上 下
7 / 52
第四話 【秘密】後ろめたさの理由。

07

しおりを挟む

 アイツめ!
 浩二のヤツ、私に嘘をつきやがったな!

 仮にも、三ヶ月年上の従姉様に、嘘を教えるなんて良い根性じゃないか。

 よーし、文句を言ってやらなくちゃ!

 壁掛け時計をチラリと確認すると、十時を少し回ったところ。この時間なら、さすがにもう会社から戻っているはず。私は、すぐさま『おじさんち』。つまり父の弟の家である、浩二の実家に電話をかけた。

『はい、佐々木です』
「こっちも佐々木です」

 都合が良いことに、浩二本人が電話に出たので、ぶすっとした声で名乗ってやった。

『んあ? なんだ、亜弓か?』

 あちらさんも晩酌中だったのか、声に酔っぱらい臭が漂っている。

『珍しいな、どうした? お袋にでも、用があるのか?』

 実にのんびりした声音に、なんだかムカッ腹が立ってくる。

 おばちゃんに、用はない。アンタに用があるのよっ!

「亜弓かじゃないわよ! 浩二、アンタ、私に嘘を教えたでしょ!?」
『嘘ぉ? 何じゃそりゃ。何のことを言ってんだ?』

 ほうほう、おとぼけなさる。

 昔、子供の頃。
 一人じゃどこにも出掛けられなかった弱虫のアンタを、魚釣りやカブトムシ取りに連れて行ってあげた恩を忘れたか、泣き虫浩二!

「伊藤君のことよ」

 ドスの利いた声で言ってやったら、浩二は電話の向こうで一瞬声を詰まらせて、『あ、ああ、なんだ、そのことか』と、ポツリと呟いた。

『もしかして、今日のスポーツニュース、見たんだ?』

「見た。偶然だけどしっかり見たわよ、華麗なる逆転ゴール」
『……ふうん』

「ふうんって、伊藤君は高校の体育教師になったんだって、浩二、言わなかったっけ? 何で、プロサッカーチームで、ご活躍しているわけ?」
『まあ、なんだ、あれだ』
「なによ?」

『一度は、堅実に公務員になったものの、夢を、諦められなかったんだと』
「え?」

『だから、体育教師を辞めて、最後のチャンスだと思ってプロテスト受けたんだ。したら、見事に合格したとそう言うこと』

 夢を、諦められなかった――。

 こうと決めたら絶対引かない意志の強そうな、まっすぐな黒い瞳が、脳裏に浮かぶ。

 それだけなのに。胸の奥がどうしようもなく、ざわめく。

「そっか……。そういうことだったの」

 とても、彼らしいな。

 そう思っていたら、ふうっと、電話の向こうで浩二が大きなため息を一つ吐き出した。

「何? 悪かったわよ、嘘つき呼ばわりしちゃって。ほらさ、知ってる人がテレビに出てたもんでビックリしちゃったのよ、ゴメンね」

 さすがに気がとがめて、素直に謝った。

『それは、別に良いけど。……亜弓、今、付き合ってる男いるんだよな?』
「は? いるけど、なんで?」

 脈絡のない質問に、浩二の言わんとすることが掴めず、眉を寄せる。

 私に彼がいたら、どうだと言うんだろう?
 伊藤君がプロサッカー選手になったことと、どんな繋がりが?

『いや……』

 電話の向こうに流れる、微妙な沈黙。

 何だか、何かを言いたいけど『ためらっている』そんな感じ。こんな浩二は初めてだ。


しおりを挟む
★浩二視点の物語も同時連載中です。
よかったら、ご賞味くださいませ。^^
『ひまわり~この夏、君がくれたもの~』

【オリジナル小説検索サイト・恋愛遊牧民R+】
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

処理中です...