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第七章 記 憶 《Memory-5》
105 二兎を追う者は一兎をも得ず
しおりを挟む職場である研究所の自分の執務室で、美代さんに、門に設置されている防犯用監視モニターの映像をパソコンに送ってもらったリュウは、晃一郎と一緒に再生した映像を食い入るように見つめていた。
車種やナンバーを確認したが、玲子の車に間違いない。映像を見る限りでは、運転手も玲子本人だ。玲子の会社へ電話確認をしてみれば、「村瀬は本日欠勤しております」との答えが返ってきた。
晃一郎がもしかして無断欠勤かと尋ねれば、社員の素行をばらすわけにはいかないのか、そうだとは言わなかったが、きっぱりと否定しない態度は肯定しているようなものだ。
「いったい、どういうことだ?」
電話をきった晃一郎が、イライラとした様子でパソコンの画面を睨みつけていう。画面には、ハンドルを握る玲子と、隣で楽し気に笑う優花の静止画が映し出されている。
「単にお忍びで外出、的なことならいいんですが。偽電話まで用意したとなると……」
「問題は、村瀬が本物かどうかってことだが、どう見ても本物だな」
超能力を使ってその人物になりすますことは可能だが、なりすましが可能なのは、あくまで肉眼で見た場合だ。機械的なモニター画像では、ごまかしは効かない。つまり、この画像から判断するなら、優花を連れ出したのは、村瀬玲子の車を運転する村瀬玲子の姿をした人物。つまり、玲子本人ということになる。
「玲子さんが操られているケースも考えられます。それに、あまり考えたくはないですが玲子さん本人の意思で行っているケースも考慮しなければならないでしょう」
イレギュラーの優花の超能力を欲する人物、ないしは組織の手先として玲子が動いているなら、ことはもっと深刻になってくる。目的が優花の超能力ならば、その人物ないし組織がまっとうなはずがない。
「くそっ、思わぬ伏兵がいたもんだ」
これなら、まだ政府に拘束された方がましだ。犯罪に利用される心配はないし、最悪、命を奪われることはない。
「そうですね。ボクはすでに電話で話していることになっていますから、君が優花ちゃんに電話してください」
「村瀬じゃなく、優花にか?」
「そうです。ESP抑制シールド用のカチューシャをつけられているようですから、たぶん、テレパシーは通じません。だから、とにかくポチの首輪を外してもらってください」
「その隙に、テレパシーでポチに、今の危機的状況を説明するわけか」
リュウは神妙な面持ちで頷く。
力が十分に発揮できない優花よりは、ポチの能力に賭けた方が安全だ。
「ポチがケルベロス化すれば、優花ちゃんを連れて空間移動で逃げ出すことも可能でしょう。どうせなら、優花ちゃんだけじゃなくケルベロスも一緒に手に入れようという魂胆なのでしょうが、幸いそれが突破口になるはずです」
二兎を追う者は一兎をも得ず。
この際は、相手の欲の皮が突っ張らかっていたことに感謝、というところか。
意を決して、晃一郎は携帯端末を手に取り、優花の携帯端末を呼び出した。
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