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第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ
23 衝撃の初仕事②
しおりを挟む「あ、でも、もしかして、フロントの方をやってもらうつもりなのかな?」
スマイリー主任が顎を撫でながら独り言のように呟いた言葉に、小首を傾げる。
「フロント……?」
って、受付とか、そういうのだろうか?
「社長から、仕事内容の説明はなかった?」
スマイリー主任に問われ、私は面接のときのことを思い出してみた。
……鼻血のインパクトが強すぎて、イマイチよく思い出せない。確か、時給とか休みの説明はあったけど、何をするのかは言われなかったような気がする。
「はい、特には。夜勤の社員で、と言われたくらいで」
よく考えたら、『何か質問は?』と社長に聞かれたときに、仕事の内容をよく説明してもらうんだった。就職確定に舞い上がってしまって、そこまで気が回らなかった。
今度から、気を付けよう。
仮にも、社会人になるんだから、同じ失敗は繰り返さないようにしないと。
心のメモ帳に、しっかりと書き込む。
「ふーーん。なるほどねぇ」
何がなるほどなのか、さっぱり分からないけど、スマイリー主任は妙に納得したように頷いた。
「まあ、とにかく、今日は、ルームメイクをやってもらいます。簡単に言うと、お客様が帰った後の『部屋の掃除』をすること、だね」
「お掃除ですか?」
「そう。お掃除。でも、夜は部屋の回転率が高いから、昼間のように部屋の隅々まで磨き上げるような本格的な掃除はしないんだ」
「はい」
「だからと言って、手を抜いて良いわけじゃない」
「はい」
それはそうだろう。お客様からしたら、手抜き掃除された部屋を使うなんて、気持ちのいいものじゃないはず。もしも、手抜き感が見えてしまったら、私がお客様でも『最悪! 二度と来ない!』って思うだろう。
手抜きイコール、信用問題になりかねないんだ。
「あくまで手は抜かずに、きっちり原状復帰。これが基本だね。ベッドメイクと風呂掃除。それと備品の補充が主な仕事かな」
「はい」
「一部屋、十分くらいで終わらせないといけないから、かなりスピード重視でハードになるけど、頑張ってね」
「はい、がんばります」
仕事そのものは、私にも、なんとかできそう。ようは、いつも、自分の家でやっている家事の延長みたいなものだ。私はやる気モード全開で、自分に言い聞かせるように、しっかりとうなずいた。
でも、その考えが甘かったことを思い知らされるまで、そんなに時間は必要なかった――。
世の中には、色々なお仕事がある。
普通のOL。サラリーマン。学校の先生。看護師。昔の父のような、ダンプカーの運転手。私の夢でもある絵本作家。他にも存在するだろう、数えきれない色々な職業。
私が知らない『未知のお仕事』というのは、無数に有るわけで。私は今、その一つを、身をもって体験していた。ラブホテルのカラフルな浴室で、一心不乱に、壁についた水滴を拭き取りながら――。
ラブホテルの求人は、普通、『フロント業務』と『お掃除』の二種類あるのだそう。で今、私が助っ人に入ったのが『お掃除』で、ここではいわゆる『ルームメイク』と言われるお仕事だった。
スマイリー主任に部屋の掃除が仕事だと聞いたときに、『あ、それなら自分にもできそう』、なんて安易に考えたのは、大きな間違いだった。
『仕事の種類は、選ばない』それは本当。今でもそれは変わらない。
お掃除だって、立派なお仕事だと思う。お給料をいただく限りは、きっちりと、誰にも納得してもらえる仕事がしたい。心から、そう思っている。でも。
でも……。
これは、きっつ~~~い!!
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