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悪性の流行り病

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先生が授業を再開するその時に、
若い近衛兵が教室のドアを軽くノックして入り、
先生にメモを渡した。

そして、なにやらぼそぼそと小声で話し合うと、近衛兵は静かに教室を出ていった。

その光景を見ていた子供たちの目は、教壇に立つ先生の姿に釘づけだった。

先生は一瞬険しい表情になりましたが、
また直ぐにいつもの冷静で柔和な笑顔を見せ、
しかし、口調はある種の冷たさを含んで話し始めました。

「今の、A王国周辺と流行り病の状況をご説明しますね」

先生が話しを区切るタイミングで、
教会の方から鐘の音がぶきみに鳴り響き渡った。

「第一次警戒レベルの鐘の音ですね。
それでは、今現在の状況を報告致します。
隣国、B王国からの伝令兵と、
やはり流行り病に感染した兵士が二人、
馬車の中で横たわっていました。
関所付属の簡易病院には、修道院から看護師達が既に対応しています。
流行り病と診断されたので、関所の番兵たちは、B王国兵士には近付かないように指示され、看護師たちは鼻と口を覆うマフラーを身に付け、病棟に運びこびます。
症状は、高熱と咳と、身体の関節の痛みです。
一番若い兵士が重篤とのことでした。
B王国兵士達全員は服を脱がされ、
病院用の清潔な病院用服に着替え、
今まで着ていた服は熱湯消毒されます。
それから、最近、我がA王国の錬金術で開発された蒸留酒からのアルコールで、定期的に看護師の手の消毒と、流行り病患者が触った個所を、その都度、アルコールを染み込ませた布で拭いて、予防しています。
このアルコール消毒は、やはり、
A国王により50年間に渡る情報収集と研究が実を結んだ結果の一つです。
みなさんの各家庭にも、今頃は近衛兵たちが配っているので、
パパ、ママの指導のもと、流行り病対策を徹底して下さい。
B王国兵士で比較的軽い症状の者は、年齢の38歳とのことで、
重症な者は20歳前後だそうです。
この事からも、年齢が若いほど重症化するのが立証されましたので、
みなさんは特に流行り病に罹らないように、
先生のような大人以上に気を付けてください。
今回の流行り病は、私たちが恐れていた、
致死率の高い悪性の流行り病と断言できる、
と、先程の近衛兵に耳打ちされました」

先生の衝撃の言葉に、教室中の子供たちが騒然なった。
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