114 / 132
第八章 覚 醒 《Awakening》
114 戻ってきた現実
しおりを挟むうつら、うつらと、夢と現実の狭間を、どのくらいたゆたっていただろうか。
「優花――優花ってばっ」
優花は、自分を呼ぶ聞き覚えのある声に反応して、パチリと目を開けた。
白い天上と、白い壁。アイボリーのカーテン。
研究所の病室?
海辺のコテージ?
それとも、リュウ邸の私室?
ううん違う。ここは、高校の――。
「保……健室?」
やけに鮮明な、鮮明すぎるビジョン。消えかけている玲子の思念を繋ぎとめようと、必死で抱きしめたその体。
苦しくて、悲しくて、自分の無力さがむなしかった。
今のは、ただの夢?
それとも……?
あまりにリアルな夢の余韻が冷めやらず、もしかしたら、今こうして見ているのも夢なんじゃないかという不安がよぎり、思わずギクリと体を強張らせる耳に届いたのは、聞き覚えのある女性のハスキーボイス。
「脅かさないでよ、まったくー!」
金縛りにあったように身をこわばらせる優花の視界に、眉根を寄せた玲子の顔が、ヌッと入ってきた。
濃紺のブレザーと、グレーのプリーツスカート。エンジのネクタイ。
見慣れた、高校の制服姿だ。
栗色ではなく、黒いセミロングの癖っ毛が、フワリと揺れている。
「玲……子ちゃん?」
その元気な姿に、思わずポロリと涙が一粒頬を伝った。ぎょっとした玲子がヨシヨシと優花の肩をなでてくれる。
「どしたん? また怖い夢でもみた?」
「ううん大丈夫。寝すぎて涙が出ちゃっただけ」
この手の温もりこそが現実だ。
やっと夢の世界から現実に戻ってきた。そんな脈絡のない安心感が、強張っていた体の力をスウっと抜いてくれる。
作家希望の、完全無欠のリアリスト。親友の見事なまでの存在感に、思わず優花は感謝した。
「ならいいんだけど。優花ったらいきなり倒れるんだから、さすがのアタシもビビったわ。保健の先生は留守だし、どうしようかと思ったよ……」
そうだった。
トイレで晃ちゃんに呼び出されて、話しているうちに、クラッと来たんだっけ。それで保健室に運ばれて眠っていたのか。
――なんだか途中で一度目が覚めて、晃ちゃんと話した気がするけど……。
きっと、気のせいだよね?
「あはは……、ゴメンね。貧血かなぁ?」
――あんなスペクタクルな現実が、あるわけないよ。
そう。
たぶんあれは、今までに見たドラマとか漫画の中身がミックスされてできた、ファンタジーな夢。
スーパー超能力者でお医者様な晃ちゃんと犬猿の仲の玲子ちゃん、素敵な無自覚乙女キラーの鈴木博士。やさしい天使の笑顔のリュウ先生と可愛いいアリスちゃん。それに、白い翼付のワンちゃん、ポチ。
自分の想像力の豊かさに、思わず苦笑いしてしまう。でも、そう安堵する心の片隅に、なぜだか言いようのない痛みが走った。
「大丈夫? 保健の先生、捜してこよっか?」
心配げな玲子の言葉に、ハッとして優花はフルフルとかぶりをふる。
「ううん、もう平気。なんだか爆睡しちゃったね。今何時くらい?」
すっかり元に戻った体調を確かめながら、白いパイプベッドに身を起こして質問すると、玲子は腕時計に目を走らせる。
「今ちょうどお昼休みだよ。丸々四時間目の歴史の授業中寝てたかな。時間はね、うーん、倒れて保健室に運んでから五十分くらい? ねー、御堂?」
――えっ、晃ちゃん!?
「……ああ、そのくらいだな」
ベッドの足元側。
半分引かれたカーテンの陰から響いてきた静かな低音ボイスに、ドキンと鼓動が跳ね上がった。
0
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる