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第八章 覚 醒 《Awakening》

128 夢の跡

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――たぶん、芝植えとは言え、後頭部を地面にしたたか打ち付けたんだと思う。

 ゴチンと言う小気味よい音と共に、目から火花が散った気がする。

 玲子ちゃんの頭は何とか、自分の体でホールドできたと思うけど。

 カッコ良く決めたつもりなのに。

 ああ、私って、つくづく間が抜けてる――

 と悲しくなりながら、世界が暗転。

 どのくらい気を失っていたのか、

「優花――」

 と、名を呼ばれた気がして、ふっと目を開けた時、視界の先にある空はもう、茜色に染まっていた。

 秋の夕暮れの空気は、ピンと張りつめていてどこか冷たい。

 物寂しく薄く広がる、秋の鰯雲。昼の名残をその空に残し、黒く沈んだ森の木立の向こう側へ沈みゆく太陽の残照が微かな光を投げかけてくる。

 ここは?

 一瞬、自分がどこに居るのか混乱し、すぐに晃一郎に連れられて来た自然公園だと思い出す。

――あ、あれっ!?

 グリードは、玲子ちゃんは、晃ちゃんは!?

 泡を食ってあたふたと立ち上がり、周りをキョロキョロと見渡してみても、人っ子一人見当たらない。

 足元には、自分のカバンとペットボトル入りのお茶が一本。

 さっと一気に頭から血の気が引いて、思わず自分を両腕でかき抱く。

「まさか、今までの、全部夢……とかないよね?」

 そんな、そんなの嫌だ。

 パラレルワールドに行ったことが、夢だなんてそんなこと。

 銀髪の優花さん。

 茶髪の玲子ちゃん。

 博士に、リュウ先生にアリスちゃんに、ポチ。

 それに、それに、晃ちゃん。

 出会ったことが現実じゃないなんて、そんなの絶対いやっ!

 視界が、グニャリと歪んだ。

 悲しいのか、切ないのか、やるせないのか、怖いのか。

 ごちゃ混ぜになって喉の奥から込み上げてきた熱いものが、堰を切って溢れだそうとしたその時。

「アホか。んなことがあるかよ」

 背後から飛んできたやたらと明るい声に、心臓を鷲掴みにされて、文字通りビクっと飛び上がった。

 恐る恐る振り返ると、目に飛び込んできたのは、夕日を浴びて一層明るく感じる金色の髪。

「晃ちゃ……」

 名を呼ぼうとして、不覚にもポロリと涙が一筋、頬を伝い落ちた。

 ゆっくりと歩み寄ってきた晃一郎は、「何泣いてんだよ?」と、両手の親指の腹で、涙に濡れた頬を拭ってくれる。その穏やかな表情と温もりが心にしみて、再び涙があふれ出す。

「っ……」

――ばかっ。

「こんな時に優しくしないでよっ。よけいに泣けてくるじゃないっ!」
「なにか誤解があるな。俺は、女には、いつも優しいぞ?」
「ええ、そうでしょうとも。そうでしょうとも」

 優花のせいいっぱいの虚勢に、うん? と片眉を上げて、ニヤリと笑うその表情がまるでガキ大将のようで、思わず笑ってしまう。

――ああ、こんな時なのに、なんだか、涙と鼻水でぐしょぐしょだ。

 そう、もうタイムアップ。

 もうすぐ、晃ちゃんは、元の世界に戻らなければいけない。

 今度こそ、本当にさようならだ――。

 顔を上げていられず、思わず足元に視線を落とすと、大きな手で頭をグリグリ撫でられた。

 思えば、こうして撫でられるのも、そんなに嫌いじゃなかった。

「良く頑張ったな」

  静かな優しい声が、心にしみてくる。

――晃ちゃんが居てくれたからだよ。
だから、私は頑張れた――。

 想いは言葉にはならず、ただコクリと頷く。

 
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