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45【告白⑳】

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 コンビニからアパートまでは、徒歩三分の距離しかない。

 周囲は閑静な住宅街で治安も良いから、買い物をしてこのまま歩いて帰ろう。そう思って課長にその旨を告げて、コンビニの駐車場で停まったタクシーを降りた。

「課長、今日は、お疲れ様でした。お先に失礼します」

 ペコリと頭を下げて返事を待たずに逃げるようにクルリと背を向け、さあ『いざコンビニへ!』と、イソイソと店内へ足を向けた。

「いらっしゃいませー!」

 深夜にも関わらず若い男性店員さんの元気な声が笑顔と共に向けられ、笑顔を返して店内に足を踏み入れる。

 週末の為か、私と同じおつまみ目的らしい人影が、ちらほらと見えた。レジ脇に置かれているグレーの買い物カゴを手に取り左ひじにひっかけて、入口側の窓辺にそってブラブラと商品を物色する。

「いらっしゃいませー」

 また店員さんのウエルカムボイスが上がり、同好の士の訪れを告げる。

 さあて、まずはこれよね。
 と、入口際にあるアイス・ボックスを覗きこんだ。

 あ、新発売のアイス・クリームがある!

 目ざとく『新発売!』の赤いシールが張られたアイスクリームのカップに気付き、手を伸ばして一つ取り出しカゴに入れようとしたその時。スッと背後から、見覚えのあるダーク・グレーのスーツに包まれた長い腕が伸びてきて、ドキンと鼓動が大きく跳ね上がった。

 その長い指が、私が手に取ったのと同じ商品を掴み『私の持っているカゴの中』にポイっと投げ入れてくる。

 ――え……?

 恐る恐る体をねじって後ろに佇む背の高い人物へと視線を巡らせ、目に映ったその人の顔を呆然と見つめた。

 少し憮然とした表情は、どこか怒っているようにも見える。
 自分で頭をかき回したのか、きちんとセットされていた前髪がパラパラと額に落ちかかっていた。

 なぜそんな表情をしているかよりも、なぜその人がここに、このコンビニに居るのかが理解できない。

 驚きと、困惑。
 そして、本能で感じる危険信号。

 色々なものを内包した、それでもやはり驚きの成分を一番多く含んだ掠れた声が、口から押し出される。

「課長……?」

 谷田部課長だった。

 タクシーで、自分のアパートに帰った筈の上司様の姿が、なぜか目の前にある。
 理解しがたい状況の中で、はっと我に返った私は慌てて外へ、先刻タクシーが停まっていた場所に視線を投げた。案の定、そこにタクシーの姿はない。課長が返してしまったのだろう。

――どうして?

 疑問を声に変える前に、課長の方が先に口を開いた。

「俺もかなり空きっ腹なんだ。どうせ帰っても何もないから、晩飯、相伴しょうばんさせてくれないか?」

 し、相伴って、今から家にきて一緒に食べるってこと!?

「え、で、でも、家にも大したものは無いですからっ」

 冗談じゃない。

 今だっていっぱいいっぱいなのに、この上アパートに二人きりになんてなったら私、自分の行動に自信なんか持てないっ。


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