上 下
89 / 132
第五章 記 憶 《Memory-3》

89 胸が痛む理由

しおりを挟む

 その日の夜、八時ジャスト。
 電話での言葉通り、リュウは玲子を伴って海辺のコテージに訪れた。

 差し入れの大量の食料品や衣料品、その他の生活必需品をざっと片付けて、優花と晃一郎、リュウと玲子の四人とポチで賑やかな夕食タイムとなった。

 リビングスペースにある応接セットで、買い出して来たパーティー用の握り寿司をつまみながら、「やー、おめでとう優花。これであなたも、一人前のエスパー。お赤飯を炊いてお祝いしなくっちゃね!」と、優花の対面に腰を落ち着けた玲子は、優花の髪色の変化を、おどけながらも手放しで喜んだ。

「その髪、とても綺麗ですよ、優花ちゃん」

 玲子の隣で、成人の特権とばかりに一人、ワイングラスを傾けていたリュウも、ニコニコと笑みを深めている。

 だが優花本人は、かなり複雑だった。

 はっきり言って優花は生粋の日本人顔だ。つまり、金だの銀だのという明るい髪色は、絶望的に似合わない。コスプレかと自分で突っ込みたくなるほど、カツラを被っているみたいな違和感がどうしても付きまとってしまう。

「本当に、変じゃないかな?」

 おそるおそる隣に座る晃一郎に尋ねてみれば、なぜか優花の膝の上が特等席とばかりに鎮座している『ポチ』に、話を振った。

「別に、変じゃないだろう?」

『うん。へんじゃない。とっても、すてきー。ゆーかは、どんなかみのけでも、すてきなのー』

 ハイトーンの、可愛らしい声が、間髪入れずに返ってくる。

 その姿はケルベロスのときとは打って変わった、丸いフォルムの、白い綿毛のような愛らしい小型犬のものだ。

 声を掛けると、はちきれんばかりに振られる、小ぶりの尻尾。
 柔らかな体毛と、少し高めの体温。
 そして、この舌ったらずの、可愛らしいハイトーンの声。

『ケルベロス』のときは、普通に大人と話している感じだが、『ポチ』のときは、どうも精神年齢が、四、五歳くらいに退行するみたいだ。ただどちらの姿になっていても、優花に対する全幅の信頼、それは揺らぎない。

 こうも全身全霊で大好きオーラを出されると、もうダメだった。もともとの動物好きもあいまって、優花はもうすっかりこの風変わりのワンちゃんに、めろめろだ。

「でも、ポチが帰ってきたとなると、いよいよ、優花も元の世界に戻れるね」
「え?」

 少しさびしげに言う玲子に問われ、優花は、初めて今の状況を飲み込めた。

――そうか。

 もう一人の優花が言っていた、『ESP増幅能力を持った、とても可愛らしい、そしてかなり強力な助っ人』それが、ポチだったんだと納得がいく。

 優花の、空間移動テレポート能力。そして、時空を自在に飛べると言う『ケルベロス』ポチの、ESP増幅能力。

 後は、この二つを持って優花が現れた『場所』に行くだけでいい。

 それで、元の世界に帰れる。
 それは、心から待ち望んでいたこと。

 事故後の、両親の安否も気がかりで仕方がない。帰りたいと、何度、枕を涙でぬらしたことか。

 嬉しい。
 とっても、嬉しい。だけど――

 心の奥が、ギュッと締め付けられるように、痛むのはどうしてだろう?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜

k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」 そう婚約者のグレイに言われたエミリア。 はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。 「恋より友情よね!」 そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。 本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。

処理中です...