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第四話 【秘密】後ろめたさの理由。
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しおりを挟むアイツめ!
浩二のヤツ、私に嘘をつきやがったな!
仮にも、三ヶ月年上の従姉様に、嘘を教えるなんて良い根性じゃないか。
よーし、文句を言ってやらなくちゃ!
壁掛け時計をチラリと確認すると、十時を少し回ったところ。この時間なら、さすがにもう会社から戻っているはず。私は、すぐさま『おじさんち』。つまり父の弟の家である、浩二の実家に電話をかけた。
『はい、佐々木です』
「こっちも佐々木です」
都合が良いことに、浩二本人が電話に出たので、ぶすっとした声で名乗ってやった。
『んあ? なんだ、亜弓か?』
あちらさんも晩酌中だったのか、声に酔っぱらい臭が漂っている。
『珍しいな、どうした? お袋にでも、用があるのか?』
実にのんびりした声音に、なんだかムカッ腹が立ってくる。
おばちゃんに、用はない。アンタに用があるのよっ!
「亜弓かじゃないわよ! 浩二、アンタ、私に嘘を教えたでしょ!?」
『嘘ぉ? 何じゃそりゃ。何のことを言ってんだ?』
ほうほう、おとぼけなさる。
昔、子供の頃。
一人じゃどこにも出掛けられなかった弱虫のアンタを、魚釣りやカブトムシ取りに連れて行ってあげた恩を忘れたか、泣き虫浩二!
「伊藤君のことよ」
ドスの利いた声で言ってやったら、浩二は電話の向こうで一瞬声を詰まらせて、『あ、ああ、なんだ、そのことか』と、ポツリと呟いた。
『もしかして、今日のスポーツニュース、見たんだ?』
「見た。偶然だけどしっかり見たわよ、華麗なる逆転ゴール」
『……ふうん』
「ふうんって、伊藤君は高校の体育教師になったんだって、浩二、言わなかったっけ? 何で、プロサッカーチームで、ご活躍しているわけ?」
『まあ、なんだ、あれだ』
「なによ?」
『一度は、堅実に公務員になったものの、夢を、諦められなかったんだと』
「え?」
『だから、体育教師を辞めて、最後のチャンスだと思ってプロテスト受けたんだ。したら、見事に合格したとそう言うこと』
夢を、諦められなかった――。
こうと決めたら絶対引かない意志の強そうな、まっすぐな黒い瞳が、脳裏に浮かぶ。
それだけなのに。胸の奥がどうしようもなく、ざわめく。
「そっか……。そういうことだったの」
とても、彼らしいな。
そう思っていたら、ふうっと、電話の向こうで浩二が大きなため息を一つ吐き出した。
「何? 悪かったわよ、嘘つき呼ばわりしちゃって。ほらさ、知ってる人がテレビに出てたもんでビックリしちゃったのよ、ゴメンね」
さすがに気がとがめて、素直に謝った。
『それは、別に良いけど。……亜弓、今、付き合ってる男いるんだよな?』
「は? いるけど、なんで?」
脈絡のない質問に、浩二の言わんとすることが掴めず、眉を寄せる。
私に彼がいたら、どうだと言うんだろう?
伊藤君がプロサッカー選手になったことと、どんな繋がりが?
『いや……』
電話の向こうに流れる、微妙な沈黙。
何だか、何かを言いたいけど『ためらっている』そんな感じ。こんな浩二は初めてだ。
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