上 下
13 / 52
第五話 【再会】懐かしき友。

13

しおりを挟む

 洗面台。
 トイレ。
 ロッカーにベッド。

 コンパクトだけど、機能的に配置された木目調の家具と、清潔な白い室内。

 淡いイエロートーンのカーテンに半分だけ覆われた大きな窓を背にして、部屋の中央に置かれた白いパイプベッドの上。そのベッドに背を預けて、淡いピンクのパジャマに身を包んだ陽花はるかは、静かに座っていた。

 私に真っ直ぐ向けられる、大きなライト・ブラウンの瞳も。少女のような、白い頬のラインも。ゆったりと両サイドで三つ編みにされた、癖のない明るい色の髪も。何もかも。

 まるで、時間なんか経っていないように、あの頃のままで。私は、なんだか、鼻の奥にツンと熱いものが込み上げてきてしまった。

 ――や、やだ。
 これで泣いたりなんかしたら、笑っちゃうよ、私。

 陽花が、くしゃっと、零れるような笑みを浮かべる。

「あーちゃん!」

 懐かしい声が、さらに涙腺を刺激する。

「陽……花」

 喉の奥に絡んだ声が掠れて、うまく出てこない。

 ――こら。
 見舞いに来た人間が、ぺそぺそしてどうするんだ。

 しっかりしろ、亜弓!

 私は、心の中で自分に気合いを入れると、ベッドサイドへ歩み寄った。

「陽花、久しぶりー。ゴメンね、浩二に聞くまで陽花が入院したこと全然知らなくて。あいつめ、もっと早くに教えろって言うのよね! あ、はい、これお見舞い。お花と、適当に面白そうな雑誌とか小説とか持ってきてみた」

 私は、涙がこぼれそうになっているのを悟られまいと、早口でまくし立てた。

「ありがとう、あーちゃん」

 そんな私に、陽花はニコニコと柔らかい笑みを向けてくる。

「持ってきた本、全部読んじゃって退屈してたところだから、助かっちゃった。あ、ミニ向日葵だね。わたし、大好きなんだ」

『えへへ』と、はにかむように言うその表情に、涙腺が悲鳴を上げる。

 ああ、ヤバイ。マジで泣きそう。

 な、なにか、気持ちを紛らわせる方法は!?

 忙しなく考えを巡らせていると、今自分が手渡したばかりのミニ向日葵の花束が目に止まった。

 これだっ!

「あ、花瓶ある? 私、お水汲んでくるから」

 これは、花を花瓶に活けるのを口実に、いったん病室から退散しよう。そう目論んだのに。

「あ、花瓶はそこ。入り口の洗面台の下に入ってると思う」

 陽花の白い指先が指し示す方に、ハッとして顔を向ける。

 げげ。
 そうだった。
 この病室、部屋の中に、洗面台もトイレもくっついてる!

「あ、あはは。今の病院って、至れり尽くせりだよねー。ビックリしちゃったよ、私」

 こうなったら、浩二を話のツマにして、この難局を乗り切ろう。

 私は、そう心に決めた。

 
しおりを挟む
★浩二視点の物語も同時連載中です。
よかったら、ご賞味くださいませ。^^
『ひまわり~この夏、君がくれたもの~』

【オリジナル小説検索サイト・恋愛遊牧民R+】
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

処理中です...