上 下
23 / 138
第2章 汗と涙の、オトナのお仕事ライフ

23 衝撃の初仕事②

しおりを挟む

「あ、でも、もしかして、フロントの方をやってもらうつもりなのかな?」

 スマイリー主任が顎を撫でながら独り言のように呟いた言葉に、小首を傾げる。

「フロント……?」

 って、受付とか、そういうのだろうか?

「社長から、仕事内容の説明はなかった?」

 スマイリー主任に問われ、私は面接のときのことを思い出してみた。

……鼻血のインパクトが強すぎて、イマイチよく思い出せない。確か、時給とか休みの説明はあったけど、何をするのかは言われなかったような気がする。

「はい、特には。夜勤の社員で、と言われたくらいで」

 よく考えたら、『何か質問は?』と社長に聞かれたときに、仕事の内容をよく説明してもらうんだった。就職確定に舞い上がってしまって、そこまで気が回らなかった。

 今度から、気を付けよう。
 仮にも、社会人になるんだから、同じ失敗は繰り返さないようにしないと。

 心のメモ帳に、しっかりと書き込む。

「ふーーん。なるほどねぇ」

 何がなるほどなのか、さっぱり分からないけど、スマイリー主任は妙に納得したように頷いた。

「まあ、とにかく、今日は、ルームメイクをやってもらいます。簡単に言うと、お客様が帰った後の『部屋の掃除』をすること、だね」
「お掃除ですか?」
「そう。お掃除。でも、夜は部屋の回転率が高いから、昼間のように部屋の隅々まで磨き上げるような本格的な掃除はしないんだ」
「はい」
「だからと言って、手を抜いて良いわけじゃない」
「はい」

 それはそうだろう。お客様からしたら、手抜き掃除された部屋を使うなんて、気持ちのいいものじゃないはず。もしも、手抜き感が見えてしまったら、私がお客様でも『最悪! 二度と来ない!』って思うだろう。

 手抜きイコール、信用問題になりかねないんだ。

「あくまで手は抜かずに、きっちり原状復帰。これが基本だね。ベッドメイクと風呂掃除。それと備品の補充が主な仕事かな」
「はい」
「一部屋、十分くらいで終わらせないといけないから、かなりスピード重視でハードになるけど、頑張ってね」
「はい、がんばります」

 仕事そのものは、私にも、なんとかできそう。ようは、いつも、自分の家でやっている家事の延長みたいなものだ。私はやる気モード全開で、自分に言い聞かせるように、しっかりとうなずいた。

 でも、その考えが甘かったことを思い知らされるまで、そんなに時間は必要なかった――。

 世の中には、色々なお仕事がある。

 普通のOL。サラリーマン。学校の先生。看護師。昔の父のような、ダンプカーの運転手。私の夢でもある絵本作家。他にも存在するだろう、数えきれない色々な職業。

 私が知らない『未知のお仕事』というのは、無数に有るわけで。私は今、その一つを、身をもって体験していた。ラブホテルのカラフルな浴室で、一心不乱に、壁についた水滴を拭き取りながら――。

 ラブホテルの求人は、普通、『フロント業務』と『お掃除』の二種類あるのだそう。で今、私が助っ人に入ったのが『お掃除』で、ここではいわゆる『ルームメイク』と言われるお仕事だった。

 スマイリー主任に部屋の掃除が仕事だと聞いたときに、『あ、それなら自分にもできそう』、なんて安易に考えたのは、大きな間違いだった。

『仕事の種類は、選ばない』それは本当。今でもそれは変わらない。

 お掃除だって、立派なお仕事だと思う。お給料をいただく限りは、きっちりと、誰にも納得してもらえる仕事がしたい。心から、そう思っている。でも。

 でも……。

 これは、きっつ~~~い!!

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ
恋愛
文具メーカーで働く河野梨音は、過去の恋愛から恋をすることに憶病になっていた。 ある日、会社の次期社長である立花翔真が女性からの告白を断っている場面に遭遇。 なりゆきで彼を助けることになり、そのお礼として食事に誘われた。 会話の中でお互いの恋愛について話しているうちに、梨音はトラウマになっている過去の出来事を翔真に打ち明けた。 その話を聞いた翔真から恋のリハビリとして偽装恋愛を提案してきて、悩んだ末に受け入れた梨音。 偽恋人として一緒に過ごすうちに翔真の優しさに触れ、梨音の心にある想いが芽吹く。 だけど二人の関係は偽装恋愛でーーー。 *他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正版です。 性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します

佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。 何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。 十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。 未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

溺愛婚〜スパダリな彼との甘い夫婦生活〜

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰で才徳兼備な眉目秀麗な彼から告白されスピード結婚します。彼を狙ってた子達から嫌がらせされても助けてくれる彼が好き

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...