上 下
16 / 52
第六話 【暴露】暴かれた想い。

16

しおりを挟む

 伊藤君が病室に来て一時間ほどたったころ、陽花はるかに疲れの色が見えてきたため、お見舞いと言う名の束の間の同窓会は、お開きになった。

 私は、陽花に、また来週お見舞いに来ることを約束して、浩二と伊藤君と共に病室を後にした。

『久々だから、今から三人で飲み会でもしようや』との浩二の提案は、伊藤君の予定が合わなくて、実現ならず。

 正直、私は少しだけホッとしていた。

 このまま、伊藤君の側でお酒なんか飲んだ日には、どんな酔い方をするか、分かったものじゃない。きっと、悪酔いするに決まっている――。

「……なあ、亜弓」

 帰りの車中。病室でのはしゃぎっぷりが嘘のように沈黙していた浩二が、赤信号で止まったときに、不意に声をかけてきた。

 できれば今、話したくないんだけど。

 でも、さすがに無視するわけにもいかず、私は、助手席の窓から雨に霞む町並みを見るともなしに見つめながら「うん?」と、気のない返事をした。その私の反応に、浩二が一つ、長いため息を吐く。

『おいおい、浩二君、辛気くさいなぁ。ため息の数だけ、幸せが逃げていくそうよ』なんて、いつもなら滑るように出てくる軽口を叩く気力もない私は、ただ、浩二の次の言葉を待った。

「一つ、質問していいか、亜弓」

 その声にはいつになく真剣な響きがあって、私はゆっくりと窓の外から運転席の浩二の方へ視線を移した。

 私を見つめる浩二の眼差しも、今まで見たことがないくらい真剣そのものだ。

「お前、今の彼氏のこと、本気で愛しているのか?」
「……え?」

 何を、藪から棒に。
 そんなマジな顔をして冗談言っても、笑えないよ。

 そう言おうと思ったけど、言葉が出ない。

 浩二の目が、まるで嘘を見抜いてやるとでも言いたげに、恐いくらい真っ直ぐに私を見ていたから。

 なんで浩二は、こんな質問をするのだろう?

 今の私に、そんな質問に答えられる心の余裕なんか、これっぽっちもないのに。

「な……んで?」

 自分のモノとも思えないような、掠れた声が喉から絞り出される。

「単刀直入に聞く」
「……」
「お前、伊藤のこと、好きなのと違うか?」

 な!?

「なに言ってるのよ、馬鹿馬鹿しい!」

 あまりに鋭いツッコミに、私は思わず声を荒げてしまった。

「本当に、そう思ってるのか?」

「あ、当たり前よっ。伊藤君は、陽花の彼氏でしょ? ホント、冗談でもそんなこと言うのやめてちょうだい! それに、私、この前彼にプロポーズされたのよ。でっかいダイヤの婚約指輪も貰ったし、今度は彼のご両親にも会うことになってるの! 分かった!?」

 取り乱し過ぎて、思わず、弾丸トークしてしまった。

 これじゃ、後ろ暗いのが丸分かりじゃない。挙動不審も良いところだ。その辺を突っ込まれたら、なんて答えよう?

「そいつと、結婚するってか?」
「する!」

 あまりに意地の悪い言いようにむかっ腹が立って、思わず、勢いで断言してしまった。


しおりを挟む
★浩二視点の物語も同時連載中です。
よかったら、ご賞味くださいませ。^^
『ひまわり~この夏、君がくれたもの~』

【オリジナル小説検索サイト・恋愛遊牧民R+】
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

黒蜜先生のヤバい秘密

月狂 紫乃/月狂 四郎
ライト文芸
 高校生の須藤語(すとう かたる)がいるクラスで、新任の教師が担当に就いた。新しい担任の名前は黒蜜凛(くろみつ りん)。アイドル並みの美貌を持つ彼女は、あっという間にクラスの人気者となる。  須藤はそんな黒蜜先生に小説を書いていることがバレてしまう。リアルの世界でファン第1号となった黒蜜先生。須藤は先生でありファンでもある彼女と、小説を介して良い関係を築きつつあった。  だが、その裏側で黒蜜先生の人気をよく思わない女子たちが、陰湿な嫌がらせをやりはじめる。解決策を模索する過程で、須藤は黒蜜先生のヤバい過去を知ることになる……。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...