるんだよね」
「そりゃあもう分かってる……でだニール、そのことについて質問してもいいか?」
「ちょっと待って~」
腕を組んで軽く凄むぐすたふに僕は肩をすくめ前を見るよう指を指す。
大木を見あげるぐすたふはさておき、用があるのはコケまじりの石の祠、ちらちらと感じるぐすたふの視線がちょっとうざいけど根の前に膝をつく
「そりゃなんだ」
「祠」
「ホコラ」
「お手製の箱だと思ってもらえばいいよ」
「……作ったのかこれを、すげぇな」
「すごいでしょー」
信じられないものを見る目で祠と僕を交互に指さすぐすたふは流石に失礼だと思う。
「その意欲をもう一欠片俺に向けてくれるとありがたい」
「善処する」
「ほんとか~?」
眉を上げるぐすたすに。
「本気出せば僕結構できるよ」
「いつもは」
「本気出してだらけてる」
「だよな」
祠に手をかけながら答えればわかりきったような声が隣から入り耳が動く。
頑張る時期はもう終わったのよ~ほほほ。
「それでこの箱を引っ張り出したいんだけど…お願いできる?」
「あいよ」
作ってぴったり収めたのはいいけどしばらく放置したせいか根っこが伸びてがちがちに固まっていらっしゃる、いざ取り出そうとするとこれがまた大変。
……どうやって作ってどうやってこんな所に押し込んだんだろうね、僕。
何十年と前、色々とやさぐれていた僕がこの森に入り奥へ奥へと、特に計画もなく歩いていた。
魔王様がまだ復活してなく英雄や勇者なんて昔話と言われていた頃、好奇心だけは旺盛で欲に忠実だった僕は一人きままに旅をしていた。
当時の魔族の扱いは中の下、もしくは下の上みたいな感じで厄介者扱いはされるけど人によっては歓迎されたり煙たがられたり、今の情勢よりはずっとマシだった事は覚えている。
美味しい物食べたり、簡単な日雇いの仕事をしたり、お金を貯めて本を買って読んだり今と比べたら信じられない位には充実した日々を過ごしていたのが……昔の話。
マシだとはいえ、あくまで最低限レベルの魔族の扱いにそこまで強くなかった僕は少し疲れていた時に立ち寄ったのが今いる後の住処となる森。
常人なら自殺しようとしてるかと疑われるけれど僕にとっては癒しの空間、少し騒がしいけど落ち着いて休める数少ない場所。
奥へ奥へと無言でリュックを背負い何も考えず歩き、足が痛くなって座った場所がこの大きな木。
運命とかお告げとかがきた訳じゃないけど、何となくこの木が気にいっただけで深い意味はない。
そして何となく、ここに住もうかなって決めて。
「じゃあこれいらないし封印しようか、みたいな」
「ならねえよ」
「ちょっと手伝っておくれ」
「あいよ、横座るぞー」
「あいー」
歪な形の祠が成長した根っこにすっぽりと収まっていたせいで力持ちのぐすたふでも中々取り出せず取れた頃には二人とも手が泥だらけになる。
途中からぐすたふは短剣とりだして根っこ切り始めた時はぎょっとしたけど無事に取れたから結果オーライ。
僕も手伝おうとしたけど邪魔だからどけと最後は言われて背中から覗く傍らちょっと森にはいるまえの昔話をしたり、取った後の根っこはボロボロになっちゃったけど数年で元通りになると思う。
「服とかタオルとか実用的なものは使うけどそれ以外のお金とか本はいらないかなーって」
泥を払い落とし、ただはめただけの穴の付いた石の戸に指を入れて思い切り引っ張る。
「ここ住んでから町に行ったりはしねえのか」
「いかないねー、そもそも最近は危ないってぐすたふが口酸っぱく言ってるじゃん」
なにこれ固い、よいしょ、んしょ……。
「……まあな、人恋しくなんねえの?」
「んーたまになるけどわざわざ危険犯してまで埋めたい程じゃないかな」
まってマジで固いこれ。
「友人とか知り合いとかいたけど今連絡とってないし…そもそも生きてるのかも分かんないからね」
たまに、本当にたまにだけど。
「んー……言いにくいだったか?」
「いんや全然」
誰かと遊びたい、とか、話したいとかって感情が胸を占めてどうしようもなく渇きみたいな感情が占めるけど……そんのものは我慢していればそのうち忘れて無くなる。
「そうか……大丈夫か?」
「別にもう慣れた事だから大丈夫だよ、感情で暴走する程子供でもないから平気平気」
「ならいいんだがよ……そっちは、大丈夫か?」
「……」
何についての大丈夫か……ぐすたふの視線は僕の指と祠を見ている。
「……何年も放置してたらさあ」
「おう」
「石って変形するんだね」
「雨風に当たってりゃそうなるわな」
「ぐすたふ、開かない」
「……おう」
穴からそっと指を離した僕は今世紀最大の媚びた声を出す。
「……開けていただいてもいいでしょうか」
「くくっ、あいよ」
「笑わないでぇ」
「いや笑うだろくっはははは! あーうけるはこんなん」
……じぶんで開けようかな
大分前、まだ僕が活発に動いて旅をしていた時に使っていた荷物とか、気に入った名産品とか宝石類を厳選して木の幹の隙間とかに押し込んでそのまま放置した。
そしてそのままその存在そのものを記憶から消却していたのを多分思い出したんだろうね。
「つかれたぁ……」
しかめっ面のぐすたふに圧に押されてやってきたのは森の奥の奥、熊たちも中々近寄らない秘境もどきみたいな場所のひときわ大きな大樹の根本。
見上げても先が見えない位大きく、緑のコケやツタが絡んだ幹は例えるのもむずかしい位に大きく、その巨大さに見合った根が地面から露出していてその隙間に僕お手製の祠の箱が見える。
「大きな大きな森の中心に近い場所の大木に石積んで建てたちっちゃい祠的な奴に入れた話、したっけ?」
「聞いてねえ」
「あれ…大体感覚で喋ってるからたまに忘れるんだよね」
「そりゃあもう分かってる……でだニール、そのことについて質問してもいいか?」
「ちょっと待って~」
腕を組んで軽く凄むぐすたふに僕は肩をすくめ前を見るよう指を指す。
大木を見あげるぐすたふはさておき、用があるのはコケまじりの石の祠、ちらちらと感じるぐすたふの視線がちょっとうざいけど根の前に膝をつく
「そりゃなんだ」
「祠」
「ホコラ」
「お手製の箱だと思ってもらえばいいよ」
「……作ったのかこれを、すげぇな」
「すごいでしょー」
信じられないものを見る目で祠と僕を交互に指さすぐすたふは流石に失礼だと思う。
「その意欲をもう一欠片俺に向けてくれるとありがたい」
「善処する」
「ほんとか~?」
眉を上げるぐすたすに。
「本気出せば僕結構できるよ」
「いつもは」
「本気出してだらけてる」
「だよな」
祠に手をかけながら答えればわかりきったような声が隣から入り耳が動く。
頑張る時期はもう終わったのよ~ほほほ。
「それでこの箱を引っ張り出したいんだけど…お願いできる?」
「あいよ」
作ってぴったり収めたのはいいけどしばらく放置したせいか根っこが伸びてがちがちに固まっていらっしゃる、いざ取り出そうとするとこれがまた大変。
……どうやって作ってどうやってこんな所に押し込んだんだろうね、僕。
何十年と前、色々とやさぐれていた僕がこの森に入り奥へ奥へと、特に計画もなく歩いていた。
魔王様がまだ復活してなく英雄や勇者なんて昔話と言われていた頃、好奇心だけは旺盛で欲に忠実だった僕は一人きままに旅をしていた。
当時の魔族の扱いは中の下、もしくは下の上みたいな感じで厄介者扱いはされるけど人によっては歓迎されたり煙たがられたり、今の情勢よりはずっとマシだった事は覚えている。
美味しい物食べたり、簡単な日雇いの仕事をしたり、お金を貯めて本を買って読んだり今と比べたら信じられない位には充実した日々を過ごしていたのが……昔の話。
マシだとはいえ、あくまで最低限レベルの魔族の扱いにそこまで強くなかった僕は少し疲れていた時に立ち寄ったのが今いる後の住処となる森。
常人なら自殺しようとしてるかと疑われるけれど僕にとっては癒しの空間、少し騒がしいけど落ち着いて休める数少ない場所。
奥へ奥へと無言でリュックを背負い何も考えず歩き、足が痛くなって座った場所がこの大きな木。
運命とかお告げとかがきた訳じゃないけど、何となくこの木が気にいっただけで深い意味はない。
そして何となく、ここに住もうかなって決めて。
「じゃあこれいらないし封印しようか、みたいな」
「ならねえよ」
「ちょっと手伝っておくれ」
「あいよ、横座るぞー」
「あいー」
歪な形の祠が成長した根っこにすっぽりと収まっていたせいで力持ちのぐすたふでも中々取り出せず取れた頃には二人とも手が泥だらけになる。
途中からぐすたふは短剣とりだして根っこ切り始めた時はぎょっとしたけど無事に取れたから結果オーライ。
僕も手伝おうとしたけど邪魔だからどけと最後は言われて背中から覗く傍らちょっと森にはいるまえの昔話をしたり、取った後の根っこはボロボロになっちゃったけど数年で元通りになると思う。
「服とかタオルとか実用的なものは使うけどそれ以外のお金とか本はいらないかなーって」
泥を払い落とし、ただはめただけの穴の付いた石の戸に指を入れて思い切り引っ張る。
「ここ住んでから町に行ったりはしねえのか」
「いかないねー、そもそも最近は危ないってぐすたふが口酸っぱく言ってるじゃん」
なにこれ固い、よいしょ、んしょ……。
「……まあな、人恋しくなんねえの?」
「んーたまになるけどわざわざ危険犯してまで埋めたい程じゃないかな」
まってマジで固いこれ。
「友人とか知り合いとかいたけど今連絡とってないし…そもそも生きてるのかも分かんないからね」
たまに、本当にたまにだけど。
「んー……言いにくいだったか?」
「いんや全然」
誰かと遊びたい、とか、話したいとかって感情が胸を占めてどうしようもなく渇きみたいな感情が占めるけど……そんのものは我慢していればそのうち忘れて無くなる。
「そうか……大丈夫か?」
「別にもう慣れた事だから大丈夫だよ、感情で暴走する程子供でもないから平気平気」
「ならいいんだがよ……そっちは、大丈夫か?」
「……」
何についての大丈夫か……ぐすたふの視線は僕の指と祠を見ている。
「……何年も放置してたらさあ」
「おう」
「石って変形するんだね」
「雨風に当たってりゃそうなるわな」
「ぐすたふ、開かない」
「……おう」
穴からそっと指を離した僕は今世紀最大の媚びた声を出す。
「……開けていただいてもいいでしょうか」
「くくっ、あいよ」
「笑わないでぇ」
「いや笑うだろくっはははは! あーうけるはこんなん」
……じぶんで開けようかな
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