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第五話 【再会】懐かしき友。
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しおりを挟む近代的な大きな病院の雰囲気に圧倒されつつ、私は浩二の後に続いて、三階にある外科の入院病棟に向かった。
が、エレベーターで三階に着いたのは良いけど、広すぎてどこに病室があるのか分からない。
確か、ハルカの病室は315号室。
エレベーター前のフロアで思わず立ちすくんでいたら、「こっちだ」と、浩二が迷う風もなくスタスタと歩きだした。
なんで浩二が、陽花の病室の場所を知っているの? と、不思議だったけど、よくよく考えれば、親友である伊藤君の彼女だもの。前に、お見舞いに来ていたっておかしくはないと、思い当たる。
「あ、待ってよ!」
置いて行かれそうになった私は、慌てて浩二の後を追った。
それにしても。もっと早くに教えてくれたら良いのにっ!
誰に口止めされたのか知らないけど、私にまで秘密にしておくことないじゃない?
なんて考えながら歩いていたら、浩二が立ち止まったことに気づかずに、背中に『ぐしゃっ』っと、激突してしまった。
って、ぐしゃっ!?
嫌な予感がして、浩二の背中と自分の胸の間に、恐る恐る視線を落とす。そこには、見るも無惨に押しつぶされた、ミニ向日葵の花束。
「うわぁ、花がっ!」
慌てて一歩後ろに飛び退いて、抱えていた花束を覗き込む。潰してしまったかと心配したけど、ありがたいことに向日葵は強かった。つぶれた包装紙をバリバリと元に戻すと、最初から何も無かったかのように元通りに復元した。
「よかったぁ……」
「ここだ」
浩二は、私の一人漫才を見ない振りして、パステルピンクのスライドドアの前でくいっと、あごをしゃくった。
『三池陽花様』
ドアのネーム・プレートに、ワープロ打ちされた陽花の名前が貼り付けられている。
――ここに、陽花がいるんだ。
ごくり。
思わず、唾を飲み込む。
「じゃ、俺は喫煙室にでも行ってるから。面会が終わったら、声を掛けてくれ」
「え?」
なぬっ!?
ポソリと呟いて、スタスタ歩き出す浩二の行動にギョッとした私は、逃すまいとその腕を慌てて掴んだ。
「な、なんで? お見舞いしないの浩二!?」
「――俺は、前に来てるから、いいよ」
思わず声を荒げてしまった私に、浩二は少し苦笑めいた表情を向ける。
「だって、せっかく来たのに……」
「亜弓は、三池に会うのは久しぶりだろう? 女どうし、積もる話でもすれば?」
そ、そりゃ、そうだけど。
こ、この薄情ものっ。
一緒に来てくれたって良いじゃない!
とは、さすがに言えない。私だって、二十五歳の、いい大人なんだから。
「……わかったわよ」
私は腹を据えて、病室のドアの前に立った。
コンコン。
すうっと一つ深呼吸をして、ドアをノックする。
「どうぞ」
すぐに返ってきたのは、聞き覚えのある懐かしい声。ハイトーンの澄んだ声に、ドキドキと鼓動が早まる。
――よし。行け、私!
意を決して、パステルピンクのスライドドアに手を掛けて少し力を入れると、思いの外軽やかに、音もなくドアは開いた。
「こんにちはー」
なるべく何気ない風を装いながら、明るく声を掛けつつペコリと頭を軽く下げて。私はなんとか笑顔を作ると、病室へ一歩、足を踏み入れた。
そして。
ドキドキと暴れまくる自分の心臓の鼓動を聞きながら、視線を上げたその先に、陽花がいた。
まるで、時が戻ったみたいに。
あの頃とぜんぜん変わらない、陽花が居た――。
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