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第六章 記 憶 《Memory-4》

93 天使のような兄妹

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 車を降りると、初老の男女が笑顔で出迎えてくれた。若干ふくよかな体系の女性は濃紺のワンピースに白いレースのエプロンをかけた、いわゆるメイド服、やせぎすの穏やかな雰囲気のメガネをかけた男性は、黒い執事服を身にまとっている。

「リュウ様、おかえりなさいませ」
「ただいま。晃一郎は面識があるよね。こちらの可愛らしいお嬢さんが優花ちゃんだ」

 「ようこそいらっしゃいませ」

 笑顔で出迎えてくれた二人は、この屋敷と言う名のお城に夫婦で住み込み、切り盛りしている森崎夫妻。二人とも黒髪黒目の生粋の日本人だ。

「お腹が空かれたでしょう? 夕食ができてますから、まずは食堂へどうぞ。お荷物はお部屋の方へお運びしておきます」
 
 との森崎氏のありがたい申し出に、リュウに伴われた晃一郎と優花、そしてやっとキャリーバックから出してもらえたポチは、屋敷へと足を踏みいれた。

 やたらと広い。そして煌びやかだ。

 大理石敷きの玄関フロアは吹き抜けになっていて、天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がっている。

 だいぶ秋めいてはきているが、外はまだ夏の名残りで若干蒸し暑い。しかし屋敷の中はちょうど良い温度と湿度にコンディショニングされていて快適だった。

――すごいなぁ。こんな世界があったなんて、カルチャーショックだ。ああ、シャンデリアのキラキラがまぶしい……。

「アホ面になってるぞ?」

 優花がひたすら感心しつつ、お上りさんよろしく上を向いて歩いていたら、隣から晃一郎がすかさず突っ込みを入れてきた。

――失礼な。

 とは思ったが、ぽかんと口が空いてしまっていたのは確かなので、無言で口元を引き締める。すると、どこからともなく、食欲中枢を刺激するおいしそうな匂いが漂ってきて鼻腔と腹の虫を刺激した。

 思わず、ぐうとお腹がなってしまい、優花は真っ赤になってうつむいた。

 事前に『夕食は家に着いてから食べましょう。家のコックは天下一品ですよ』とリュウから言われていたため夕食はまだ食べていない。実を言えば腹ペコなのだ。

 ポチはもう夕飯分のドッグフードをいつもの時間に平らげていたが、優花の足元で『ごはんーごはんー』と、無邪気にはしゃいでいる。

「さあ、ここですよ」

 リュウが木製の重厚なドアを開けようと取っ手に手を伸ばそうとした時、それよりも一瞬早く扉が内側に開いた。

 そして響いた、ハイトーンの可愛らしい声。

「兄さま、お帰りなさい!」

 いっそう強くなる料理の匂いと共に姿を現してリュウに抱き着いたのは、まるでフランス人形のような美少女だった。

 年の頃は七、八歳。少女らしい丸みを帯びた頬はほんのり桃色に染まっているが、それ以外の肌は白磁のように透き通っていて、淡いピンクのワンピースが良く似合っている。

 緩くウエーブのかかった長い髪は、プラチナブロンド。長いまつ毛に縁どられた大きな瞳は、海のように深いブルーで、リュウとよく似ていた。

「なんだ、先に寝ていなさいって言ったのに、起きていたのかいアリス」
「だって、兄さまと一緒にご飯が食べたかったんですもの」
「仕方がない妹だ」

 年の割に大人びた物言いをする妹を優しくハグすると、リュウはその滑らかなほほに、キスを落とす。

――うわぁ。大天使ミカエルさまと天使エンジェルだぁ。

 世の中に、こんな絵になる兄妹がいるなんて。

 一瞬、空腹を忘れて優花は感動してしまう。


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